第21話 下着を選んだんですか!?
水無月たちと別れた後、雑貨屋でアンティークや小物を見たり、スポーツショップで琴葉の新しいバッシュを買ったりして、時間を過ごした。
スマホの画面を付ければ、時刻は『14:25』と表示されている。このショッピングモールに来て、約4時間ほどが経過しただろうか。
今は、琴葉がランジェリーショップに入っているため、店の近くにあったベンチで休憩中。
さすがに、妹が下着を選んでる姿を眺めるような変態じみた趣味は持ち合わせていないし、あの中に入る勇気も持ち合わせていなかったため、同行はしなかった。
琴葉は、「別に一緒に来ても気にしないけど」とか言ってたが、兄的にはそれは気にしてほしかった。
もう何時間も歩き回り、足はくたくた。日頃の運動不足のせいで、俺の体力ゲージはもうほとんど残っていない。どっかに回復薬グレートでも落ちてねぇかな。
すでに脳内には、『至急、我が家へ帰還せよ!』という緊急クエストが通達されており、早くクエストを達成したい所存。達成した暁には、報酬として、家でゴロゴロできる権利がゲットできる。
しかし、今日は日頃の感謝を込めて、マイシスターに尽くすと決めている。
琴葉が満足するまで、桃太郎に
……ふと思ったんだけど、たかだか団子を貰っただけで、命がけで鬼の本拠地に乗り込むとか、なかなかクレイジーな精神してるよな。
普通なら、札束でも積んでもらって、初めて検討するレベルだろ。俺なら絶対に行かない。
そんなことを考えていると、琴葉がランジェリーショップから出てきた。
「お待たせ。はい、これも任せた」
「任されました」
俺は手渡された小さめの袋を受け取る。中には購入したばかりの下着が入っているのだろう。
袋に入ってるとはいえ、これを手に持ったまま歩くのはどうかと思ったのだが、肩に掛けているウエストポーチには入りそうにない。
こんなことなら、大きめのリュックでも持ってくるんだったな……。
「この後はどうする?」
「うーん。まだ回ってないところを少しぶらつきたいかも」
「りょーかい」
そうして、どこに目的地を決めるでもなく、適当にぶらぶらすることに。
と、移動をしようとした時、
「あれ、冷さんじゃないですか?」
……今日はどれだけ知り合いに会うんだよ。
声のする方を向くと、もちろん、早見がいた。
当然、いつも見ている制服ではなく、私服姿。
早見の服装は、白のトップスに、膝より少し上くらいの丈の青のスカートを合わせており、可憐で、清楚さも合わせ持っているという、まさに早見のイメージにぴったりだった。
控えめに言って、かなり似合っている。
「偶然だな」
「はい、偶然です、ね……」
早見は、俺の隣にいる琴葉を見ると、固まってしまう。
デジャブか……?
水無月の時と反応が同じすぎて、そう錯覚してしまいそうになる。
早見は、視線を琴葉から俺に移すと、
「……冷さんには彼女さんが……って!そ、それってランジェリーショップの袋ですよね……!?ま、まさか、冷さんが下着を選んだんですか!?」
「そんなわけないだろ!」
俺の手に持っているランジェリーショップの袋を見て、あらぬ誤解をしていた。
「……妹さんでしたか……。それで、荷物を持ってあげてたんですね。誤解をしてしまってすみません……」
「いや、大丈夫だ。もう慣れた」
本日何度目かの説明をし、誤解を解くことに成功。なんとか『女子の下着を選ぶ変態』という不名誉な称号を与えられずに済んだ。
一方で琴葉は、
「かわいい……お人形みたい……」
早見の類稀なる容姿に、目を見開いて見入っていた。
早見は微笑を浮かべ、
「ふふ、ありがとうございます。私は、早見姫雪と言います。よろしくお願いします」
「紫吹琴葉です。よろしくお願いします……」
「琴葉さん、とお呼びしますね。
……それにしても、兄妹でお出掛けなんて、二人はとても仲がいいんですね」
「普通だと思うけど」「普通だと思います」
俺と琴葉の声が見事にシンクロした。
「……やはり仲良しだと思いますけど……」
たしかに、いいか悪いかで言ったら、いい方だと思う。
これまでに喧嘩なんてほとんどしたことない。
それに、もし仲が悪ければ、二人だけで生活なんてできないだろうし。
早見は、俺たちに気を使ってか、
「それでは、せっかくの兄妹の時間を邪魔するといけないので、私はこれで」
そう言って、その場を立ち去ろうとする。
しかし、
「あの、良かったら一緒に回りませんか?」
意外にも、琴葉がそんな提案をした。
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