8しあわせのプリン

フランクが用意してくれたのは、素朴で濃厚なクリーム色をした焼きプリンだった。


「やった~!プリンだ!」


はしたなくも歓声を上げてしまった私・・。


 表面は砂糖が芳ばしく焼き付けられ、カラメルの美味しそうな香りとバニラの香りとが融合して、とても幸せな気持ちにさせられるプリンだった。


「いただきま~す!」


スプーンで一口すくって口に入れると、しっかりしているのに滑らかに溶け、ふうわりと甘く、生クリームと卵の濃厚な味が口いっぱいに広がった。


「美味しい!!フランクは天才!!」


そう褒める私とは対照的にフランクは少し恐縮したように言った。


「いえいえ・・このような状況下・・大急ぎで作りましたので、出来の方は満足ではありませんが・・」


フランクの言葉など全く耳に入るはずもなく・・・私のプリンをすくう手は止まるはずもなく・・気が付けば最後の一口になっていた。


「あ~ほんとにしあわせ」


 最後の一口となったプリンは、口の中でゆっくり、ゆっくりと溶けた。私はその味が消えてなくなるまで、まるでプリンの魔法にかかったように、その美味しさに魅了されていた。


ようやく私が我に返った頃、アルベルト皇太子殿下は笑顔で言った。


「君が美味しそうにお菓子を食べているのを見ていると、僕は最高に幸せな気分になるんだ」


「そ、そんな・・私ただの食いしんぼうみたいじゃないですかぁ・・」


思わず顔が熱くなる。


アルベルト皇太子殿下は席を立ち、私のそばに来て、私を立たせ、ぎゅと強く抱きしめた。長く長く・・。


そして、私の方を向き、真剣なまなざしで、アルベルト皇太子殿下は言った。


「ありがとう・・」


こんな心に響くありがとうは今まで聞いたことがなかった。再び私を席に座らせ、殿下も自分の席に戻った時、私は言った。


「殿下、これは全部シャノンのおかげなんです」


「リサ!アルに余計なこと言わないで!」


シャノンは慌てて私の口を塞ごうともがいていた。


「そうなんだ。ここに今シャノンはいるのかい?」


「はい、もちろん」


アルベルト皇太子殿下はあたりを見回すようにしながら言った。


「シャノン、どこかな?」


「今、私の肩にいます」


私がそう言うと、私の肩の方に視線を向けながら、アルベルト皇太子殿下は言った。


「シャノン、ありがとう。二人の力がなければ、このセントクリストファー王国はなかった。心から感謝しているよ」


「リサは本当によくやったわ、アル。あなた達の恋はちょっとおかしな始まりだったけど・・」


「そうだね・・。僕はシャノンにそっくりなリサが好き・・はもうとっくに卒業だよ」


「そうだね・・」


「リサには、リアルな真実の愛を感じているんだ」


「いや~、堅物で真面目が服を着て歩いているアルから、ぬけぬけとそんなお惚気の言葉を聞かされるとは・・・」


「シャノンは、僕にとっては、かけがえのない友だ」


「そんなにアルに愛されてているリサに、ちょっと焼きもちも焼きたくなるけどね・・うふふ・・冗談だよ」


シャノンの言葉とは言え、私の口から出る言葉に、私自身がドキドキしっぱなしだった。


「シャノン、いつまでもリサのそばにいて、力になってやってほしい」


「う~ん・・それは約束はできないけど・・・」


シャノンに身体を貸しているはずの私だったが、思わず自分の声を漏らしてしまった。


「え~!!ダメ、ダメ、ダメ、ダメ・・約束して!!」


シャノンはしばらく黙っていたが、私の顔に頬ずりをしてから言った。


「そんな、情けない顔するんじゃないわよ。あなたは皇太子妃になるんだから・・それにすぐいなくなるわけじゃないから・・」


「絶対だよ。絶対そばにいてね」


「ウフフ・・分かったよ。今は、あのちっちゃいドラゴンの面倒も見なくちゃいけないし・・じゃあね」


そう言うと、シャノンは、かっこよく消えていった。

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