第13話 雪姫動く

窓を叩く音に気が付いた雪姫が、振り返る。


手を振る少女が居た。




(おいおい!ここ3Fだぞ)


慌てて窓を開ける雪姫。




窓を開けると、手慣れた様子で窓枠を掴み、部屋の中へと入る少女。


そばかすの残る16歳。ティアラを付け、立派なドレスに身を包む、ルーラン王国第一王女「クラリス」だ。




ルーランでは「王宮の壁を伝う少女」の目撃例が後を絶たない。


50mは有る塔の壁を、這うように移動する。王女クラリスだ。


何がどうなっているかは謎だが、クラリスは垂直の壁でも、オーバーハングした壁でも、するする登り降りる。


国民は、敬愛の念を込めて、彼女をこう呼ぶ。


     「ヤモリ姫」と。




そのヤモリ姫が、玄関を使わず、3Fの窓から入って来た。


雪姫は直感する。「直接依頼」だと。






「聞いて雪姫。ママがお見合いをしろ、って言うんだよ!まだ16だよ。結婚なんかしたくないよ」


クラリスは、雪姫に詰め寄り訴える。


「ぶち壊して」


(やっぱりかぁ~)雪姫の感は当たった。




「まぁまぁ。ぶち壊さなくてもさ、丁重にお断りすれば、いいだけだよ」


穏便策。なだめる相手に使うこの策は、大人の対応とも言われる。


が、これは雪姫レベルでの一般策。王族ともなると、この常識は通用しない。


「ダメなんだよ!この見合い話は、ママが進めてきた話だから、こっちからは断れないよ」


「そうなの?」


雪姫としては、だれが進めようと、嫌なら断ればいい。そう考えていた。




「無理ですね」


横に居たアーロンが、解説してくれた。


「女王自ら進めていた以上、クラリス様はOKを出したも同然です。


後は相手の返事次第です。事実上、お見合いと称した婚約の場ですよ」


「アーロン様のおっしゃる通りです。王族や貴族のお見合いとは、結果ありきで行われます」


リアも付け加えた。




「雪姫、助けてぇ」


泣きつくクラリス。困る雪姫。


(ぶち壊すのは簡単だよ。壊すのは得意な連中が沢山いる。でも相手は王族。ギルド的にはお得意様。クラリスは良くても、その親。王様と女王様が、お怒りに成られるのは必死だよ)


と、雪姫は考えた。




「良いじゃないですか。望まぬ結婚など、するべきではない」


アーロンは眼鏡をクィっと持ち上げた。


「でもさ、相手は王様だよ」


長老の意見だが、やはり王族を敵に回すのは・・・雪姫はギルドの事を考えた。


「マスターは、嫌がる相手が、結婚をしても良いと?」


「そんなことはないよ。ないけど・・・」


アーロンはギルドフラッグを指さす。




雪姫の部屋に置かれている、ギルドの旗「不屈の雪」


普段は炎は燃えていない。ただの白い旗だが、旗の後ろには・・・・


「何物にも屈せず、何事にも屈せず。不屈の魂は、闇を切り裂き道を示す」


マックスの言葉が、掲げられている。






「ぼくたちは、相手や状況など気にしてはいけません。自分の正しいと思う道を、進むべきです」


(ほ~流石は長老。言葉が重い)雪姫は決断する。


「そうだったね。クラリス姫。その依頼、引き受けた!」




「ぶち壊してくれるのね!やっぱり頼りは雪姫」


抱き着くクラリス。


「でも、まだ契約成立ではありませんよ。プリンセス」


立ち上がるアーロン。


「分かってる。依頼料の交渉だよね。雪姫、今月ピンチだからまけて!」


(だいたい女子高生はピンチが日常。プリンセスでも、16歳だと5Gぐらいかな?)


「50Gです。違約金は無し。失敗しても、こちらもダメージを受けます」


「ヴぇ?50?」


アーロンの提示額に、クラリスの顔が曇った。


(50G・・日本円で50万円。高くない?)




「妥当な金額だと思います。トラブルを考えると、一般の冒険者へ依頼を出すわけにはいきません。ギルド幹部によるクエストとなれば、少々高額になるは、致し方のないことです」


(リアちゃん査定も?50G?)




「ん~~~~~~~~~~」


唸るクラリス。


「嫌なら諦めてください。こちらも商売ですので」


子供の姿だが、アーロンは齢70歳。ルーランで60年を過ごす長老。駆け引きには長けている。




「分かった。払う!50Gお支払いします。…今月のお小遣い、半分消えた」


(おい・・貴様、16の分際で月100万かよ。リア充か?リア充だな?)


雪姫の同情は、淡雪の如く溶けて消えた。






「契約成立です。クラリス様のご依頼は、マスター権限の元、直接受理されました」


詳しい情報を聞く。


相手はお隣「ジプト国」の貴族「ロロ卿の息子、トーマス」


年齢25歳。見てくれ★5 




備考 ロロ卿はジプト国の軍担当。


   強力な私設軍を持つ。大金持ち。




お見合い詳細 ルーラン王国 王宮ご用達 老舗料亭「次郎」


       4月30日 PM1:00




今日が4月23日。丁度1週間後。


(お相手は、金持ちのボンボンったところだね。私たちは、この見合いをぶち壊せばいい、っと)




「任せたよ。信じてるからね」


(引き受けた以上、不屈の魂が信念をもって行います)


と、思っていた。が・・・。




 トントン。「雪姫様。国王陛下がお越しです」


ドアの外からギャリソンの声。


「パパだ!私の妨害工作に気が付いたんだ。雪姫!お願い!上手く断ってね」


「ヴぇ?」


クラリスは、窓に飛び乗ると、頭を下にスルスルっと、壁を降り下る。






「邪魔をする。直接依頼だ」


部屋に王様が入って来た。


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