第6話:エルフの里→ホットサンド
「う……」
夜は三人交代で見張りを立てたのもあって、安心して眠れた。
朝食は昨夜と同じメニューのホットサンド。
それももう食べ終わり、荷物を片付けて巨木を下りて森を歩いている。
二人にとっての食糧である種の味が気になり、ルナに頼んで一つ貰ったのだが……。
「美味しい? ねぇ、美味しい?」
にこにこ笑顔で尋ねてくるルナに、なんて言ったらいいのか。
正直……
「正直に『マズイ』って言えばいいのよ」
「そう、マズいいやいや、そ、そんなことはないよ」
「うわぁ、カケルってアレが美味しいですの? すごーいっ」
……二人ともマズいと思っているんじゃん!
いや、物凄くマズいって訳じゃないんだ。けどなんか……ゴリゴリしているし、苦いし。
あぁ、そういえば。コーヒーの粉末を直接舐めた時のアレに似ている感じがする。
で、硬い。凄く硬い。
これが主食であるエルフに向かって「マズい」なんていうのは失礼だろうって思ったのに。
当のエルフもそう思っていたようだ。
「じゃあ、なんで君たちはこれを主食に?」
「とってもね、栄養があるのです。果物は口直し。でもたくさん手に入る訳じゃないから」
だから夕食にだけ果物を摂ると。
二人は『パン』がなんであるかは知っていたけれど、食べたことはこれまで無かったと話す。
「ルナたちエルフはねぇ、自然と共に暮らす種族なのぉ」
「自然の恵みをそのまま口にする。それがボクたちエルフだ」
ネフィティアはボクっ娘っと。
今の会話の流れだと、エルフって……
「もしかして料理とかは?」
ルナは元気に首を振り、ネフィティアはツンっとそっぽを向く。
え、嘘だろ。
ただただ種をずっと食べて生きて来たのか、この世界のエルフって。
「ま、まさか他の種族もそうなのか」
「ううん。違うのー。ルナたちエルフはってこと。ドワーフさんや獣人さん、カケルと同じヒューマンも、料理とかはするよー」
「じゃあ、俺が作ったホットサンドは」
そう言うと、ネフィティアが頬を染める。
「べ、別に他人が作って勧めた物は、いいのよ」
「うんうん。くれた物は貰ってもいいんだよ。それも自然だからです」
「そ、そうよ。フンッ」
自分たちで料理はしないけど、他人が作ったものならいいって……。
なんてずぼらな種族なんだ。
俺の『無』は連発出来ない。
二人から魔法やスキルの事を聞いて、改めてそれが分かった。
「四発撃って気絶したのなら、三発以上撃たないことね」
「気絶するっていうのはねぇ、体の中のブナが空っぽになるからなのぉ」
「マナよ。ブナじゃないわ、マ・ナ!」
「えぇー、ルナそう言ったもん」
言ってない、ブナって言った。
「マナはねぇ、休んでいたら回復するですよぉ」
「気絶して目が覚めると倦怠感がなかったのは、回復したからなのか」
「気絶しなくても回復は出来る。こうしてただ歩いているだけでもね」
「小さいモンスターはぁ、ルナとネフィちゃんで倒すから、カケルは大きいのが出たらお願いです」
大きいの……か。
幸いその大きいのとは遭遇することなく、ある場所へと到着した。
「ここが……エルフの里?」
「そうだよー」
「ふああぁぁぁ、すげー。ツリーハウスじゃん」
巨木に家、と言うよりは小屋に近いサイズだけども、それが太い幹に建てられていた。
それぞれの巨木はつり橋で行き来出来るようになっているのか。
よく見ると木の根元に扉があって、そこからエルフが出入りしているのが見える。
いったいどうなっているんだ?
「ボクは長老様に知らせてくるから、ルナはそいつと一緒にいて」
「は~い。カケル、こっちこっちー」
「あ、うん」
ネフィティアはひと際大きな巨木へと向かい、俺はルナに連れられてその脇へ。
「ここに座ろっ。はぁー、ルナ疲れましたぁ」
ルナが言うここというのは、巨木の根だ。ちょうどベンチのようになっていて、座りやすくなっていた。
彼女から少しだけ離れた根に座って、俺も一息つく。
上の方を見ると、あちこちでエルフたちが行き来する姿が見えた。
こうして人がいる場所に来ると、例え異世界でもほっとするな。
「ルナ。この森に人間の──あぁ、ヒューマンの? その、町とかってあるのかな?」
「えぇと、ヒューマンはこの森にはいないですよぉ。この森はね、ルナたちエルフと、あとドワーフさんが住んでいるだけなの」
「じゃあ……俺ってここでは珍しい存在ってことに?」
「うんうん。森に入って来るヒューマンはいるけど、ここの森はすっごく広いから会うこともないのです」
岩山の上から見た時だって、森や山以外見えなかったもんな。
ルナが石を手に、地面に何かを描き始めた。
「ここがルナたちの里。でー……ここが岩山の祭壇です」
「祭壇? あぁ、俺が召喚された場所か」
「やっぱりここなんだー。長老様がたぶんそうだって言ってたのぉ」
それからルナは、山を描いて「ドワーフさんの里」と教えてくれる。
岩山からエルフの里までの距離より、ここから山までの方が随分と遠い。まぁ絵と実際の距離感が合っていればの話だけど。
「森の外にヒューマンさんの町があったんだけど、どこだったかなぁ」
首を傾げるルナの手から石を奪う者がいた。ネフィティアだ。
「ここ」
ぐるりと円を描き、その円から離れた場所に印を付ける。
「森を抜けるには里から歩いて二十日よ」
「そ、そんなに!?」
「……長老様が呼んでるわ、こっちへ来なさい」
「あ、うん。分かったよ」
どことなく説明するのが面倒くさいと言った顔のネフィティア。
彼女について行くと縄梯子があって、それを登るらしい。
うぅ、登りにくい。
「ふふふ、カケルってば梯子に登るのヘタですぅ」
「そ、そんなこと言ったって。こんなの登るの初めてなんだから仕方ないだろうっ」
「早く早くぅ~」
「さっさと来て」
上から下から急かされるけど、この状況も巧く登れない原因なんだぞ!
見上げたらネフィティアの……彼女のショートパンツの隙間からアレが見えるかもって。だから上を見ないようにしてるのにさ。
太い枝の上に到着して、更に二つの縄梯子を登ってようやく長老宅へとたどり着いた。
円形の小屋の中には五人のエルフが座っていた。床は毛皮が敷いてあって、ふかふかしていそうだ。
長老が誰なのか分からないけど、ここにいる全員、若そうなんだけどなぁ。
まぁエルフを外見で判断しちゃいけないのは、異世界ファンタジー物では常識と言ってもいい。
「長老様、こいつです」
ネフィティアに突かれ、一歩前へ出る。
「
そう問うと、五人が顔を見合わせぼそぼそと話し始めた。
暫くして頷きあうと全員立ち上がり、ひとりが真剣な眼差しで言った。
「異世界から召喚させられて大変だっただろうが、とにかくまずは作って貰おうか」
「つく……る?」
「そうだ。ホットサンドなるものを作って貰おう」
ホット……はぁ?
くるりと振り返ると、そこには頬を染めてツンっとそっぽを向くネフィティアがいた。
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