第9話 ギルド

ーーーーダンジョンの中----




剣士ギム。だんだら羽織を着る、スノープリンセスの幹部の一人。


幼き冒険者、少年少女を見下ろすように、睨みつけている。




剣士にとって眼力は、必須の武器。睨みつけることで威嚇。


剣士であるギムも、この眼力を身に着けている。




「ギム睨み」と呼ばれるこれは、眼力の域を超えた「魔法」いや「呪い」だ、と言われるレベルに達していた。


鍔迫り合いの最中、睨む。熟練の達人も、ギム睨みの前には、致命的な隙を作るという。




だが本人に睨んでいる意識はなく、自分の目の前で泣いている、少年少女への対応が分からず、ただ困っているだけなのだ。






怯え、震え上がり、涙を流す、幼き冒険者たち。


1人の少女が、渾身の力を振り絞り、声を発した。




「お願いです・・・助けてください」




だがギムは動かない。微動だにしない。睨む。睨む。睨みつける!


『何から助けろと言うんだ?』と必死に考えている。


自覚無し。






「ごめんね。遅くなっ・・・て」


ゲートから出て来たのはマリア。




この世界の移動手段ゲート。


移動効果のあるアイテムなどを使い、移動場所をイメージすることで、異空間に道が出来、一瞬で移動が可能。どこでもナントカとは、似て非なる物。




「ちっと!ギム。なにしてるの!?」


幼い冒険者たちを睨みつけいたギム。


それを見たマリアは、少年少女の元に駆け付けた。


「ダメよギム!こんなに睨みつけたら、石になっゃうでしょ」


恐怖で固まってはいたが、石にはならない。


「いや、泣くからよ・・」


「貴方に睨まれたら、招き猫でも泣くわ!もっと笑顔で接して」


マリアは、少年少女を優しい笑顔で宥めていた。






「あら・・あなたケガしてる?」


一人の少年の腕に、傷を見つけたマリア。


「これを飲みなさい」


ポーションを取り出し、少年に飲ませる。




この世界でのポーションは、1種類。どんな傷でも、たちどころに治す。腕が落とされていようと、普通に生え変わる優れもの。故に高価。1個のポーション代は、1か月の生活費に匹敵する。


それを惜しげもなく、見知らぬ少年に飲ますマリア。






「もう無茶してはダメよ」


マリアは、傷の癒えた少年に、優しく微笑む。




「あなた達のクエストは、怖いおじさんがやってくれたわ。あのモンスターの指を切って戻りなさい。達成報酬がもらえるから」


指さす先には、ギムが倒したモンスターの死骸。






ここでやっと話が見える。


幼き冒険者たちは、このダンジョンにクエストをやりに来ていた。


少し背伸びのしたい、お年頃。実力以上のクエストを受け、モンスター相手に敗北。




そこに、下のダンジョンからの援護要請で駆け付けたのがギム。


ギムはモンスターを倒し、幼き冒険者たち助けた。


ただ見ていただけのギムだが、『睨みつけられた』と思った、幼い冒険者は、声を上げる事も出来ずにいた。






心優しき、ギア族のマリア。


ルーラン国内に置いて、マリアは有名人である。


品行方正。温厚篤実。穏やかにして、誠実な彼女は、だれからも好かれる女性である。




某雑誌による「優しいおねぇさん」ランクでは、評価の低いギア族にありながら、常に上位に名を連ねている。


ファンクラブまで持つマリアは、優しいおねぇさんの代名詞なのである。




「こうか?」


マリアに言われ、ギムは笑顔を作って見せる。が、この笑顔、兵器レベルの怖さ。


「ひぃ!」


「いやぁぁ!!」


余りの恐怖で、少年少女たちは、悲鳴を上げ、一人は失神。




「ギム・・あなたって・・・」






目つきの悪い、剣士ギム。


ルーラン国内に置いて、ギムもまた、有名人である。


極悪非道。奇奇怪怪。酒を手放さず、理解しがたい行動の彼は、だれからも恐れられる男である。




某雑誌による「夜道で、出会いたくない」ランクでは、モンスターを押しのけ、堂々の1位。


ギルド内に、専門の苦情処理係を持つギムは、魔物扱いなのである。






「何が悪かった?」


ダンジョンを下りるギムは、マリアに言う。


「貴方の目つきは、鋭すぎるのよ」


マリアは、答える。


だがマリアは、ギムに好意を抱いている。


この目つきも、マリアにとっては『素敵な目』なのだ。






ダンジョンの最下層。


複数の冒険者が、防壁を張り、中で防御に徹していた。


「旦那ぁ!」


防壁の中から一人の冒険者が、ギムに声をかける。


「奥に宝箱がある。守ってるのはギガントガメですさぁ!」


見るからにベテランの冒険者。


彼が受けたクエストは「ダンジョン最深部の、宝箱の中のアイテムを持ち帰る」だった。


しかし、予想以上に強いモンスターが居た。


勝てないと判断した冒険者たちは、救援要請を出し、防壁の中に逃げていた。




「もう大丈夫。後は任せてね」


マリアは冒険者たちの所へ。


ギムは、すたすたと歩き、奥の暗闇に消えていく。


「旦那ぁ!不用意に近づいたら・・」


ギガントガメ・・固い甲羅に守られ、攻撃力の高い爪を持つ、巨大な亀。ダンジョンでトップクラスのモンスターだ。


「ギムなら大丈夫。ほら、もう終わった」


マリアの高性能な耳は、ギムが剣を鞘に納める音を、聞き逃さない。




暗闇から出て来たギムは、アイテムを手にしていた。


「お前らの報酬は無し」と、一言。




冒険者にとって、援援要請を出し、防壁の中に居るという事は、クエストの失敗を意味する。達成報酬はない。


「気をつけて帰ってきてね」


マリアは愛想良く手を振るが、ギムは無言のままゲートに入る。




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