第10話

「おかえりなさい。ギム様。マリア様。お疲れさまでした」


執事ギャリソンが、ゲートから戻る二人を出迎える。




無言のギムから、ダンダラ羽織を受け取り、マリアからはローブを受け取る。


外出の際は、ギムは羽織を、マリアはローブに身を包む。


ギルド内では、それぞれが軽装となり、ギムは着流し。マリアはジャージ姿だ。




ギムとマリアは「ゲート室」と呼ばれる、ゲートの解放を行う、専用の部屋から出る。ゲートは何処でも使えるが、いきなり出てくると、周りが驚く。使う際は専用の部屋を使用する。




ギルドの幹部は8人。


雪姫を筆頭に、副ギルドマスターのアーロン。


ギムとマリアが上位で、サマンサ、トーマ、テレサ、ダイル。


雪姫に付くリアのように、それぞれの幹部には、付き人が付いている。






部屋を出た二人を待っていたのは、付き人のララとルル。


「・・・・」


ギムの付き人「ララ」


妖精族で、耳が横に長く伸びた外見が特徴。


無口で言葉を発したところを見た者はいない。


結構強い剣士。




「おかえりなさい。マリア様」


マリアの付き人「ルル」


同じく妖精族だが、ララとは対照的に陽気で明るい。


機械扱いのエキスパート、機械師。


ギムとマリアの後に続き、ギルドマスターの部屋へ向かう。






マリアがノックをすると、中から「どうぞ」と、雪姫の声がする。


4人は中へと入る。


「戻りました。援護1件と、補助1件。完了しました」


マリアが報告をする。




「お疲れ!って、補助?予定にないやつ?」


補助。援護とは違い、少し手を貸す程度の案件。


援護で行ったダンジョン内で、ギムが助けた、幼い冒険者たちの事だ。


援護と違い、クエスト達成時には、力を貸した度合いに応じ、報酬が出る。


「報告書を出しておきます」


マリアは詳しくは話さなかった。


あれは補助ではない。完全な援護だからだ。




若い冒険者はレベルも低く、受けられるクエストの報酬は少ない。


例外なく、貧乏に苦しんでいる。まして、幼い彼らに、余分な資金などない。日々の暮らしも苦しいに違いない。マリアは、報酬を与える判断をした。


ギムは口を挟まない。


「違う」と思っても、マリアの決めたこと。異論を唱えたりはしない。




「いやぁ~助かるよ。今月もピンチでさ」


ピンチとは、ギルド経営の事である。


「マスターが悪いわけでは、ありませんよ」


同じ部屋に居たアーロンがフォローする。




ギルドマスターの部屋。


本来は、雪姫とリアのみが居るはずの部屋だが、溜まり場となっている。


前マスター、マックスの使っていたギルドマスターの部屋は、雪姫の意見で、残しておくことに成った。


その為、新しいマスターの部屋を用意する際に、雪姫は広い部屋を選んだ。理由は「みんなと居られるように」だ。






「しかし、このまま赤字続きでは、不味いですね」


半魔人のテレサ。


人間と魔人族の間に生まれた娘。


青い肌と、こめかみから左右に伸びた角は、魔人の証。


ルーランでは忌み嫌われる存在。だが、マックスはそんなことは、気にしない男だった。美しい心を持つ彼女を、ギルドへ受け入れ、幹部へと雇用。




「新しいシステムの初期投資分ですよ。売り上げは順調に伸びています。心配はいりません」


トーマ。色男にして美男子。


見た目の良さに加え、柔らかな物腰と、紳士的な振る舞い。ルーランでも有名なナンパ師。


「現在、赤字総額は3500G。マックス様の試算の範囲内です」


雪姫の横に立つリアは、タブレットを見ながら言う。




マックスが死に、ギルドの再建が行われ半年。


今はマックスの残した遺産を、食いつぶしながらのギルド運営なのだ。






ギルド運営。


ギルドは独立採算制で運営されている。運営は決して楽なものではない。事実、ルーラン国内にあるギルドは、倒産が珍しくはない。




ギルドとは特殊な組織だ。


超法規的扱いで、冒険者と言う戦力を、ギルドの判断で動かすことができる。武装、戦闘、場合によっては戦争も行う。


その戦力は、国内の冒険者だけで、国の持つ軍に匹敵する。そんな組織に、国は援助金など出してくれない。






ギルドの経営を圧迫する要因は一般的に2つ。


1つは、人気。


人気の高いギルドは、登録冒険者数も多く、より多くのクエストが持ち込まれ、多くのクエストをこなし、クエスト手数料から収入を得られる。冒険者登録も有料で、ギルドの安定収入となる。




人気が無いと、冒険者登録料から、クエストで得られる手数料収入が減り、経営は悪化する。


各ギルドは、独自の方法で冒険者集めに必死なのだ。






2つ目、違約金。


クエストは、ギルドが受けるもので、冒険者が直接受けることが禁じられている。


受けたクエストの報酬は、ギルドに支払われ、ギルドは手数料を引いた額で、冒険者に斡旋する。受けた時点で達成が条件となり、その責任はギルドにある。クエストに失敗した冒険者への、ペナルティーはない。


クエストには、予め未達成時の違約金が決められている。報酬の3~5倍が相場となり、支払いはギルドが行う。


この違約金が、ギルドの経営を圧迫する。




そこで考えられたのが、マックスが導入した、援護制度。


冒険者にはクエスト出発時に、通信機を渡す。達成困難、または補助が必要と判断した際に使う。




連絡を受けた援護チームは、直ちに援護に向かい、クエストを達成する。主に援護チームは、幹部により行われるため、援護達成率は非常に高い。違約金を払わず、冒険者を守り、信用を高める。一石三鳥の策。




だが、これを行うスノープリンセスにあっても、ギルド経営とは簡単ではない。






ギルド運営には、多くの職員が携わる。


プロフェッショナル集団である職員の給料は、巨額!


彼らの仕事が、いかに優れているかを見て行こう。


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