17湖で その2
今までは自分が見えるものにパワーを集中し、見ながら動かしたり、時間を戻したりするイメージをすることで、実際に超自然現象を起こす魔法を使うことができた。しかし、今度はパワーを集中して私自身に魔法をかけることになる。自分の全体を見ることができないまま、イメージを膨らませることが、果たしてできるのか?そう思うと、不安な気持ちでいっぱいになってきた。
「どう?できそうかな?」
「難しいよ・・自分がどんな状態になっているのかが見えない・・」
「そうだね・・」
「どうしよう・・」
「大丈夫・・リサには、もともと備わったムーンストーンの力がある。だから、何があっても大丈夫。自分の力を信じて、イメージをする。私がたった今、湖の上を歩いていたのと同じように、自分が歩くというイメージをする。ただそれだけよ」
そして、再びシャノンは続けた。
「 最初にテストした時に、月のパワーで体が浮遊してしまったよね。その時不安な気持ちになった事が、少しトラウマになってるかもだけど、今はもうパワーを十分に制御できるから・・大丈夫」
ああ・・そうだった。シャノンが魔法のテストをした時に、パワーが制御できなくて浮かんじゃったんだ・・それが漠然とした不安の原因だったのかもと気づかされた。
「分かった」
私はそう言うと、全身で月のパワーを取り込むことに集中した。そして、そのまま湖に向かって小走りしてみた。バシャバシャ・・・という音がして、私の足は湖の湖面上ではなく湖底についていた。
「うわぁ~。ビチョビチョだぁ!」
「見事に失敗だね。でも、靴や靴下は復元魔法で、濡れる前に戻せるんじゃない?」
シャノンは明るく言った。
「なるほど・・そんな手があったか。シャノンはやっぱり天才だね。よ~し!」
私は自分の靴と靴下に向かって、復元魔法をかけてみた。
「靴よ、靴下よ、濡れる前に戻れ」
あっという間に靴も靴下も元通り、濡れる前の状態に戻っていた。自分でもびっくりするほど楽にパワーが使えることに驚いていた。
「リサ、ホントにすごい上達してるね。これなら湖の上も楽勝に歩けるんじゃない?」
「う、うん。そうだといいんだけど」
「じゃ、もう一回」
「はい」
私は、もう一度集中した。身体が熱くなって来たのを感じ、足に気持ちを集中しながら、湖の上を歩く自分を頭にイメージした。そして、今度は静かに、湖面に向かって歩きだした。今度は地面と湖面との境目に足を進ませると、湖面は柔らかい低反発クッションを踏んでいるような感触だった。
「やった~!歩いている!」
私は湖面を数歩歩いた後、シャノンの方を見た。シャノンは前足を振りながら叫んでいた。
「集中してないと湖に落ちるよ!」
しまった!!と思ったときには、時すでに遅し・・・。
私は湖に膝まで浸かっていた。
「ほ~ら、いわないこっちゃない!」
シャノンは呆れた顔をしていた。
が、私はコツを掴んだような気がしていた。なので、そのままもう一度足に気持ちを集中した。足が再び湖面上まで上昇していくのを感じた。足は湖面を踏めるようになり、また歩きだすことができた。
「成功!」
シャノンが叫ぶ声を聞きながら、私は今度は注意深く、パワーを足に集中してシャノンのそばまで戻った。
「やった~!!今度こそ成功だね」
私はそう言うとシャノンをぎゅっと胸に抱きしめた。
「リサ、今日も頑張ったね」
「シャノン先生、本当に今日もありがとうございました」
「何?急に改まって・・」
「だって、魔法が使えるようになったのはシャノンのおかげだもん。本当に感謝してる」
「そんなことないよ。リサの力があればこそだよ」
「シャノンのおかげだよ」
「分かった、分かった・・これから、もっと、もっと腕を上げてもらわないとね」
「は~い」
練習の後は湖を見ながら、二人でまったり過ごした。こんな静かな時間が楽しかった。
でも、いつもと違う感じがする。何だろう・・そういえば、湖に来た時から漠然と感じていたのだが・・・
「シャノン、それにしても今日は湖に人が一人もいないんだね。まぁ、魔法の練習をするのには、人がいない方が好都合にはちがいないんだけど・・」
「それなんだけど・・」
急にシャノンの顔が険しくなった。
「思った以上に状況がよくないみたい・・」
「え?どういうこと?」
「どうやら、最悪の事態を避けることはできなかったみたい・・」
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