第7話

マックスにおんぶされ、私は、ピクニックとやらに出ている。


崖を駆け上がり、谷を飛び越え、川の中を突き進む。


マックスは雄叫びを上げながら、鬼のような形相で突き進んだ。


私の知っているピクニックとは違う。




丸一日。マックスは走り続けた。


中間数回の休憩を取るが、マックスは仮眠に充て、話は出来なかった。




2日目のお昼ごろ、周囲の風景が変わる。


森や川、山や谷だった、周りの景色は一変した。鋭い針のような岩が立ち並ぶ、長さの違う剣山の中に居るような景色。木や草は殆どなく、殺風景だが、幻想的な場所だ。






「着いた。ここが目的地だ」


私を下ろすと、マックスは額の汗をぬぐう。




ここからは、歩きだそうだ。


道は細く、周りからは円錐形の岩が、空高く突き出ている。少し歩くとマックスは立ち止り指をさす。


洞穴?


「女房の実家だ。ここはあいつの生まれ故郷だ」


マックスの奥さん、白姫さんの・・・。




「あいつの一族は、なにも無い所で細々と暮らしていた」


マックスは周りを見渡しながら、洞穴に近づく。




洞穴は、入り口は狭いが、中はそこそこの広さだ。岩をくり貫いて作った住居。マックスは、壁に掛けてある蝋燭に火をともす。蝋燭の明りが部屋を照らす。


「たまに来て、掃除していたんだがな・・・」


マックスは落ち葉や、木の枝が散乱する床を見て、頭を掻いていた。




掃除は簡単だった。家具がない。床を履くだけで済む。壁は岩だ。拭く必要はない。




奥に祭壇がある。岩を削って作られた祭壇。マックスは、持って来た酒と供物を備え、花を飾って手を合わせる。




「女房はシャーマンだった。これから起こること、未来が見えていた。そんな自分を、神からの使いだと言ってな。俺も神聖な日々を送らされたもんだ」


手を合わせたまま、マックスは喋りだした。


私も、マックスと並んだ。そして手を合わせる。




私たちは祭壇の前で向き合う。


「あいつは、運命が変わるからと、殆ど未来に関しては、話すことは無かった。運命は神の定めた道だと信じ、運命に抗う事を良しとはしてなかったんだ。そんなあいつが、生前3つだけ、俺に予言を残した」


マックスは、私の目を、しっかりと見つめながら話す。






「一つは自分の死ぬ日。時間まで、きっちり言い当てやがった」


目線を祭壇へ向け、苦笑いしていた。




「もう一つは、雪姫の事だ」


!?わたし?


「お前を見つけたのは偶然ではない。白姫の予言が、俺たちを導いた」


偶然にしては出来すぎだとは思っていたが、そうだったのか。




「お前は、俺たちの娘として生まれるはずだった」


「・・・え?」


私がマックスと白姫さんの?


「だが、運命は変わった。女房は死に、お前はこの世界ではなく、他の世界で生を受ける。よくある話だそうだ」


聞いたことないよ。よくある割には・・・。




「妻は、雪姫の魂は、自分から生まれたと言う。お前は、前世で白姫の娘だったそうだな」


ごめん・・・覚えがない。




「その白い髪。白姫と同じ毛色の髪。そして氷の魔法を使う、氷属性。俺自身、お前に会うまでは、半信半疑だったが、お前を見て確信した。お前は、白姫と同じ魂を持っているとな」




マリアから聞いた話にあった。


魔法の属性は、親から子に受け継がれる。


息子は父親から、娘は母親から受け継がれる。私の氷属性は、超レアらしい。氷属性は、水属性に含まれるが、まず、居ないという。




私の白い髪、氷属性。確かに私の魂は、白姫さんの娘。


たぶん私は気が付いていた。あの肖像画を見た時の気持ち。


今なら、あの時の感情の意味がなんとなくだが分かる。




マックスが祭壇の中央の壁にパンチを入れる。


壁の奥に隠しスペースがあった。中に箱が入っている。




「お前が『雪姫』の名を貰ってくれたら、渡してくれと言われた」


雪姫の名前って、白姫さんが?


「ああ。あいつは何処まで見えていたのか?」


私は箱を受け取る。中には雪の結晶を模ったペンダント。




「女房の魔力が封印されている。お前を守ってくれるはずだ」


私は早速、首に掛ける。


ペンダントが光り輝く。そしてその光は私の中に入って来た。




温かい。


体の内側から、何かが満たされていく。


私は自分を抱きしめながら、その不思議な感覚に酔いしれた。






「さて、戻るか。少し長居をしてしまったからな」


マックスが立ち上がる。私たちは帰路に就く。




 「白姫さん、ありがとう。また来るからね」




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