21話〜ネタバラシ〜

「……ティルテさん、私の操る強力な魔物たちを倒し、樹林竜をどうやったかは知りませんが追い払った。……それをしたのがあなただったのですか? ギルド長ではなく?」


 神父がここに現れたティルテに対して、驚愕の表情をする。体と声も微かに震えており、明らかに動揺していた事が目に見て分かる。


「そうだ。ついでに言えば俺一人だぞ。ところでそっちの男は誰だ?」


 ティルテは神父が魔物たちを操っていると考えていたが、そこに予想外にもう一人いたのだ。素性を尋ねた。


「おいおい、ギルド長じゃねぇのかよぉ。まっ、ここまで来れるってこたぁ実力はあるだろ。俺は『暁の廃城』に所属するーー」


「もう良い、所属が分かれば十分だ」


「てめぇっ、いい度胸してるなぁ!」


 坊主頭の男が自己紹介をしている最中、ティルテは所属が判明した時点で会話を打ち切る。彼にとっては所属さえ分かれば、名前などどうでも良いからだ。

 その態度に坊主頭の男もキレる。相手から尋ねておきながら、一方的にもう良いと言われるのだ。それも当然だろう。


「待ちなさい。ティルテさん、あなたやはりと言いましたね? どう言う事でしょうか?」


「教えるわけがない。説明する義務があるのか?」


 神父がティルテの言葉から、自分たちが起こそうとしている事を前々から把握していた事にたどり着く。しかし、何故把握していたかは想像がつかないため、ティルテに尋ねた。当然ティルテが教えるわけはない。


「へぇ、ではここにいる魔物全てを、一斉に平野に向かわせましょう。いくら貴方でも、この数の魔物の侵攻を止めることはまず不可能なはずですが? ……さて、話す気になってくれましたか?」


「ちっ……。まぁ、良いか。まず、ここのアジトを潰したのは俺だ」


 神父の冒険者たちを人質に取る発言に、ティルテは舌打ち、しかめっ面をしながら話し始める。


「知っています」


「するとまぁ不思議なことに、俺を監視する奴が現れた。そいつを拷問して情報を吐き出させた。まぁ、たいした情報は無かったがな。あんたを怪しむ直接的な原因になったのは……これだ」


 ティルテがロザリオを取り出し、それを神父に見せる。


「このロザリオ、『聖神教』のシンボルらしいな。監視係が待ってたよ。教会に訪れた際に、あんたも付けてた。これで、監視係は『聖神教』の関係者と予測が付く」


「それだけですか? 偶然持っていた可能性もあるでしょう」


 ティルテが神父を怪しんだ動機を述べる。しかし、新譜はそれには納得しなかった。

 偶然、もしくは故意にそう思うように誘導する目的で待っているかもしれない、そう言いたかったのだ。


「いや、これはただ怪しむ程度の証拠だったさ。1番のミスは、あんた自身だ」


「私が? 一体何を?」


 ティルテが神父に向けて指を刺す。神父は訳が分からないといった顔をする。当然だろう。彼には身に覚えがないのだから。


「神父さん、あんたは俺の名前を直接会う前に知っていた。……理由は俺が『暁の廃城』の支部を一つ、潰していたからだ。教会に訪れた際、あんたは俺の名前を呼んでしまった。しかもその言い訳は『Bランク冒険者の』だ」


「この街でBランク冒険者は珍しいはずですが? それが何か?」


 ティルテは神父と直接出会った時、自分に反応した事を証拠として突きつける。しかし、神父はその説明では納得が行かないようだった。

 この街でBランク冒険者はゼファー、アリサ、そして最近昇格したティルテの3人のみ。

 彼の中では当然有名人として認識されているだろう。


「俺がBランクに昇格した事を話したのはシーナ、ヴァレット、ゼファー、アリサ、ギルドの受付嬢の5人だけだ。なぜあんたが知っている?」


「……!」


 しかし、ティルテの場合は違った。彼は自分のランクを自慢することもなく、また昇格してから時間がほとんど経っておらず、Bランクのクエストを受けてもいなかった。

 ティルテの口から漏れない限り、ほかの人間は知る術がないのだ。ティルテは事前にほかの人間には不必要に話さないように伝えておいた。

 あの仲でティルテのことを不必要に喋る人間はいない。なら何故目の前の神父はそのことを知っているのか。


「そう、あんたが俺の事を調べあげたからさ。調べあげた理由はここを潰したから。本来知らないはずの情報を言い訳に使ってしまった。俺が確信を持った瞬間だ」


 ティルテが全てのピースを組み合わせ、確実な証拠を突きつける。


「……なるほどなるほど。私のミスという事ですか……。このクソガキが!!! わたしの崇高な計画の邪魔をよくも!」


 神父はその全てを否定せず、むしろ感心したように何度も頷いた。そして少しの沈黙を破るように、豹変した態度でティルテへと罵倒を始める。


「崇高? 【堕天使】を召喚することが?」


「っ!? なぜそれを!?」


 ティルテは一切怯むことなく、彼の目的を告げる。神父は今までで一番驚いていた。


「あんたの教会の地下室に忍び込んだ。入り口の井戸からな。井戸が2つもあった。何も知らない人間なら、花に水を撒く用が多いからと錯覚するかもな。でも、俺は疑いを持っていた。覗いてみたら一つの方は水が一滴もなかった。あんたはもしその事を聞かれたとしても、『水が枯れてしまい仕方がなくーー』なんて言うつもりだったんだろうが、あんたを『暁の廃城』のメンバーと考えていた俺には通じなかったな。井戸から地下室に侵入し、計画の書かれた紙を見つけた。こんな大事なのすぐに燃やしとけよ。見つかるわけがないと思っていた慢心と、そっちの頭の悪そうな坊主頭の男のために残しておいたことは今想像がついた」


「なんだとぉ!?」


 坊主頭の男は全然話が理解できていなかったが、最後のセリフで自分が馬鹿にされていることだけは理解する事ができ、ティルテに威圧する態度で声を荒げる。


「静かに。……いやいや、お見事です。全部合っている」


 神父は坊主頭の男を黙らせる。そしてティルテの説明を聞き、神父はその洞察力と高い思考能力。弁の立つ口。高い戦闘能力。

 そして何よりも、【唯一神】の名前を聞くと言う信者にとって暴挙と呼べる所業。その全てに神父は惹かれていた。


「そして、これはその上での提案です。……あなた、私たちの仲間になりませんか?」


 神父が右手を差し出し、握手のポーズを見せて問いかける。


「……お前たちは何故【堕天使】を召喚しようとした? それは書いてなかった」


「それを言えば仲間になると?」


「さぁな。納得のいく理由も説明されずに仲間になれ? そんな博打に俺が乗ると思っているのか? 話さないなら俺は命を懸けてお前たちを皆殺しにしよう」


 ティルテは考えるそぶりを見せ、神父に【堕天使】を召喚する理由について尋ねた。

 しかし、今度は神父が交渉するように、いや脅すようにティルテに尋ねる。

 しかしティルテは神父の言葉を聞き、持っていた弓を構えて戦闘態勢に入る。


「いえいえ、あなたは私たちと似た臭いがします。さすがに同胞? を殺すのは気が引けます。私からあなたにとって有益な情報を話すことで、信頼して欲しいと言う気持ちの現れですね。では、お話ししましょう」


 ティルテの【唯一神】の名を聞く所業は、【邪神】を崇拝する神父にとっては同胞と呼べる者だった。

 故に、彼はティルテに信頼してもらうべく、彼の欲しがる情報を話すことを決意する。


「【唯一神】の眷属として【天使】が存在しました。ですが、【邪神】にも【神剣】以外で眷属がいたのですよ。これは教会の上層部しか知り得ない情報です。私はそれを偶然知ってしまったのです。その【邪神】の眷属こそ【堕天使】です。私たち『暁の廃城』は【堕天使】を召喚し、この国を滅ぼす事。それが私の目的なのです!」


 神父は生き生きと喋る。自分の好きなことは早口で説明してしまう事があるが、それと似たような感じだ。

 彼にとって【堕天使】召喚は己の人生の目標みたいな物なのだろう。


「……にわかには信じがたいな。しかし一考の余地はある。……待て、私の目的? これは組織の目的ではないのか?」


 ティルテは目を細め、その事をあまり信じていないように見せる。しかし、神父に対してその考えに納得するかどうかを迷う姿勢を見せた。

 ティルテはこうする事で、神父からさらなる情報を引き出そうとしているのだ。


「左様ですね。しかし『暁の廃城』は全員【邪神】を崇める信徒なのです! つまりその眷属である【堕天使】を召喚する事は、きっと御喜びになるでしょう! さぁ! あなたもぜひこちら側に!」


 神父はティルテに告げる。彼の言葉は最初の「左様ですね」のみ真実である。

 つまり今回の出来事は組織『暁の廃城』の目的ではなく、ただの組織を利用した神父の私利私欲であった事が判明する。


そんな彼は両手を握りしめて、【邪神】に祈るポーズをする。

 それが終わると再びティルテに手を差し伸べる。お前の質問に答えた。次はお前がこちら側に来るべきだ。神父はそう思っていた。


「……断る。街の人間を生贄に【堕天使】を召喚するなんて許されるはずがない」


 当然、ティルテは最初から断る気でいた。彼にとって今一番重要なのは、自分の目的だ。今回神父が起こそうとしている事は、彼にとっても有益な話になるだろう。

 しかし、それで『クローツェペリンの街』の住民を皆殺しにするような事はあってはならないとティルテは考えている。

 彼には今、守るべき約束がある。ティルテはシーナやヴァレットと約束したのだ。必ず守ると。

 その約束を違える行動を、ティルテが取る訳がない。


「……そうですか。残念ですね。では、まずはあなたから生贄になってもらいましょう! いけ、私の操る魔物たち!」


 神父は本当に残念そうに、目を細め自傷気味に笑みを浮かべた。俯(うつむ)き、その背中は坊主頭の男から見ても、その背景さえ知らなければ哀れに見えていた。

 しかし神父はすぐに立ち直ると、口元をニヤリと笑いティルテを殺すように魔物たちへと指示を出した。


「はぁ、《焔纏ほむらまとい》」


 ティルテは神父の行動に呆れ、ため息をつく。そして弓を構え、《焔纏》と唱え魔術を発動させる。

 すると、矢に紅蓮の炎が宿る。赤々と燃えるその炎は、弓や矢を燃やす事なく燃えていた。


「貫け」


 ティルテが矢の手を離し、《焔纏》の付与された矢が大量に彼へと襲い掛かる魔物へと放たれた。

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