第20話 ゲームはするより見る派。
「冷くん?」
「? 水無月と神白か」
水無月&神白とエンカウント。
二人の私服姿は初めて見たため、なんだか新鮮な感じだ。
水無月の服装は、白のワンピースに薄めのカーディガンを羽織っており、おしとやかかつ可愛らしく、彼女の印象に合っている。
神白の服装は、ゆるめのトップスにショートパンツというラフな格好で、彼女のスタイルの良さを引き立てている。
「冷くんじゃん。やっほー」
「冷くんもお買い物?偶然だ、ね……」
水無月は俺の隣にいる琴葉を見るや否や、固まってしまう。
そして、引きつらせた笑顔になり。
「そ、そうだよね……冷くんにも、彼女の一人や二人や三人くらいいるよね……あはは」
「お前の中の俺は一体どうなってんだ……」
二人も三人も彼女がいてたまるか。いや、一人もいないけど。
一方で、神白はこの状況を楽しそうに「あら、もしかして修羅場ってやつ?」とニヤニヤ。
俺は一つため息をつき、
「妹の琴葉だ。……で、こっちは俺のクラスメイトの水無月と神白」
「初めまして、紫吹琴葉です。兄がお世話になってます」
俺がそれぞれを紹介すると、琴葉は二人に向かってぺこりと会釈。
それを受け、誤解が解けたようで、
「(な、なんだぁ……よかったぁ。)あ、水無月ひよりです。琴葉ちゃん、よろしくね。こちらこそ冷くんにはお世話になりっぱなしで……」
「神白未来だよ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
二人はそう言いながら、琴葉に微笑む。
琴葉は人見知りなところがあるため、緊張しているのか、その表情は少し硬い。
「それにしても、まさか冷くんにこんな可愛い妹ちゃんがいたなんてね」
「本当だね」
「言っておくけど、ちゃんと血は繋がってるからな」
「別にそこは疑ってないんだけど……」
神白の俺を見る目がジト目になり、水無月も苦笑している。
たまに聞かれることがあるから先に言っておいたのだが、どうやら愚問だったようだ。
「私も、お兄ちゃんにこんな美人な知り合いが二人もいるとは思ってなかったので、びっくりです」
やはり年上の美人な女性に対し、憧れのようなものがあるのだろうか。
琴葉は二人に向けて、なにやら羨望のような眼差しを向けている。
「いやぁ、美人なんてそんなぁ……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。可愛いやつめっ」
「!?」
嬉しそうに、ふにゃりと頬を緩ませる水無月。
さらに、神白が琴葉をむぎゅっと抱き寄せれば、たちまち辺り一面にフラワーガーデンが咲き誇る。
初対面の相手にハグするあたり、さすがは神白というか、なんというか。
琴葉も最初は驚いていたようだが、まんざらでもなさげな様子。
心の距離も、物理的な距離も縮まったということだろうか。
……女子ってこんな一瞬で仲良しこよしになれるもんなの……?女の子すげえ。
「お二人は、お兄ちゃんの友達なんですか?」
琴葉の質問に対し、水無月は「私はそう思ってるけど……」と、俺をチラチラ。
神白も「どうなんですか~?」とからかい口調で言ってくる。どうなんですかね。
この空気で「いや、違います」とは言えない。
しかし、難しい質問だ。ただ話をするような仲を友達だとすれば友達になるし、よく遊びに行くような仲を友達だとすれば友達じゃなくなる。
「それに答えるためには、まずは友達の定義を――」
「あーはいはい。そうだよね、冷くんってそういう人だったね」
「あはは……」
俺の言葉は、呆れ顔になっている神白によって遮られてしまい、水無月も愛想笑いを浮かべている。解せぬ。
「すみません。兄に悪気はないんです。ただ、少し変わったところがあるだけなんです」
「おい」
妹よ、フォローになってねぇ。
「そうだ、琴葉ちゃん。お兄さんは家ではどんな感じなの?」
神白が突然、そんなことを言う。
「そうですね。最近はゲーム実況を見るのにはまってるみたいです」
「へえ、ゲームをするわけじゃなくて?」
「はい。なんでも、見るだけの方が疲れなくていいらしいです」
「あははは!省エネだね~」
「ふふふ、冷くんらしいね」
ゲームするのって意外と頭使うし、疲れるんだよ。だから、実況者が話しながらプレイしてるのをまったり見る方が俺の性に合っており、現在のマイブーム。
……てか、そういう話は、せめて本人がいないところでしてほしいものだ。
そんなこんなで、すっかり打ち解けてしまった三人は、ガールズトークを絶賛開催中。
三人は仲睦しげに、思い思いに会話を弾ませていく。
俺はその様子を、ただただ何を考えるでもなく、ぼーっと眺めていた。
今なら悟りを開けちゃいそう。涅槃の境地に至れちゃいそう。
美少女三人が微笑まし気に談笑しており、その傍らに不愛想な男が一人突っ立ているという絵面。
周りからも、何でその中にお前が混じってんの?みたいな目で見られていることだろう。そんなこと俺が知りたい。
五分か、十分か、時間が過ぎ、
「あ、ひより。そろそろ行かないと、映画始まっちゃうよ」
「……ほんとだ、もうこんな時間……。私たち、今日は映画を見に来てて、それまではショッピングして時間をつぶしてたの。もうすぐ始まるみたいだから、もう行かなきゃ」
水無月がそう言って、俺たちに別れを告げようとした時、
「冷くん、琴葉ちゃん。また――きゃっ!」
「うお!?」
話に集中していたのか、前を向いて歩いていなかった男が、後ろから水無月にぶつかった。
そして、バランスを崩した水無月は、正面にいた俺に抱き着くようにしがみついてくる。
その結果。
水無月の胸が、むにゅっと俺の腹部辺りに押し付けられることに。
……おおう………。
おそらくDくらいだろうか。高校一年生にしては大きく、その柔らかな果実の感触がブラジャーやワンピース越しでも伝わってきてしまう。
男の夢が詰まったそれが、ゼロ距離に。
そんな中で俺が平然としていられるわけもなく、心拍数は急上昇してしまうし、顔だって熱を帯びてしまう。
「だ、大丈夫か?」
「うん、ごめんね……え……」
状況に気づいたのか、水無月はいまだ俺を抱きしめたまま、この至近距離で俺と目が合うと、フリーズする。
「わあ、ひよりったら大胆♪」
神白のその言葉で我に返り、水無月は、ばっと勢いよく俺から離れる。
水無月も、相当恥ずかしかったようで、顔はもちろん真っ赤っか。
「~~~っ!!さ、さようなら!」
「ちょっと、ひより!?二人とも、またね!」
水無月が足早に去っていき、神白もそれを追いかけていく。
遠のいていく二人の後ろ姿を見ながら思った。
……これが、ラッキースケベかぁ。
「お兄ちゃん、鼻の下伸ばさないで」
「伸ばしてない」
蔑んだ視線を送りながらそう言ってくる琴葉に、俺は食い気味に否定した。
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