31話〜ダメ出しばかりの反省会〜
「ぐ〜〜〜っっっ!!!!!」
「ふはは、非常に残念だが、あなたは現在の僕よりも強いようだ。良いだろう、僕の師匠になる事を許可する!」
ティルテとの勝負に圧倒的大敗を喫したルナとゲラーデルの2人。ルナは項垂(うなだ)れてただ叫んでいた。
一方ゲラーデルはティルテの実力を正しく理解し、しかしあくまで自分が上かのような振る舞いで偉そうに言っていた。
「……お前たちはこの程度で己が強いと勘違いしていたのか? お前たちを一瞬で倒したこの俺ですら、その限界すら見えていないと言うのに……」
ティルテは本当に真剣な表情でそう呟く。しかしこの結果はティルテが異常すぎただけだ。だがそのティルテ自身も己を正しく認識し、さらに強くなろうとしている。
「ふむ、だが僕はいずれ至るさ。圧倒的な才能があるからね! それよりも、早速教えて欲しいのだが?」
「お前、意欲自体はあるのか。分かった、こちらも仕事だ、色々と指導しよう」
ゲラーデルはティルテにそんな言葉をかけられても一切へこたれる姿は見せず、先ほどまでとは違い素直にティルテに教えを乞うていた。
ティルテもそんなゲラーデルの認識を改め、自分流に鍛えようと考える。
「……それで、お前は一体なんなんだ? ずっと俺に意味不明に突っかかってくるルナ、お前だ。俺が何かしたのか?」
「う、うるさいです! ……でも、実力は認めてやるのです。お前のランクはコネの力じゃなかったです……」
(あぁ、こいつは俺の冒険者ランクの更新速度の速さから、コネか何かだと勘違いしていたのか)
ティルテに鋭い目線を向けられたルナは居心地が悪そうに、微かに頬を赤らめて逆ギレする。……だが次第に大人しく、己の間違いを認める。
「お前のさっきまでの態度は理解した。その事は今はどうでも良い。俺はさっきの戦闘で見ての通り、剣も魔術も使える。そして俺はお前たちに、十日以内にCランクの実力をつけてもらうつもりだ」
「望むところだ」
「やってやるです」
一度ティルテの実力を把握した2人に最初の酷い態度は消えていた。
そしてティルテはCランクの実力を付けてもらうと言っていたが、ゲラーデルもルナも戦闘能力だけなら既にCランク相当だ。
「お前たちは新人。パーティを組んだ経験は無い、合ってるか?」
「その通りだねぇ」
ティルテが己の考えを確認するように質問すると、ゲラーデルが肯定する。
「俺はさっき、お前たち2人に臨時のパーティーを組んで俺を倒すように指示した。だが2人とも何の打ち合わせもせず、普段の自分たちの戦い方だけをしてしまった……合ってるだろ?」
「……悔しいけどその通りなのです」
ティルテからされる指摘にルナは目を合わせずに下を向いてそう答える。
「2人なら理解しているかもしれないがあえて言おう。あの時話し合いをしなかったのはなぜだ? 先ほどのは模擬戦、そちらが申し出れば、幾らでもお互いの情報を共有できる時間はあったはずだ。俺も直接は言わなかったが促した。なのにそれをしなかった。……お前たちの油断と思い上がりの結果だ」
「ぐっ」
「〜〜っ!」
ティルテの言葉に2人は悔しそうに口をつぐむ。
「……半端な実力を持ったお前たちを、俺は不憫に思う。本来なら認識できるはずの事を、お前たちは飛ばしてしまったのだから」
「……それは一体?」
ティルテから告げられる、もっと先へと行ける成長の可能性を聞かされたゲラーデルが不思議そうに尋ねる。
「心構えと他人を頼る事だ」
「……どう言う事です?」
ティルテの言葉にルナが反応する。しかしその反応は案の定理解していないことが丸わかりだった。
だが今は素直にティルテに尋ねることができたと言う成長を喜ぶべきだろう。
「まず、お前たちは自分の過大評価でここまで圧倒的に負けたんだ。ゲラーデル、お前は俺に吹き飛ばされるなんて思っていなかっただろ?」
「……あぁ」
「俺が真正面から力のぶつかり合いを選んだ時点で、何かあると見抜けなかったお前の責任だ」
ティルテの体格は良いとは言えない。それなのにゲラーデルに一直線に向かってきたことに疑問を持つべきだったとティルテは言いたいのだ。
「いやそれはティルテさんが速すぎて避けるなんてーー」
「お前は盾で受ける判断を下して実際に成功している。盾で受けるのではなく避けるべきだった。お前ならできたはずだ」
「……」
ゲラーデルは盾で守りながら片手剣で倒す戦法をメインに使っている。だがそれを否定された。
しかも指摘されたことは実際に出来たかも知らないこと。ゲラーデルは何も言えなかった。
「己の役割を果たそうとするのは良い。しかし臨機応変にするべきだな」
「……了解した」
ゲラーデルも理解はしている。しかしあまり納得は出来ていないようだった。
それも仕方がない話だろう。むしろあれだけ善戦出来たことの方が凄いのだ。
「もう一つ、魔術師であるルナが後ろにいるにも関わらず、彼女は援護することができなかった。それは魔術師がいると認識しておらず、敵との射線状にお前が立ち続けたからだ」
「……理解した。僕は普通の認識しかせず、さらに独りよがりな戦い方しかしなかったんだね」
「その通りだ。それで勝てるのならそれでも良い。事実、俺はそうだしな。だが、今回のようなことが起こる事もある」
「ならば、僕はどうすれば良い?」
「今の2人はパーティだ。お互いを知り、自分のことを教え合う。そうすれば魔術による援護も受けれたはずだ」
ゲラーデルはティルテの言うことを全て聞き、分からないことは全て尋ねる。
自分のことは自分で考える能力も必要だが、今のティルテは2人を育成する立場にある。成長するためならなんでも答えるだろう。
「次にルナだが……お前もお前だ。俺が剣を持っているからと言って、魔術が専門のお前よりも魔術が使えないと色眼鏡で見ていた。だから隙が生まれた」
「〜〜っ! ……はい、です」
「それにゲラーデルがお前の斜線を遮っていたことだがーー」
「その通りです。攻撃魔術が一切打てなかったのです!」
ティルテに事実を言われて悔しい思いをしたルナが、ここぞとばかりに反論をする。
「ならば何故お前はその場から動かなかった?」
「そ、それは……」
「はぁ、お前たち2人は他人を使い、他人に使われる、他人を頼り、他人に頼られる……そのことを理解していない。新人パーティですら、お前の出来なかった行動はできるぞ?」
「…………」
しかし当たり前の反論を食らい、ゲラーデル同様何も言わずに黙り込んだ。しかもプライドのより一層高そうなルナと比べたのは初心者冒険者だったのだから。
「ゲラーデルがやられている時、お前はゲラーデルに「何やってんだ」と言った。あくまでゲラーデルはただの他人の認識。自分に直接的な被害が出るまでは、ただの傍観者を決め込んでいた。逆だった場合、ゲラーデルは前衛として守りに行っただろう。まぁ、あくまで前衛だったからだろうが。こごまで理解しているか?」
「……痛いほどにね」
「……はいなのです」
先ほどの一瞬で終わった戦闘だけでここまで指摘されるとは思わなかったのだろう。2人とも項垂れて卑屈にでもなってしまいそうなほどだ。
「そのお前たちの心構えと独りよがりな行動を、今日から俺がお前たちを矯正する。覚悟しておけ、命の賭かる職業だ。命の危険無くして上達はしない」
「あ、あはは」
「じょ、冗談です?」
ティルテから告げられる死ぬかも宣言を聞かされ、2人は顔を引きつらせてルナが聞き返す。
「ふ……」
「何だいその笑い方は!?」
「嫌です! 勘違いだったのは謝るから許してくれです〜〜!!!」
ティルテが浮かべた微笑を見たゲラーデルが思わずを声を荒げ、ルナに至っては今日の態度が悪かったことから余計に恐ろしい想像をしたのだろう。
目を見張る速度でティルテに近づいたかと思うと腰に抱きついて半泣きになっていた。
その日はこれで解散となったが、2人はどんな事をさせられるかを怯えながら夜を過ごすこととなった。
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