第5話
テーブルには7人が座っている。
マックスは長テーブルの短い辺。偉い人が座る席の、立派な椅子に腰かけ、私を隣に座らせる。リアちゃんは、私の後ろに立つ。
「予定より順調で、早く戻れた」
マックスが開口。
右手前の女性。リアと同じギア族だ。
左手前には小学生?子供が座っている。
「マスター、この方が?」
右手前の女性が私を見ながら問うた。
「ああ。紹介の前に、名を与えねばならん」
私は自分の名前を思い出せない。マックスからは「お前」と呼ばれていた。
「雪姫。これがお前の名だ。どうだ?」
雪姫…雪・・姫。
「お前の髪、雪のような美しさから雪を。そして俺の妻、白姫から1文字とって姫。雪姫だ」
いい感じ。なんかしっくりくる。
「気に入らなければ、変えるぞ」
いや、気に入った。「雪姫!ありがたくいただくよ」
拍手が起こった。
私が、この世界で名乗る名前が、雪姫に決まった瞬間だ。
マックスは頷く、何度も何度も頷いた。
そして後ろを振り返る。
後ろには、大きな肖像画。
!!!白い和服に身を包んだ、オオカミの女性。
和服から出ている毛色は、私の髪と同じ白だ。
白姫・・・マックスの奥さん。私はこの人の名前から、1文字貰ったんだ。胸が熱くなる。涙が流れ出した。
「あれ?あれ・・・なんだろう?」
横に立つ執事が、ハンカチを手渡してくれた。
「どうしたんだろう。あれ?」
流れ出す涙。マックスが、右手の拳を強く握りしめたのが見えた。
「紹介しよう。新しい仲間の雪姫だ」
マックスは立ち上がる。
私は涙が止まらないまま紹介された。
「アーロンだ。ギルドの副マスターを任せている」
左側の少年。副マスター?
「よろしく。おねぇちゃん」
アーロンは右手で掛けている眼鏡をクィっと持ち上げる。
「で、こっちがマリア。リアと同じギア族だ」
「よろしくね、雪姫さん」
マリアもまた素晴らしい笑顔だ。
「その横がギム。忘れても良い」
おい。なんだその紹介は?
って、ギムも反応なし。目つきは悪いし、酒を飲んでいる。
これか?性格に問題のある奴って?
「で、隣がテレサ。半魔人だが、優しいぞ」
超ド級ボディーだ。角が生えているが、美人。
「よろしくおねがいします。雪姫さん」
「反対側、アーロンの隣が、サマンサ」
赤毛の女性。ナイスバディー。真っ赤なTシャツに赤いスカーフ。情熱的な人だと感じた。
「よろしくな」
「トーマです。よろしくおねがいします」
右手の掌を下にし、胸の前に置き、礼をする。
紳士・・っポイが、なんか軽そうな美男子だ。
「俺を見てるから驚かんだろうが、トーマの横はダイル。見ての通り、ワニの獣人だ」
服を着たワニ。確かに今更驚かない。
「ガオガオガオ~」
後ろに立つ少女が、通訳してくれた。
「ダイル様は、よろしくお願いしますと申しております」
「他の連中も居るがな、おいおい覚えればいい。今のがギルドの主要メンバーだ」
私は立ち上がる。
「この世界に来て2日です。右も左も分かりません。よろしくお願いします」
「なぁ、いい子だろう?」
マックスは、私の頭に手を乗せ撫でだした。
嫌だけど、今嫌がる訳には行かない。
「当面、雪姫はお勉強だ」
なに?勉強?異世界で?受験とかあるの?
「この世界で生きて行くための知識や技を、身につけなければならない。知識はマリア、任せた。剣術と体術はサマンサ。魔法はトーマとダイル。身の周りの世話は、リア。いいな?」
納得。私の居た世界とは違う。当然身につけなければならない事だよね。
「俺は屋敷に居る。困ったことが有れば、俺の部屋に来い。遠慮はするな」
マックスが解散を宣言すると、私の元に、リアとマリアが付いた。
他の人たちは、部屋から出て行った。
「案内します」
リアは私の面倒係だ。
「リア、先に充電を。雪姫さんは私が案内しておくから」
そうだ。リアは私をおんぶして走っていた。力を使っていた。
「マリア様、お言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いします」
敬語だ。ギルド内には、階級があるのか?
マリアは優しく微笑む。が、ギア族の笑顔って、腹の中と違う気がする。
「あの子、頑張ったのね」
いや、ほんとに優し微笑の様だ。マリアは、説明してくれた。
ギア族は、例外なく鎖骨の中心に長方形のクリスタルがある。
これの色で、充電残量が外部からも分かるという。
赤は80%以上
緑は50%以上
黄色は20%以上
青はピンチだ。
基本、青に成ってはいけない。リアのクリスタルは青だった。
「私たちは活動することで、生命体に貢献しています。非活動状態では、ただの人形です。お役に立てません」
整った顔。長い髪。綺麗な声。美人のおねぇさんと言った感じがした。
マリアは、私を屋敷の2階に連れて行くと、部屋に案内した。
「ここが雪姫さんのお部屋です」
昨日泊った小屋の部屋とは違い、広い。しかも豪華なベットや、家具。映画で見た、西洋のお姫様の部屋の様だ。
「リアは、雪姫さんの付き人になりますが、一緒の部屋に置いてもよろしいですか?」
勿論!リアちゃんが良ければね。
「では、後程、リアの荷物を運びこませます」
「ここに居たのか?ちょっと来てくれ」
ギムだ。忘れても良いギムが入ってきた。
「ギム、女の子の部屋に入る時は、ノックしてと言ってるでしょ」
マリアは、ダメな弟に言うように、優しく言う。
「ああ、済まない」
頭をボリボリと掻きながら、ギムは素直に謝った。
へぇ~素直だね。
「お前が迷い人か・・大変だったな」
あれ?良い奴かも。
「困ったことが有れば言え。酒の酌をさせてやる」
あ~変な奴だ。
「で?ギム、私を探していたのかしら?」
上目使い?これって、気のある相手にする目だよ。
「ああ、マスターがな、庭に穴を掘るから、重機を連れてこいだとよ」
この美女が重機扱い。
「分かった。すぐ行くと伝えてくれる」
あ、がっかりした感じだ。
期待していた言葉と、違う答えが返ってきたようだ。
間違いない。マリアはギムに気がある。
「庭で少し音がするけど、気にしないでね。もうすぐ夕食の案内があるの。案内に来たメイドに、食堂の場所は聞いてくれる」
私が頷くと、マリアは出て行った。
数分後、庭でとんでもない音がする。
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