18話〜ギルドからの緊急召集〜
ティルテが教会を訪れた次の日、ティルテは冒険者ギルドに向かっていた。早朝にギルド職員がティルテを呼びにきたからだ。
ティルテとしては断るわけにはいかない。呼び出したのはギルド長であるハイゼ・アグラス。
ティルテはすぐに冒険者ギルドへと赴き、受付嬢にギルド長室へと案内される。
「主役は遅れて登場する、か。まったくもってその通りだね」
ギルド長のハイゼがティルテがギルド長室に入るとそう言ってきた。
「俺が主役と呼ばれる意味は分からないが、待たせたな。……ゼファーとアリサもいるのは予想外だった」
「よっ、2日ぶりだなティルテ」
「本当に2日前はこの馬鹿がごめんね〜。大丈夫だった〜?」
ギルド長室にはギルド長、そして呼び出されたティルテの他に、同じBランク冒険者のゼファーとアリサもいた。
アリサが2日前、ヴァレットとのデート中に話しかけてきた事をゼファーに代わり謝る。
「問題はなかった。それより、俺とゼファーたちを呼び出した理由を聞かせてもらおうか。見たところBランク冒険者しか集まってない。この街にBランクはこの3人だけのはず。これで全員だろう?」
ティルテが来てからこんな召集は一度もなかった。しかも一番ランクの高い者だけが呼び出されているのだ。
「あぁ、君の言う通り、呼び出したのはこれで全員だ。……昨日の夜、『ニンギュルの森』からCランク冒険者パーティが命辛々逃げて来た。魔物の大群を目撃、一部と遭遇したと証言している」
「……裏は取れているの〜?」
ハイゼから告げられる衝撃の事実に、アリサが間を開けて尋ねる。いつもにこにこしている表情は今日はなりを潜め、初めて見る真剣な表情だった。
「もちろんだとも。今朝、ギルドの偵察部隊が大群の存在を確認した。その数……少なくとも千匹以上……。魔物の大群がこの街に向けて進行中であり、2日後に『ニンギュル平原』へと侵攻する予定だ」
「……はは、マジでか」
魔物の数、そして残された日数を考え、ゼファーが目を丸くして苦笑いしながら呟いた。
「さらに一等域の魔物も数体確認されている。明日ギルドで冒険者たち、そして街の人間に伝える予定だ」
「なるほどな。その時混乱が起きることは間違いない。ランクが高い俺たちが、率先してほかの奴らを統率しろってことか」
ゼファーがその情報とここに集まった人のランクを見てそう判断する。
「街の住民の避難はしないのか?」
ティルテがハイゼに尋ねる。魔物が襲ってくると分かっているのに、そうしない理由が分からなかったからだ。
「『クローツェペリンの街』は三方を『ニンギュルの森』に囲まれている。そして唯一森に囲まれていない『ニンギュル平原』に向けて、魔物たちは侵攻している」
「……あぁ、避難するところを魔物たちに見つかったら終わりだな。普通に戦うよりも、足手纏いを守りながら戦う方がきつい。それなら守る対象を一か所に、防壁のあるこの街に置いておくのも理解した。魔物到着が伝えた日の翌日なら、危険を犯そうとする者も少ないだろう」
ハイゼの説明に、ティルテはゼファーが分かっていなさそうだったので補足しながら、自身も確認するように口に出して喋る。
「他の街から援軍は来ないの〜?」
「魔物たちは少しずつだがこちらへと近づいている。確実に間に合わないだろう。それならできるだけ早く周りの被害の少ない森、平原で戦った方が良いと判断した」
戦力の補充はできない。だからこそハイゼは、出来る限り冒険者たちが他の街に逃げないように明日伝えるつもりだ。
「……で、こちらの戦力は幾ら程だ?」
「Bランク冒険者3名、Cランク冒険者14名、Dランク冒険者38名、それ以下が200名あまり。それと、今回は私が総指揮官として前線に出よう」
「おぉ! 元Sランク冒険者の実力が観れるのか!?」
ゼファーが目を子供のようにキラキラと輝かせながら、勢いよく尋ねる。
「あぁ。そして君たちには3つの小隊を作り、一人一人が率いてもらおうと考えている」
「待て、俺は一人で十分だ。足手纏いは要らん」
「……ギルド長、いやハイゼさん。俺もそれは反対だ。あいつらがティルテについて行けるとも、ついて行くとも限らない。ティルテは別働隊の遊撃部隊として、勝手にさせた方が役に立つ」
「否定できなさそう〜」
ハイゼの提案に、即座にティルテが難色を示し進言する。ゼファーもティルテの意見を擁護する意見を言い、それにアリサも同調した。
「それにーー」
「それに、俺もアリサと共に戦いたい。連携の問題もあるから、パーティごとに小隊を作った方が良いだろう」
最後にゼファーが自分の意見を言う。声の小さいアリサと若干被ったが、彼女はゼファーが言おうとしていることが自分と同じことに気づき黙った。
「……はは、やはりゼファー君、君は賢いな。無論、ティルテ君とアリサ君も」
「……どう言うことだ、ハイザさん」
そしてハイゼは笑いながら告げる。ゼファーはその態度に疑問を浮かべて尋ねる。
「俺たちを試したんだよ。ゼファーが間違った考えに対して進言するかどうかを。お前がきちんと周りの冒険者たちを見ているからこそできる事で。ギルド長に間違いは間違いと、はっきり言える度胸があるかどうかを」
(全く食えない爺さんだな。さすがは冒険者たちをまとめるギルド長だ。街の存続が掛かっているこの時に、後進育成を考えるなんて。……いや、こんな非常事態にも耐えられる人材でなければダメなのだろうが……)
「……マジでか?」
ティルテがゼファーにも分かるように説明する。アリサも同じように考えていたのか、何度も頷いていた。
「その通り。ティルテ君は作戦を聞いた途端に顔をしかめたからね。アリサ君もゼファー君も、少し考えてたどり着いたじゃないか。……実力だけじゃ無く、ちゃんと他のことにも気を回せる人じゃなきゃ、Aランクの称号はあげられないからね」
「「っ!」」
「……おいおい、もしかして……!?」
ハイゼの言葉にその場にいた3人が反応をする。その当事者であるゼファーだけは少し反応が遅れたが、その意味を悟り目を見開く。
「ゼファー君、君をAランク冒険者と認定しよう。既に規定の実績や魔物討伐数、クエスト達成数も満たしている。他の冒険者たちからの評判も合格点は取っているし、他の街のギルド長からも認可してもらえた」
「……っしゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」
ハイゼから聞かされる、Aランク昇格への事実。その言葉がゼファーの耳に入り、しばらく頭の中でぐるぐると回る。
そしてその意味をようやく理解したかのように、拳を握りしめ、嬉しさで震えながらその気持ちを体現するかのように大きな唸りを上げる。
「おめでと〜、ゼファー」
「良かったな」
当然その場にいたパーティメンバーのアリサ、そして冒険者のティルテがパチパチと手を叩き祝福する。
「あぁ、あぁ! ……ギルド長、俺は謹んでAランク冒険者として活動して行くぜ」
「はは、君なら出来るよ」
ゼファーは歯を見せて笑いはしゃぐ。だが次の瞬間には真剣な表情をし、片膝をつき、ハイゼに向けて宣誓する。
ハイゼはゼファーを立ち上がらせ、肩を叩きながら鼓舞をした。
「……でも、やっぱティルテが俺よりランク下はモヤモヤすんな。俺よりよっぽど強いのに」
ゼファーが少し納得のいかない顔をしながらティルテを方を見る。ティルテもその視線に反応する。
「ティルテ君ならいずれ、Sランクにだって辿り着くさ。それまで我慢したまえ」
「……まぁ、そうだな。お前も早くランク上げろよ」
ハイゼから告げられる、順当にいけばそうなる事実にゼファーも同じ事を思ったのだろう。納得して、ティルテに発破を掛ける。
「いや、俺もうこれ以上ランク昇格は望んでいない」
「「「……え?」」」
だが、ティルテの何事もないかのように呟いた否定の言葉。他の3人はそれを理解するのに少々の時間を労し、その一言を漏らす。
「Aランク以上になると、貴族から目を付けられるらしいな。わざわざそんな面倒くさい出来事があると分かっていて、ランク昇格を望むと思うか? Sランクなど論外だ」
ティルテは3人の動揺を気にすることなくその理由を淡々と告げる。
「……いや、貴族に雇われる可能性もあるんだぜ? むしろそれ目当てで冒険者やってるやつも一定数はいると思うぞ?」
高ランクの冒険者とならば、必然的に高ランククエストを受けることになる。高ランククエストは採集クエスト、討伐クエスト、共に達成することは困難だ。
そして達成した時に名前は自然と売れていく。そこで貴族に私兵として雇われた事例は珍しくない。
「それは俺にとっては面倒な制限を掛けられているとしか思えない。俺には目的がある。その目的に、俺の自由を奪おうとし、時間を無駄に浪費させる貴族は邪魔なだけだ。立場上、召集なんてされれば行くしかない。Aランクになって、それで目に止まってみろ。地獄だ」
「……そ、そこまで言うの〜?」
「あぁ」
ティルテがランク昇格をしない理由を告げると、アリサがもう一度確認するように尋ねる。
流石にそれは言い過ぎだろうと他の3人は考えていたが、ティルテの有無を言わせない、その為ならば人殺しも厭わない圧に、ゼファーとアリサは押し黙る。
「ティルテ君、その目的が何かは聞かないでおこう。それでも、君は冒険者を辞めたりはしないかい? これだけは教えてくれ」
そこで一番早くに動いたのはハイゼだ。元Sランク冒険者である彼は、出来る限りティルテを刺激しないように尋ねる。
「いや、目的が達成したら冒険者はやめる。冒険者になったのは、あくまでそれが一番な近道だと思ったからだ。まぁ、途方もない目的だ。数年以上は掛かる見込みとなっている」
「……ふぅ、そうかい……」
ハイゼはティルテの口からもたらされる事実を一語一句覚え、そしてすぐにはやめない事を確認する。彼は安心のため息をつき、そう返した。
「安心しろ。少なくとも目的を成し遂げるまでは冒険者は続ける。誓約書でもなんでも書いてやろうか?」
「いや、結構だ。君の言う事を信じよう」
ハイゼはその言葉だけを聞き、今しばらくは安心した。彼にとってティルテは将来、この国の未来を支えるべき人材の一人として認識されていたのだから。
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