#17 VS竹ヶ江①





「じゃあ竹ヶ江戦のオーダーを発表するのでみんな聞いててね」


 じょほちゃん以外は先生の方を向く。じょほちゃんは相変わらず日陰の住人と化している。見かねた太田さんが「じょほ、太陽に慣れとかないと試合きつくなるよ」と引っ張り出してきて、なんとか輪の中へ。まあじょほちゃんはボールを打ち出したら太陽の存在なんて忘れているから心配ない。


「まずオーダー。1番手、城さん太田さん」

「はい!」と太田さんだけが返事をする。じょほちゃんは……試合に出れればそれでいいのか満足げな表情。


「2番手、田宮さん、高嶋さん」

「「はい!」」


「3番手は上田さん、合田さん。合田さん、キャプテンとしてもしっかり頼みます」

「「はい!」」


 私は大まかな作戦を理解した。おそらく太田さんで一本取って流れを引き寄せるのだろう。私としては負けられない2番手で出して欲しかったけど。ただ、先輩たちはあの竹ヶ江に勝てるんだろうか?


「セオリー通りなら、竹ヶ江の2年生エース古湖さんは先ほど試合を消化してますから、休憩を挟むためにさっき試合に出てないペアが1番手に来る確率は高いと思います。だからうちとしては、先手は取りたいところですね。城さん、太田さんよろしくね」

「はい!」






 私としては、こっこちゃんよりもじょほちゃんたちの方が強いと思っているのでねじ伏せて欲しい気持ちもあるけれど、先生の言うことは理にかなっている。ようは2番手3番手でこっこちゃんたちと当たらないペアが頑張って勝ちを拾うということなのだろう。


 魔具中伝統の薄紫のユニフォームに、群青の空が映える。私はあんまりユニフォームの色を気に入っていなかった過去があるけれど、尚田ちゃんが「朝顔みたいで綺麗」と呟いた瞬間に、なんだか好きになれた。

 試合開始前の整列が始まる。私は一応補欠というかマネージャー扱いなので、ベンチ横に立っていた。普段は観客席から応援することばかりなので新鮮だ。コートの砂を踏みしめると、地響きに緊張感が伝ってくるような気がして、なぜかお腹が痛くなる。

 整列時は、本部側に向かって右から1番手、2番手……と並ぶので、太田さんたちの対戦相手とは整列時に向かい合うことになる。ふむふむ、向かい合っている相手の選手は……



「えっ、こっこちゃん……」



 見間違いかと思って目を擦っても、そこにいるのは紛れもなくこっこちゃんだ。波打つボブヘアと強気な瞳。キッチリと直立不動で立っている真面目さ。間違いない。



 せんせー!!!!作戦失敗してるじゃないですかー!!!!と先生の方に慌てて視線を送ったけど、ベンチの方を見るはずもなく。先生含めてみんな動揺してないといいけど……。補欠の先輩たちも「ええ……作戦失敗しとる……」と落胆気味だ。理由はわからないけれど、竹ヶ江は1番手にこっこちゃんたちを置いてきた。でも私としてはそれも良いと思った。じょほちゃんたちの方が強いって証明できる。


「頑張れ……じょほちゃん、太田さん!」


 ガシッと私が手を合わせたら、同時にキャプテンが「マグ中ファイッ!」と叫んでコート付近までみんな走っていく。そしてコート越しに向かい合う両校。竹ヶ江は漆黒のユニフォームにメラメラとした闘志を瞳に宿していた。ここからだと太田さんの表情はわからないけれど、負けないくらい闘志を燃やしていると思う。ライバルであり友達でもあるこっこちゃんと戦うのだから。












〜〜試合前、竹ヶ江サイド〜〜




 魔具中の雪之丞がオーダーを全員に伝えるのと同時刻くらいには、竹ヶ江も勝利の喜びから切り替えて、対魔具中のオーダーを発表する時間になっていた。泡コーチは、眼鏡を光らせ、拳をぐっと握る。


「ただいまよりオーダーとそれに伴った作戦を発表する!」

「あんたどうせ強いやつから順に使うとしか言わんやんか。作戦もとにかく相手のコートにボールを返せ!気持ちで負けるな!の2パターン。耳にタコができるくらい聞いたんですけど」

「ふっ、古湖、何を言う。今までの対戦記録568024回から導き出した、対魔具中ベストオーダー最終結論だぞ、そんじょそこらの素人コーチとは格が違うのだよ格が」

「いいから発表しろ!」

「ひっ……1番手古湖、上野!2番手……」

「いや変わらんやろそれ!!!!なんっも変わらん!!!!」

「うるひゃい!!!!強いやつからいった方が流れが来るんだよばーか!!!!俺だって考えたさ、ベストなオーダーを!!!!これしかないんだよ!!!!」

「普通私たちさっき1戦やったから3番手にして休ませるとかあるでしょ」

「ん、まあ……でも魔具中それなりに強いから負けるの嫌じゃん……」


 古湖はため息を吐きながらも、泡コーチの勝ちたい気持ちにあてられると何も言えなくなる。竹ヶ江のメンバー全員が「勝ちたい」の前では何も言えない。それくらいに貪欲なチームだった。泡コーチはごほん、と一つ咳をした。


「とにかく気持ちで負けるな!!!!そして勝つぞ!!!!」

「おー!!!!」



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