第12話

ギルドの冒険者を管理する「冒険者管理課」


クエストを管理する「クエスト管理課」


ギルドの2大収入源を担う、心臓部。




冒険者管理係とは、冒険者からの登録料の徴取。


受けられるクエストの目安となる、冒険者ランクの査定管理。


ケガ、死亡などのトラブル時の対応から、健康の管理まで、日々時間に追われる課である。




に対し、クエスト管理課。


時間を惜しむなく使い、安全を求める課。


持ち込まれたクエストは、右から左へ冒険者にわたる訳ではない。


決められたプロセスを経て、初めてクエストとして冒険者へと渡る。






クエスト管理課 査定部。


持ち込まれたクエストの、査定と選別を行う。


必要人数や必要能力、時間などから最低価格を付け、クエストの内容に、疑いは無いかを確認して、営業へと渡す。


クエストの内容に、疑いがあれば「マルギ」と呼び、審査部へと送られる。違約金狙いの、嘘情報により、達成困難なクエストを持ち込む輩が居るからだ。






今日も又、3件のマルギが審査部へ回って来た。


「3等当選の宝くじを、換金してほしい。貧乏神」


「うちの犬、ポチが行方不明じゃ。探してくれんかの。花咲じじいさん」


「舞踏会に来た、ガラスの靴を履いた少女を、探し出してほしい。王子様」




この3件、怪しい。本当に困っているのか?


困っているのなら、助けなければならないが、違約金狙いだとすれば、クエストとして、出すわけにはいかない。




宝くじの案件。


早速、係長グレーが確認の為、依頼主の家を訪れる。


宝くじの写真を撮り戻ると、他職員が宝くじ情報サイトから、当たりか否かの判定。


結果、虚偽と判明。宝くじ当選金と、違約金狙いの悪質な犯行。


この依頼、却下!貧乏神様はブラックリスト入り。




このように、真偽を確かめる作業に、時間をかける。


惜しみなく、納得がいくまで調べ上げる。






他2件も、早速審査にあたる。依頼者宅に係を派遣するも、情報不足。


そんな時は、ギルド情報部へ協力依頼を出す。


情報部は、ありとあらゆる情報を集める、情報管理のプロフェッショナルなる集団。


係長ジェームス。


「我々に知りえぬ情報はない」と、豪語する。






情報部からの回答が届いた。


「花咲じじいさん様の愛犬ポチは、1週間前、隣に住む意地悪爺さんにより殺害、焼却されたとの情報アリ。意地悪爺さん宅内に、壺に入るポチの遺灰の存在を確認」




「2週間前、依頼主の館にて行われた舞踏会で、王子と踊るガラスの靴を履いた少女の情報を精査。靴の持ち主は、シンデレラ嬢。ガラスの靴は、現在シンデレラ家の下駄箱内に存在を確認」




国の諜報部を凌駕する情報収集能力。


彼らにないものが2つ。知り得ぬ情報とプライバシー。




2つのマルギ案件は、無事審査を通過し、営業部へと渡る。


ギルドへのダメージを食い止め、冒険者が安心したクエストを行えるよう、クエスト管理課もまた、下からギルドを支える大切な部署。






営業部。


文字通り営業。審査を通り、最低価格が付けらえれた案件を、依頼主と契約を交わす。


審査部の付けた最低価格は、あくまでも相場。


その価格を吊り上げるのが営業力。




スノープリンセス、トップセールスマン「ヴオール」


彼の実力を見てみよう。




彼が手にした案件


「収穫前のブドウ畑に出る、魔虫ブドウビートルの駆除。最低価格50G。依頼主 マスカット伯爵様。違約金200G」


彼はマスカット伯爵邸へを向かう。




「本日はブドウビートル駆除の件で、お伺いしました」


マスカット伯爵は、快く彼を向かい入れた。




「価格200G 違約金100Gにて、ご依頼を受けさせていただきます」


4倍!違約金は半分。


「ヴオールさん、それは少し高すぎないかね」


当然のことながら、他ギルドへ同一の依頼もしている。


見積競争の為だ。他ギルドは、高くて100G。最安値は60G。




しかし、トップセールスマンたる彼は、そんなことは百も承知。


「お言葉ですが、我がギルドの達成率は、他を遥かに凌駕します。


本案件は、失敗した際の被害は、違約金では補えません。失敗は、マスカット様側の大赤字になります」


優秀さをアピールすると同時に、足元を見る。




「我がギルドなら、専門の知識と技術を持つ冒険者が多くいます。必ずや駆除の成功をお約束します」


揺るぎない自信と、巧みなセールストーク。依頼主、揺れる。


「しかし200はな・・確かにスノーさんなら、信用はあるが・・」


追い討つ。揺れる相手を、後ろから切りかかる。それが営業の極意。




「査定部からは、この価格が最低価格と言われました」


嘘。営業の嘘は技。


「しかしながら、お得意様のマスカット伯爵様には、いつもお世話に成っております。こうしましょう。


次回の消毒作業。前年と同様の価格で、ご依頼を頂けないでしょうか?セット割といことで査定部を納得させ、150Gでお引き受けさせていただきます」


抱き合わせを理由の値引き。


「それは良い!前回の消毒は好評だった。こちらも助かる。150で了承しよう」


契約完了。




100をぼったくり、次の仕事まで取る。


これがトップセールスマン。




ヴオール曰く。


「損をして得を取るなど、普通のセールスマンの言葉。得をして、更に得をするのがトップ」




このようにクエスト一つにも、多くの人が携わる。


より安全に、より利益をと、大勢の人がギルドで働いている。


彼らはみな、その道のプロヘッショなるなのだ。








この完璧なシステムを、無視した依頼が2通りある。


1つは、人道的受諾。


ギルドメンバーによる、例を挙げてみてみよう。


『川で流され、溺れる少女。母親は助けを求める。が、川の流れは速い。誰も、助けてはくれない』


こんなシュチエーション。




ギムの場合。


「お?水泳か?まだ寒いのに頑張るな。俺も泳ぐか?」


論外。


「泳ぎ疲れていたようだ」


いい加減泳ぐと、岸に戻るギム。少女は小脇に抱え、救助は結果論で成功。が、契約の意思なし。報酬を受け取れず。




マリアの場合。


「おねがい・・・」


声を聴くや否や、川に飛び込み、娘を救うマリア。


ダメ。まるでダメ。


助けたは助けたが、ただの親切。報酬はもらえず。




雪姫の場合。


「助けてください!娘が・・・」


「その依頼、受けた」


そう、この一言が必要。依頼を受ける明確な意思。




娘を助け、岸に上がり、母親に引き渡す。クエスト達成となる。


人道的受諾の場合は、予め価格は決められていて、違約金はない。


価格は総じて安いが、この微々たる収入も、ギルドの運営の役に立つ。






もう一つが、ギルド幹部にのみ与えられた権限。


直接受諾。


依頼主はギルドを訪れ、直接幹部へ依頼をする。


秘匿性が高い。急ぎの為、通常のルートでは間に合わない場合、等。


または王室からの依頼も、総じて直接依頼だ。


信用がある場合は受けるが、一見さんやトラブった過去がある場合は、丁重にお断りする。直接受諾は、トラブルの元。






そのトラブルが、雪姫に迫る。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る