7話〜夢の中の過去の欠片〜
とある森に、3人の人の形をした者がいた。そのうち、美少女の見た目をした1人は胸のあたりに穴が空き、心臓が潰れていることは一目瞭然だった。
そして周りを青年、少年の2人が囲っていた。そのうち青年の方は盲目だった。また少年は15歳ほどの見た目をしており、少女に愛称でティルと呼ばれていた。
【ごめん……! ごめんよ姉さん! 僕が騙されてーーティルテーーでこんな怪我を!】
青年が死にゆく少女の手を握り締めながら、泣いて謝っていた。
【……良い……のよ。……また、会えるから。……泣かないで……】
少女はにこりと笑いかけながら、その青年を諭すように言っていた。
【2人とも、自分を恨んじゃダメよ? ……私がこうなることは……知っていたから。……また、会える……から……ね? お願い】
少女が2人に笑いかけながらそう言い、命を落とした。ティルテは少女の最後をただ黙って見ているしか出来なかった。
その少女の最後を見送り、2人はいつまでも泣き続けた。
そして視点が変わり、1人の男の姿をした人がいた。そして先ほどの青年と、少年であるティルテが向かい合っていた。
【よくも姉さんを!】
青年が怒りの形相で、目の前の男に向けてそう言い放つ。
【おいおい〜、そいつは間違いだぜ。お前の姉であるバーーーを殺したのはお前じゃねぇか。いや、正確に言えばそっちのーーティルテーー……だろ?】
男が青年を指差し、そしてティルテに向きを変えて指しながら事実を言う。しかしこれには裏がある。
【黙れ! ーーティルテーーは関係ない! 俺たちを騙して……姉さんはお前が殺したも同然だ!】
男が青年を騙したからだ。
【はは、酷いなぁ〜。まぁ、どうでも良いじゃねぇかあんな女】
男はヘラヘラと笑いながら、一片の悪気も見せずに青年の姉を貶める発言をした。
【……差し違えてでもお前を殺す! 行くぞーーティルテーー!】
青年は怒り狂いながら、ティルテにーーティルテーーと呼ぶ。そして戦い……いや、一方的な虐殺が始まった。人数的には2対1。だが、その圧倒的な実力差を覆すことはできず、現在2人は地に膝をつけていた。
この場に存在する3人の辺りは炎に包まれ、流れた血が地面に散々と巻き散らかされていた。
そしてなによりも、全くの無傷で青年とティルテを嘲笑う男。
【ーーティルテーー、君をどこか遠くへ飛ばす。……必ず仇を……僕と姉さんの仇を討ってくれ!】
その時、青年は唯一の希望にかけて、最後にその言葉を遺し、ティルテに自分の代わりの復讐を託した。
そして男から放たれた攻撃が直撃する直前、ティルテの体だけが消えた。
そして男の攻撃によって、青年は肉体ごと消滅した。
***
「……ん……ぐっ……」
シーナを落ち着かせて眠りについたティルテは、昔の記憶を夢として見ていた。その時の悪夢がひたすら繰り返される。
その状態に危険を覚え、ティルテの体を揺さぶるシーナがいた。
「ティル! ティル! ティル!」
シーナはティルテの名前を何度も呼びかけていた。ティルテが苦しんでいる姿を見たくなかったからだ。
「……ん……シーナか?」
「〜っ! ティル〜〜〜!」
ティルテが目を覚ますと、目尻に涙を溜めたシーナがいた。ティルテの何事もない姿を見ると、そのまま抱きついた。
「む……苦しいぞシーナ。何をそんなに泣いている?」
シーナの胸が口当たりにムニュムニュと当たり、ティルテは少し呼吸がしにくくなる。もう少し上なら鼻まで包み込み、そのままにしていれば普通の人間なら窒息死の危険もあっただろう。
だが、ティルテには布生地程度の隙間さえあれば呼吸など何日だろうと続けられるのだが。ティルテはそう言ってシーナに尋ねる。
「……だって、ティルが苦しそうだったから……。シーナをまた、置いていくかもって……」
シーナがティルテから少し離れ、下を向きながら小さくそう言った。
「っ! ……そうか、心配をかけたな。……安心しろ。俺はどこにも行かない」
ティルテは自分の行為がシーナを不安にさせたと知り、そう言ってシーナを今度は自分から抱きしめた。そうする事で、シーナは安心を感じるだろうと考えたからだ。
「……うんっ。……ティルはシーナとずっと一緒」
シーナは笑顔を浮かべながら、ティルテの腕の中に包まれた。
ティルテが窓を見ると、隙間から微かな光が差していた。少し早いがもう日が登っているらしい。
シーナがまだ寝たいと言わなければ、もう外に出てもいい頃合いだろう。
ティルテが尋ねると、シーナはちょっと恥ずかしそうにしながらももう一度寝ることを選んだ。
たしかに昨日はシーナにとって激動の1日だっただろう。シーナも疲れているはずだと考え、2人は二度寝を楽しむのだった。
ティルテは再び眼が覚める。あまり時間経過はしていない。横を見るとシーナがすやすやと寝息を立てていたので、起こさないようにそっと起きようとする。
(……ん?)
体に違和感を覚える。原因はティルテを掴んで離さないシーナの腕だった。
ティルテは思わず口元が緩んでしまったが、すぐにそれを直し、ゆっくりと手を退ける。
昨日の間にしておいた準備の確認をし、着替えを済ませてシーナを起こす。
「むにゃ? ……ティル? ……んむ」
シーナがよだれを垂らしながら目を覚ます。ティルテは布切れを使いシーナの顔を拭く。
「おはようシーナ。よく眠れたか?」
「ん! ティルが一緒だったから」
ティルテはシーナの睡眠時間を案じていたが、シーナは笑顔を浮かべてそう言った。
(ふむ、心配はなさそうだな)
シーナが謙虚に本音を隠す可能性も危惧していたが、その可能性はなさそうだった。もし嘘をついたなら、ティルテはもう一度眠るように言うつもりだった。
(ガキに気を遣わせることなんてさせてたまるか)
ティルテはそんな事を考えていた。その後、シーナに顔を洗わせたり、服を着替えさせたりした。
今回ティルテの手伝いは無く、全てシーナが1人で行った。着ている服は昨日と同じだ。別に体を清めたての時に1時間ほど着ていただけ。それに新品なので問題は無いだろう。
と言うかこれ以外にシーナは服を持っていない。
(……帰り際にもう一度あの店に寄るか)
ティルテはハンナの店を考え、頭痛を感じながらもそう考えざるを得なかった。そしてすべての準備が仕上がった。
「あ、ティルテさんおっはようございまーす! シーナちゃんもおはよう! どこにいくのかなぁ?」
宿の一階へと降りると、朝ごはんを提供するヴァレットが朝の挨拶をしてきた。
「おはようヴァレット」
「おは、よう」
シーナも昨日で少し慣れたのだろう。ヴァレットに挨拶を返す程度には喋れるようになっていた。
「シーナちゃん、よく眠れた?」
「ん。ティルが……昨日、優しくしてくれたから」
「……ティルテさんってそう言う趣味?」
ヴァレットが軽く引きながら、ティルテを見る目が変わっていった。
「ちょっとシーナをベッドで抱きながら寝ただけだ。へんな勘違いをするな」
「ちょっとお父さん、兵士さん呼んで」
(なぜそうなる?)
ティルテがシーナの紛らわしい言い方のせいでへんな疑惑をかけられる。しかしティルテはそれをなんとか解こうと事実を述べる。
するとヴァレットの対応がさらに悪化した。
「やめろ。シーナ、紛らわしい事を言うな」
「? ……シーナ、間違ったこと言ってないよ?」
「お父さん、この宿に犯罪者いるわよ。兵士さん呼んで」
結局、ティルテはヴァレットの誤解を解くのに結構な時間を労した。
「つまり、シーナちゃんを慰めるために一緒に寝ただけってことよね?」
2人が朝ごはんを食べながら、休憩中のヴァレットとおしゃべりをしている。ちなみにヴァレットの休憩時間はティルテがご飯を食べている時間だ。
「それ以外に何がある? 当たり前のことを聞くな」
口に入れた食べ物を飲み込み、ティルテが無表情にヴァレットに言う。
「……ふ〜ん、ま、信じてあげましょう」
(なんで上から目線なんだ?)
「そうか、感謝する」
ティルテは肘をテーブルににつきながら、ヴァレットの言い方に疑問を覚えつつも、会話を終わらせた。
「食事、うまかった」
「うまうま〜」
朝ごはんを食べ終わったティルテがお礼を伝えると、シーナも慌ててお礼を伝えた。
そのシーナの様子から、もうヴァレットには完全に苦手意識は無くなったとティルテは感じた。
そして2人は冒険者ギルドに向けて宿を出た。
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