10最終話

リアムと入れ替わるように、ゆったりと、大きな体をゆすりながらおばあさんが、見たこともないような笑顔でやってきた。


「おかえり」


びっくりするほど優しく、穏やかな声だった。



「おばあさん、ただいま帰りました。


 私、王国の危機を救いました!」



おばあさんと向き合うと、『やっと終わった』という安堵感でいっぱいになった。自然と身体がおばあさんの方に引き付けられるようにして、私は抱きついていた。おばあさんの体は大きくてやわらかだった。


私は目を閉じてしばらくの間、おばあさんの温かい空気のようなものにすっぽりと包まれてしまうような、宇宙空間にいるような不思議な感覚を味わっていた。最高のご褒美をもらったような気持ちになっていた。


「よく頑張ったね」


「私、もう、夢中で・・。おばあさんのおっしゃることだけを信じて、戦いに臨みました」


「ふふふ・・」


「でも、正直、私が戦いに勝てたのは奇跡です。リアムの言ううようにおばあさんの予言が私を勝たせてくれたのだと思います。だから、おばあさんに聞きたいことが山ほどあります」


「そうだね・・そうだろうよ。だが、まずは、美味しいリアムの食事を頂こうじゃないか」


「はい」


すでに美味しそうなブイヨンや焼いた肉の芳ばしい香りが漂ってきて、私の胃袋をこれでもかと刺激していた。ダニエラの後に続いて、私は食堂に入っていった。


リアムが笑顔いっぱいで私たちを迎えてくれた。


「さあ、早く座って」


せかされながら席に着くと、リアムがおばあさんに向かって神妙な顔で手を合わせた。


「俺は世の中に神様なんかがいるとは信じたことはないが、ばあちゃんの予言はいつも正しいと信じている。リサが無事に帰ってきてくれたことに心から感謝する。ばあちゃん、俺の願いを叶えてくれて、本当にありがとう」


何だか私もリアムにつられて、おばあさんに手を合わせていた。


「おばあさん、本当にありがとう」


「さあさ、リアムの最高の食事が冷めてしまうじゃないか。早くいただこう!」


 おばあさんはそういうと、ゆっくりとスープにスプーンを入れた。それを見て私も慌ててスプーンを持ち、スープを掬った。肉と野菜のうまみがじんわりと染み出た優しい味がして、私の胃袋に入っていった。体中がリアムのやさしさに包まれているような温かい気持ちになった。


「リアムが美味しい食事を作って待っているって送り出してくれたから、私、頑張れた!リアム、ありがとう!」


リアムとおばあさんと私の最後の温かい晩餐は、リアムの用意してくれたお酒とともに、夜遅くまで続いた。


「また、いつでも帰っておいで」


二人は翌日、そう言って私を送り出してくれた。


「帰っておいで」と言う言葉が心底嬉しかった。この世界で、私の居場所がもう一つできたような気がして・・・。




それから3ヶ月後・・・


 私は窓から見える快晴の青空に惹かれるようにしてバルコニーに通じるドアを開けた。相変わらず口は悪いけれど、ここの生活にすっかり慣れたドラゴンのBJは、私の部屋のバルコニーの一角にスペシャルハウスを作ってもらい、そこをねぐらにして、快適に暮らしている。


 シャノンはあれから1か月、妖精界での奉仕作業で絞られたようだ・・。

 

 妖精の身分で私に魔法指導をしていたことが、神様にバレてしまい、処分を受けたのだ。それでも、それくらいで済んだのは、神様がこの件に関して、この世界にプリンセスかぐやの持つムーンストーンの力が必要だと判断されたからだろう。

 しかも、斬首台でパワーをうまく集中できなかった私の拘束を解いたのは、恐らく、神様自身だったのではないかとシャノンは言っていた。


 というのも、奉仕作業の後、シャノンは能力を認められ、異例の抜擢で神様の第1秘書に指名されたのだ。まさに、エリート猫型妖精としてデビューした。なので、今までのように私のそばにいてくれる時間は少なくなってしまった。


 私は危険を冒して、私に魔法を教えてくれたシャノンにずっと申し訳ないという気持ちでいっぱいだったのだが、結果、神様に認められバリバリのキャリア妖精となったことでシャノン自身も本来のシャノンに戻れたのかなと思っている。


後になったが、今日は、私とアルベルト皇太子殿下の結婚式だ!


私はダイアモンドのティアラをつけ、超豪華な純白のウエディングドレスに身を包んでいる。


「さあ、いこうか」


金髪超イケメンのアルベルト皇太子殿下が優しく私に微笑んだ。


「はい」


私は深呼吸をひとつして殿下の腕に私の腕を絡ませた。


そして、おもむろにヴァージンロードを二人で歩き始めた。


「異世界で皇太子妃になりましたが、何か?」




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異世界で皇太子妃になりましたが、何か? きずな愛 @kizuna-ai

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