8話〜幼女同伴で冒険者ギルドへ〜

 ここ、冒険者ギルドは住民からの依頼料を受け取り依頼を受ける。それをクエストとし、冒険者たちが受けることのできる機関だ。

 クエストを失敗した場合には違約金と呼ばれるものが発生する。


 クエストと冒険者には共にランクがあり、S、A、B、C、D、E、F、Gの8段階に別れている。

 冒険者は等級と同じ、もしくは一つ上、一つ下まで受けることができる。

 その場合、Sランク冒険者はSもしくはAランククエストしか受けられない仕組みとなってしまう。


 その代わり、Sランク冒険者はギルドや国などから優先してクエストを紹介してもらえ、失敗した際の違約金も半額になる仕組みとなっている。


 そんな冒険者ギルドの扉を今、15歳ほどに見えるティルテと8、9歳ほどに見えるシーナの2人が開いた。

 チラリと入ってきた2人を見つめる視線。そしてシーナに場違いだと暗に伝える雰囲気が広がってきた。

 そんな洗礼を受け、シーナはティルテの袖を掴み、わずかに怯えた表情を見せた。


(……やるか)


 ティルテがシーナに向ける視線の持ち主、また2人にとって不快に思う空気の持ち主に向けて威圧を放つ。すると全員が2人から目を逸らす。

 そのままティルテを先頭に、2人は受付カウンターへと向かう。


「あ、ティルテさん、無事だったんですね! クエストは無事終わりましたか?」


 1人の受付嬢がティルテの存在に気づき話しかける。彼女は茶髪の髪をしており、Fカップの大きな胸でここにいる冒険者たちにとって、密かに憧れの存在となっている人物だ。


 ティルテの受けたクエストは、『ニンギュルの森』の二等域に生息するバルドスネイクスの討伐。クエストランクはBの中でも最上級クラスだ。

 バルドスネイクスは巨大な蛇の一種で、その長さは最大10メートルにもなり、直径50センチほどの胴体をしている。

 そして何より、熱源感知と牙から毒を注入する能力を持つ、二等域では最強の魔物だ。


「あぁ、証拠だ」


 ティルテはそう言ってバルドスネイクスの牙を10本差し出す。この蛇の牙は一本しか生えておらず、また生え変わることが無いので、証拠として使われる。

 また肉体や牙、鱗も素材にも使えるが、1人であるティルテでは解体して持ち歩くのが面倒なのだ。


 入れたものの時間を止めたまま収納ができる、この世界で国宝級の魔道具を使えば解決はする。

 しかし、1人で持ち歩くティルテが色々狙われるのは確実だろう。

 人目のない場所で死体を出したとしても、そこに運び込むまでに誰にも目撃されないのも怪しい。


 そのため、ティルテはこの魔道具を人前では絶対に使わないように決めている。

 よってティルテが受けるのは主に討伐系クエスト、もしくは薬草などの採取系クエスト、要人の護衛クエストのみであり、解体を必要とするクエストには手を出さない。


「あの、ティルテさん? ……確かクエストでは5本だったはずですが?」


 受付嬢の顔が困惑に歪み、そしてティルテの顔を恐る恐る見る。


「あぁ、予想以上に襲ってきたのでそのついでだ。規定数ちょうどじゃないと失敗なのか?」


 ティルテも本来なら5本得た時点で帰っていたのだが、盗賊の件もありもう5本得ることができていた。


「い、いえ! そんなことはありませんよ! ……ですが、少しギルド長に確認をとってきます」


 そう言って受付嬢がバルドスネイクスの牙を持ち、ギルド長のいる奥の部屋へと行ってしまった。


(ふむ、何の確認だ?)


 ティルテがそう考えていると、シーナが袖を引っ張る。


「ティル、すごいの?」


「いや、これくらいは別に普通だ。本物の天才には俺は敵わないからな」


 シーナの期待を裏切るようで悪いが、本当に俺は天才と比べると強くない。もちろん凡人の中では強い方だ。

 だが、真の天才には絶対に勝てない。才能とは本当に残酷だ。


「おいおい、誰だここにガキ連れてきたやつは?」


 ティルテがそんな事を考えていると、1人の男性冒険者がシーナを見てそんなセリフを吐いた。ティルテの纏った雰囲気が変わった。


「俺だが文句あるのかゼファー?」


 シーナの存在に文句を付けてきた冒険者、名前をゼファーと言う。そいつにティルテは声をかけた。


「うげっ!? てぃ、ティルテじゃないか!?」


 ゼファーはティルテの顔を見つけると驚いた表情を見せる。彼は以前、同じようにティルテに声を掛けて、色々合ってボコボコにされた過去を持つ。


「……もしかしてお前の妹……か?」


「違う」


 シーナを抱きかかえたティルテを見て、ゼファーが勘違いをしたが、ティルテがそれをすぐに否定する。


「……はっ! まさか娘ーー」


「んなわけないだろ?」


 ゼファーがさらにアホな勘違いをし始めたので、ティルテがその言葉を言い終わる前に否定する。


「アリサは一緒じゃないのか?」


「今日はちょっと気分が悪いらしいからな。休みだ休み」


「そうか」


 アリサとはゼファーと一緒にパーティを組んでいる冒険者仲間の1人だ。彼女は魔術を使える希少な人間だが、今日は体調が悪いらしい。


「それより用もないなら話しかけるな。シーナが怯えている」


 シーナはゼファーの見た目と声の大きさにすっかり萎縮している。

 ゼファーは190センチほどの長身に、筋肉もきちんと付きまくり、ごりごりのパワー戦士の見た目だった。と言うかその通りだが。


「あ、これはすまん。……いやいや! ちゃんと用はあるぞ」


(本当かよ?)


 元々シーナに話しかけてきたのにティルテに用があるというのだ。そう疑うのも無理はあるまい。


「あぁ……この間はすまなかった!」


 ゼファーがそう言って急に頭を下げる。ティルテは一瞬意味が分からなかったが、すぐにあの事かと認識した。


「前回も謝ったんだからもう気にしなくて良いぞ? お前はもう恥を掻きまくったからな。それにちゃんと納得できる理由もあった。今回もそれと同じ件だろ?」


「まぁ、その通りだが……」


 ティルテの中ではもうそれは終わった過去の出来事となっている。さっきまでのシーナに対する態度もその一つだ。

 しかし謝った当の本人は納得いかないらしかった。


「被害者がもう良いと言ってるんだ。その気持ちは嬉しいが、良い加減しつこい」


「お、おう。すまん……」


 ティルテの勢いに呑まれ、ゼファーがまたも謝った。見た目は大人と子供だが、実際の力関係はティルテの方が何倍も上手だった。


「ティルテさん、お待たせしてすみません。少しギルド長がお呼びです」


 受付嬢が戻ってきたが、報告を行ったギルド長がティルテを呼んでいるらしい。


「何故だ?」


「なんでもティルテさんに依頼したい話があるそうです」


 ここで詳細を話さないということは、何か特殊な依頼が舞い込んできた可能性がある。シーナを育てると決めた今のティルテが受かられるものとは思えない。


「……まぁ、聞くだけ聞こう。シーナは連れて行って良いか?」


「あ、それなら俺が預かっておくぜ?」


「ゼファーが?」


 シーナの扱いに困ったティルテが受付嬢に尋ねると、ゼファーが手を上げて申し出た。ティルテが「本当に大丈夫か?」みたいな目を向ける。


「おう。子守は任せろ」


 ゼファーがどんと胸を叩く。


「お前の顔じゃ無理だ」


 しかしティルテが一蹴する。先ほどのシーナの怯えた姿が脳裏にあるからだ。


「……もしかしてシーナ、行けるか?」


「……ティル、すぐ戻ってくる?」


 だが、ティルテも聞くだけ聞いてみた。するとシーナは不安な表情を浮かべながら尋ねる。


「あぁ、その間この強面のおじさんと一緒になるが良いか? 安心しろ。もしシーナに危害を加える奴がいたら、俺がそいつをころ……ちょっと懲らしめてやろう」


「ちょっ、今殺すって言いかけーー」


「言ってない。そんな物騒なセリフをシーナの前で吐くな。ころ……懲らしめるぞ」


「……了解。安心しろよティルテ。そっちの嬢ちゃんのことは命に代えても守ろう」


 結果、シーナはゼファー預かりとなった。また受付嬢も一緒に話の輪に加わった。


「シーナちゃんはどうしてティルテさんといるの?」


 受付嬢が何気なくださいそんな質問をした。普段のティルテはシーナのような子供など連れることはなかったから、純粋な好奇心だった。


「……シーナ、鎖で繋がれてた」


「「え?」」


 驚きの発言に、ゼファーと受付嬢の2人が声を漏らす。


「でもね、ティルが助けてくれたの」


「……そう。良かったわねシーナちゃん」


「うんっ!」


 シーナの嬉しそうな声を聞き、受付嬢がシーナに軽く抱擁をする。シーナは嫌がるそぶりを見せずに元気よく返事をした。


「……あ、そうだ、ゼファーさん」


「なんだ嬢ちゃん」


 シーナが思い出しかのように言いながらゼファーの方を向く。ゼファーは初めて声をかけてもらえた事で、少し嬉しそうな反応を見せた。


「この前、ティルに何かしたの?」


「え、あ〜、それはだな〜」


 シーナの質問にゼファーが言葉を濁す。


「ふふ、私が教えてあげるわシーナちゃん」


「ちょっ! やめてくれよ、俺が話すって。……あれは半月ほど前だった」


 受付嬢がノリノリで話そうとしたが、それは勘弁とゼファーが自分から語り始めた。

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