18殿下の危機

急に冷たいと感じるような異様な風が吹き始め、太陽は厚い雲に覆われて、あたりは急速に暗くなり始めた。それまで静かだった湖の湖面にも、大きな波が起こり始め、湖のそばに植えられていた木々がざわざわと大きな音をたてながら、大きく上下左右にうねるように枝を揺らしていた。


いよいよ私は眼を開けていられなくなってきた。


私はシャノンを抱いて、とっさに月のパワーを発動し、先ほど練習したばかりの湖の上を歩く魔法と同じ要領で、シャノンと一緒に黄金の光の中に避難した。


光の中はびっくりするほど穏やかな空気に包まれていたが、外の世界があまりにも異様な様相を呈し始め、私はそのギャップに何が現実なのかが分からなくなりそうだった。


「シャノン・・いったいどうしたっていうの?何が起こっているの?」


「いろいろな妖精たちから不穏な動きがあるという情報は聞いていた」


「不穏な動き?」


「これまでになかった大きな闇の動き・・」


「闇の動きって・・何、それ?ますます分からない・・」


「とにかく、ここでゆっくり説明している暇はないわ。すぐにうちに戻りましょう」


「分かった」


私は気持ちを集中し、全力でパワーを家の方に向けた。最初はゆっくりと進んでいた私達だったが、光の塊はどんどんスピードを増して移動していた。


お城の上空あたりは、さらなる結界が張られ始めたのか、青白い光があちこちから発射されていて、お城全体が光で包まれていくのが見えた。街全体にも結界は張られているはずだが、真っ暗な上空には不気味な物体が飛来しているのが見えた。何が起こっているのか分からない不安もあって、私は恐怖感を抱かずにはいられなかった。


 だが、目の前に展開する見たこともないような光景に、愕然としつつも、胸に抱いたシャノンのぬくもりは私を少し不安から解放してくれた。そうこうするうちに、月のパワーの守護のおかげで私たちは無事に家にたどり着くことができたのだった。すでに、すべての町の住民は避難していたのだろうか、街には人の姿は皆無だった。


ドアノブを手に取るのさえもどかしいくらい、手がガタガタと震えていた。それでも何とかドアを開けると、中でリアムとおばあちゃんが立っていた。私の顔を見るなりリアムが叫ぶように言った。


「心配したんだぞ!こんな日に湖に行くなんて・・。バカヤロー!!とにかくよかった。無事でよかった」


リアムは私の顔を見て、ほっとしたようだった。


「心配かけてごめんね」


「ほんとに、おまえはぼ~っとしているからなぁ。気が気じゃない・・」


そう言うとリアムは私の肩をポンと叩いた。


それまで無表情のまま立っていたおばあちゃんだったが、少し表情を緩めて言った。


「もはや我々にできることは静かに待つことだね」


外は夜のように暗く、風の音がうなっていた。時折、ゴォーとうなり声のようなものが聞こえた。


「おばあちゃん、何が起こっているの?」


「そうだね。私の知っていることしか話せないが・・それでよければ話をしよう」


おばあちゃんは静かな声で話し始めた。


「この平和で豊かなセントクリストファー王国の中に、王国を乗っ取ろうとする勢力が出てきたのさ。


国民から不当な税を取り立て、私腹を肥やしていたサバスチェンコ侯爵だ。

それを知ったアーサー国王から、サバスチェンコ侯爵が処罰を受けたのだが、それを逆恨みし、クリスティーナ女王の弟であられるフィブス公爵と手を組んで謀反を起こしたようだ。


フィブス公爵はフローラ王国で、大臣という立場にありながら、常に国王に不満を抱き、いつかは王座をと、虎視眈々とその機会を狙っていたようだ。


アーサー国王はクリスティーナ女王とともに平和的解決を望んで、話し合いをされていたのだが、どうやらうまくいかなかったようだね。


サバスチェンコ侯爵とフィブス公爵二人が手を結び、セントクリストファー王国の乗っ取りを企て、襲ってきたようだ」


「乗っ取り?」


「そうだ・・」


「城には強力な結界が張られているから大丈夫だろうとは思うが・・・二人は魔王ルシファーに魂を売り、魔王からドラゴンを買ったという噂を聞いた・・・一筋縄ではいかないだろう」


「魔王ルシファー?そんな怪しい奴に魂を売るなんて、そいつら、最低ですね!!」


聞いているうちに何だか腹が立ってきた。そんな奴らに愛するアルベルト皇太子殿下がやられてたまりますか!

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