12話〜ティルテ虐殺、のちデート開始〜

 『ハルカラ草』を五十輪集めるクエストを無事クリアしたティルテ。帰りにギルドに戻ると、ミハイルやゼファー、受付嬢がシーナの無事を祝った。


 その際にディノウルス変異種の素材、あとは溜まっていた魔石を買取に出した。

 魔石とは魔物の体内から獲れる魔力の込められた石だ。様々な用途があり、強い魔物から獲れた魔石は魔道具にも使われる。


 そしてハンナの店に立ち寄りもう2着、シーナが着る用の服を買った。

 シーナを見つけた瞬間に飛んだハンナを、女性店員が蹴飛ばして始末していたことが、2人の印象に強く残っている。


 ヴァレットの父親で得るケルガーが営む宿に戻り、夜ご飯を食べて部屋に戻り寝る準備、また明日の準備をする。

 ちなみに昼ごはんは携帯食を『ニンギュル平原』に行く途中で食べていた。


***


「……さて」


 ティルテの隣には抱きついているシーナがいたが、その手をゆっくりと剥がしてベッドから降りる。

 シーナの姿は昨日と同じようにサキュバスの見た目をしていた。

 まだ幼い彼女は自分の力をうまく制御できず、サキュバスとしての証を力が高まる深夜に無意識に出してしまうのだろう。


 ティルテが窓を開け、外を眺めるように顔を出す。そして自分を伺う相手の一瞬の隙をつき、窓から飛び出して通りに着地する。

 そして間髪入れずに走り、逃げる相手を追いかける。


(くそ! なんでバレた!?)


 男は『暁の廃城』から遣わされたティルテの監視係だ。男はクエストを終えた監視対象を尾行し続けていた。

 だが監視対象が急に起き、窓を開けて外を眺め出した。男の目にはそう見えていた。

 だがそう安心した次の瞬間、いきなり窓から飛び降りたと思った時には、監視対象が男に向けて走り出していた。


(とりあえず、今は巻くことが先決!)


 角を曲がって裏路地に入る。そして左右に分かれた道を左に曲がる。そこで男は止まった。

 目の前に監視対象であるティルテがいたから……ではない。

 ティルテが目の前にいること自体は正解だ。しかし止まった理由は違う。その男の足が、剣によって斬られていたからだ。


「ぐ、あっっっ!?」


「黙れ。《治癒》」


 足を切られた痛みで叫び出す監視係を、壁際に無理やり追いやり、ティルテが男の口に無理やり布で押さえつける。自害でもされたら困るからだ。

 布の端を壁と接着させた状態で凍らせ、外れないようにする。そしてこれ以上叫ばせないように足の痛みを止め、血が流れないようにだけした。


「これで痛みはないはずだ。『暁の廃城』だな? 首で示せ」


(割るわけないだろ)


 ティルテが剣を男の首に構えて尋ねると、男は横に首を振る。依頼主の口は割らない。それが監視役の義務だからだ。そうなるように調教されて育てられている。


「そうか、口を割らないなら拷問という手もある。受けたいか? 受けたくなければお前の知る全てを言え。どっちだ?」


 男は首を横に振る。


「……そうか、今からお前の四肢を切り落とす。傷は塞ぐから死なないし安心しろ。部位欠損は治さないがな。……俺は人間に遠慮はしない」


 ティルテの無表情さの奥底に眠る狂気を、男は感じた。体が震えだし、鳥肌が立ちまくる。恐怖。男が調教で感じないようにされていた物を、ティルテが呼び起こし始めていた。


「早く口を割ってくれると助かる。シーナを1人にするわけにはいかないからな」


 ティルテがそう言いながら、男の腕を切り飛ばした。悲鳴を上げることもできず、また瞬時に痛みも無くなる。だが、腕を切られたと言う事実は変わらない。

 痛みもなく、ただ己の一部が無くなる恐怖を感じたい男が首を縦に振った。


「戻るか」


 魔術で綺麗にしたした身嗜みのティルテが、裏路地を後にした。そしてその場所には何も無かった。血溜まりの跡も、肉片も何もかもが。


 ティルテが宿に戻る途中、先ほどの出来事を思い出す。さきほど拷問した男の胸元から出てきたロザリオ。

 これが何かを、いつかギルドの人間にでも尋ねようと考えた。


(今後、俺の身近な人間を害そうとするなら殺す)


***


「ん……〜〜〜」


 シーナがうっすらと目を開け、何度か瞬きを挟みながらもティルテを見る。明らかにまだ寝ぼけていると分かる表情だった。


「おはようシーナ」


「ん〜〜? ……ん、おはよティル……ふわぁ〜〜」


 ティルテがあいさつをすると、シーナは寝ぼけた風に疑問の声とも呼べない声を出し、ようやく意識が覚醒してきたのか、小さくあいさつを返す。

 しかしまだ眠たいのか、大きなあくびしてそれを手で隠せていないが隠していた。


「よく眠れたか?」


「ん。ティルが横にいたから」


「……そうか、そう言われると嬉しいぞ」


 あくびを見て質問したティルテだったが、シーナの無邪気な笑顔でそう返されるとさすがのティルテも一瞬動揺が走ってしまった。


「ティル、今日ってバレットお姉ちゃんと一緒?」


「そうだ。あとヴァレットだな」


「? ……うん! バレットお姉ちゃん!」


 ちょっと発音が違ったが、それも小さい子供なら別に問題はない程度。ティルテは無理やり言わせるべきではないと考えそう言うのをやめた。

 けっして、自信満々に答えたシーナの可愛さにやられたわけではない事は言っておこう。


「あ、ティルテさんおっはようございま〜す! シーナちゃんもおはようね!」


「おはよー!」


 2人が朝ごはんを食べて外に出ると、綺麗なフリフリの付いた、薄い水色のワンピースを着たヴァレットが外で待っていた。

 そして今日はいつもより丁寧に櫛でとき、いうにも増して艶のある金髪。

 いつもはポニーテールの髪型だが、今日は長い髪を真っ直ぐに下ろしつつも、ツーサイドアップ(小さいツインテール見たいな感じ)をしていた。


「どうですかこの服?」


 ヴァレットがくるりと軽く一回転をして全身を見せた。膝丈ぐらいまであったスカートと髪がふわりと舞う。


「似合ってる、可愛いぞ」


「ふぇっ!? えと、そ、そですか。……ありがとうございましゅ……」


 ティルテの真顔で素直に述べた感想が、ヴァレットのハートに突き刺さる。

 普段あんな気の利く言葉を言えるとは思ってなかったギャップに、ヴァレットが頬を赤く染めながら小さくお礼を返した。


「そ、そうです! 今日はお父さんに頼んで休みを頑張って取ったんです!」


「そうか、わざわざすまない」


 急いで話題を変えるために、ヴァレットがそう言うと、ティルテもそれに乗っかる。


「ぶぶ〜! そう言う時は『ありがとう』って言われる方が嬉しいよ? 自分を貶すよりも、相手を褒める方がどっちも気分がいいでしょ?」


 両手でクロスを作りながらティルテの対応を否定する。そして人差し指をピンと立たせ、言うことを聞かない子供に優しく諭すように、そして最後は笑顔を浮かべてヴァレットがティルテに問いかける。


『ティル、そこは自分を下げるんじゃなくて、相手を上げるもんなのよ? そうした方が気持ちいいでしょ?』


 またもティルテの頭の中をあの少女のセリフが過ぎる。一昨日ヴァレットと食事をした際も、似たような出来事があった。


「……確かにそうだな。すまな……ありがとう」


 ティルテが周りを心配させないようにできる限りすぐに相槌を打ち、お礼を言う。


「へへ〜、それで良いですよ。それで、どこに行きますか?」


「……? ヴァレットが考えてるんじゃないのか?」


 ヴァレットの質問にティルテが素で首を傾げる。ティルテからしたら、彼女がデートをしたいと言ってきた。

 だから彼女はデートでしたいことがあった。つまり、今日の予定はヴァレットに委ねていた。


「……ティルテさんはそう言うと思ってましたよ〜。ご安心を、一応尋ねてみただけなので! この街は私の方が詳しいんで、今日は私がエスコートします!」


 ヴァレットが苦笑いを浮かべながらも落胆の声を上げる。しかしすぐに明るく立ち上がり、年相応のサイズの胸を大きく張りながら洗顔をした。


「ふむ、ありがとう」


「あ、早速使ってくれてますね。でも、それとは別にティルテさん。今度はティルテさんがエスコートしてくださいね」


「何故だ?」


 ヴァレットはティルテのセリフを聞き、目をキラキラさせながら嬉しそうに笑いティルテにお願いする。

 しかしティルテが疑問を持つ。彼女の用事があったとしても、それを自分から引っ張っていかねばならない理由が思い浮かばなかったからだ。


「何故って……私の方が詳しいだとかそんなんじゃなくて、ティルテさんがエスコートをしてくれているって事実が大切なんです」


「……あぁ、善処しよう」


 ティルテはよく理解していなかったが、ここで否定する必要もないと考え肯定する。

 今度会ったら同性の受付嬢、もしくはアリサにでも尋ねようと考える。


「言質取りましたよ?」


「あぁ」


 ヴァレットが確認をするように、両手を後ろに回して組みながらティルテの顔を下から眺め、上目遣いになるような態勢から尋ねる。

 ティルテは一切表情を変えることなく、自分の発言を再度肯定した。


「それじゃあ行きましょう!」


 ヴァレットが木を編んで作られた手提げカゴを持ち、元気の良い掛け声とともに3人のデート? が始まった。


「ヴァレット、そのカゴ持とう」


「あ、じゃあお言葉に甘えてお願いします!」


 ティルテはヴァレットが持つカゴを受け取る。その際に指先が少しだけ当たった事に、ヴァレットは心の中でとても意識していた。

 そしてヴァレットとから見て、ティルテは微塵も気にすることなく(表情的に)片手でカゴを持っていた。


「ところでこれはなんだ?」


「お昼ご飯です! ティルテさんこの前、『クエストを言っている時にも食べたい』って言ってたじゃないですか。今回はクエストじゃないですけど、お昼ご飯持ってきちゃいました」


「なるほど。それは……ありがとう」


 ヴァレットにそう言われて、ティルテはそのカゴを丁寧に運ぶ。


「シーナ、手を」


「うん!」


 少ししてからティルテはシーナの手を繋ぐ。今から人混みに紛れたりする可能性もあり、はぐれたりしたら大変だからだ。

 シーナの魔力を辿ればある程度の位置は分かるが、その間に危険が及ぶかもしれない。


「……じゃあ私もシーナちゃん、お手手繋ご?」


「ん!」


 ヴァレットがさのことを察して手を差し出し、シーナの両手をティルテとヴァレットが繋ぎながら歩く。


「ティ、ティルテさん、こうしていると、周りからはどんな風に見えるんでしょう?」


 3人が少しばかり歩いていると、ティルテにヴァレットがそんな事を尋ねる。


「仲のいい兄弟だろうな」


「そこは嘘でも家族と子供って言って欲しかったですぅぅ〜〜」


「……流石にそれは無理がある」


 ティルテの普通の受け答えに、ヴァレットが少し不満げに愚痴を漏らす。

 その答えにはさすがのティルテも苦笑いを浮かべるしかなかった。 

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