第18話

「姫、ジェームスから連絡だよ。こっちに向けて、進軍が開始されたってよ」


サマンサからの報告が来た。ビンゴだ。




『地主 ナリキン様からの依頼です。


種まきしたところを踏まれては堪らん。何人たりと、わしの畑を通すな。依頼金額2000G 違約金0』




2000Gとは奮発したね。


当然、依頼主が出すわけではない。これは迂回依頼だ。が、依頼主が名乗りを上げているし、理由ももっとも。


「この依頼、受けた!」ギルド総出で対応する。




進軍は闇の中で行われている。


お見合いのからくりに気が付いてなければ、相当接近されるまで、見つける事は、なかったであろう。






ーーーー敵、ロロ卿ーーーー


「ロロ卿、間もなく国境です」


兵士が、最後方から来る、ロロ卿に伝える。


「軍勢1万。数なら負けるが奇襲ともなれば、強固な守りも脆いものよ」


闇夜の中、静かに軍勢は、国境を超えていく。


ーーーーーーーーーーーーーー




「?」


敵の先兵が、何かに気が付く。


暗闇の中に燃える炎。




「前進止まれ!進路上に何かが居る」


燃える炎は、次第に勢いを増す。炎の明かりが、闇夜を照らす。




    「ギルド、スノープリンセス!参上!」


  明りに照らされ、現れた白い髪の少女が宣言する。


   「今なら閻魔様との謁見は、キャンセルOKよ」






「貴様ら!我らをクラリス王妃との見合いに行く、トーマス様護衛兵団と知っての狼藉か?」


(知ってるよ。知ってるけど、知らんぷり)


「誰だろうと関係ないわ。地主から、畑は種が植えてあるから、誰も通すなって依頼が来たの。私たちが依頼を受けたギルドよ」




場所は田園地帯。畑のど真ん中を通り、奴らは進軍している。




「地主だぁ?貴様!平民ごときの依頼で、我らジプト帝国次期国主の進路を阻むというのか!」


(知ったことじゃないよね)


「依頼を受けた以上、貴方達を一歩も進ませない!」






「マスター、現在地の動画が、配信されています」


やっぱりだね。ご丁寧にリアルタイム配信とはね。


「マメですね。ですが、言い分はこちらにあります。護衛兵団の同行は許可しましたが、進路についての許可は出していません」




「前を開けろ!不敬だ!」


まだ言ってるよ。


「アピールでしょう。スルーして構いません」


アーロン君他みんなは、落ち着いていた。


正直、1万の軍勢を前にすると、良いのかな?と思うけど・・ね。




「ねぇ、ところでギムは?」


あれ?いない?そういえば見てないね。


「召集のコールはしていますが、お気づきにならないようです」


リアちゃん、知ってたんだ。


「直前の予定が、王宮で剣兵に指導、とありました。恐らく、まだ指導中でないでしょうか?」


冷静な分析。流石はリアちゃん。




でもさ・・。


「指導って?王宮でだよね。夜中なのに、ひっくり返るような騒ぎだよ。気が付かない訳ないよ」


「ギムだから・・・」


マリアの一言で、みんなは納得した。


(ギムってすごいな)




「この数相手では、わたいやギムの出番はないよ」


ギムとサマンサは近接戦闘だから、今回のよう広域戦闘は、基本出番なし。居なくても全然OK。後でお仕置きだけどね。




「どうやら、閻魔様は残業のようですね」


敵が進軍を開始した。


「この蛮族め!我らの前に砕け散るがいい!」


蛮族扱いかよ。




「ガオガオガオ」


「ダイル様は、では私が参りましょう、と申しております」




ダイルが前に出た。


「ガオガオガオ」


「ダイル様は、大地の聖霊よ、その愚かな者たちを肥やしにし、新たな命を生むがいい、と申しております」


そこも訳すんだ。




敵のど真ん中、巨大な魔法陣が大地に表れる。


次の瞬間、底が抜けたように、大きな穴が開き、兵たちは飲み込まれる。大地は何事もなかったかのように、元に戻る。




「敵残存兵力7000。なおも進軍中」


リアちゃんの報告を受け、トーマが動く。




「キラビー召還!」


魔法陣から無数の蜂が敵に向かう。


一刺しで、はい、さようならの毒バチ。


蜂の一団は、暗闇の中、兵士に襲い掛かる。




「敵残存兵力、4000。一部撤退していきます」


自分たちだけ逃げようってか?


「マスター、敵からの魔法攻撃です」


残りの敵は魔法部隊か?


「任せてください。魔法防壁展開」


テレサは、防御系や回復系魔法が得意。




「攻撃は私が」


マリアが両腕を前に出す。光の玉が形成される。高エネルギー攻撃の光子砲だ。


「光子砲。連射」


感情のない声と共に、敵の魔法部隊に光子砲が火を噴く。




マリアの左胸から、2本の電池が排出される。


「2次攻撃、準備」


マリアの付き人のルルが、左胸の上に開いた、2つの穴に電池を差し込む。


「マリア様、電池装填完了です」


「第2弾攻撃開始」


感情のない、マリアの声が次弾の発射を告げる。


マリアはリアちゃんとは違い電池式。光子砲などの攻撃で消耗した際は、付き人のルルちゃんが即時に交換する。




「敵魔法部隊殲滅を確認しました。残存兵約700です」


マリアの右胸から電池が排出される。


「攻撃終了します」


マリアの目に感情が戻る。




1万の大軍にも、楽勝なんだね。




「マスター、どうしますか?追いますか?放っておきますか?」


「追う!敵は殲滅!」


王様から言われていた。


「雪姫、もし奴らがジプト領地内に逃げ込んでも、気にするな。俺が何とでもしてやる。好きに追いかけて、叩け。遠慮はするな」


そう、食い残しは非礼だからね。




奴らの逃げ足は速い。でも追いつける。


私たちは後を追った。


・・・私はリアちゃんに、おんぶして貰ってだけどね。




見えて来た。林に入り、道が限定される中、前方に敵集団を捕らえた。が!先頭を走るサマンサと、マリアが突然立ち止まる。


「雪姫を守れ!」


サマンサが叫ぶ。


木々の中から、飛び出してきた敵。敵は逃げる時間を稼ぐために、奇襲部隊を配置してあった。


「マリア様は中へ」


テレサが防壁を張る。




マリアは、接近戦には不意向き。


火力が大きく、溜めが必要となり、攻撃準備中は無防備となる。


しかも武器は、ミドルレンジ以上。近接用の武器はない。




サマンサが、防壁の外で戦うが、敵の数が多い。


ギム不在が、ここで堪える。


サマンサを掻い潜り、敵が防壁に直接攻撃。防壁が破られる。


ピンチだ!


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