第19話 美少女は何を着ても似合ってしまう
「これはどう?」
「似合ってると思う」
「……さっきからそればっかり」
「そう言われてもな……」
現在、二階にあるレディースファッション店の試着室にて、琴葉によるファッションショーが開催中。
店員さんがこちらを優しげな目で見ながら「青春ね~」と呟いてるが、気にしたら負けだろう。
何着かコーデを組み、順番に着替え、それらの感想を俺に求めてくるのだが、正直困っている。
琴葉は我が妹ながら、美少女である。何を着ても似合っていると思ってしまうのは必然。
もしダボダボなスウェットなんかを着ても『ゆるっと着こなして可愛い』となってしまうし、変なキャラクターがプリントされたTシャツを着ても『斬新だけど素敵』となってしまうこと間違いなし。
だから、全てのコーデに対して「似合ってる」という感想が出てくるのは当たり前のこと。
「じゃあ、今着てるのと一つ前のだったらどっちが好き?」
「どっち──」
「どっちもはだめ」
「……」
琴葉によって俺の言葉は遮られてしまう。
仕方なく、二つのコーデを比較し、検討してみることに。
今着ているのは、グレーのシャツワンピースにデニムパンツをレイヤードしたもので、やはり大人っぽく上品さが出ている。
一つ前は、ミントのトップスに黒のロングスカートを合わせたもので、ミントの色味が明るくないため派手ということはなく、おしとやかだが可愛らしさも兼ね備えているという印象だった。
どちらも甲乙つけがたいが、個人的な好みで選ぶなら……
「一つ前の方かな」
「そ、じゃあそっち買うね」
「俺が選んだほうでいいのか?俺はファッションに詳しくないし、琴葉が決めたほうがいいんじゃないか?」
「いいの。客観性も大事だから」
「琴葉がいいんならいいんだけど」
琴葉は元の服装に着替え、俺が選んだ方のコーデ一式をレジに持って行く。
俺は先に出て店の前で待つことにした。
スマホで時間を確認してみれば、時刻は11時45分。
もうそろそろ昼時だし、次は昼食タイムにするのがよさそうだ。
「これ、お願い」
「はいはい」
店から出てきた琴葉は、購入した服が入った袋を俺に手渡してくる。
俺も荷物持ちとしての仕事を勤めることに。
「琴葉、そろそろ昼ご飯にするか」
「うん」
「何が食べたい?」
「なんでもいい」
なんでもいいが一番困るんですけどっ。
でも、俺も琴葉に夕飯何がいいか聞かれたときによく使うから、人のこと言えないんだけどっ。
「じゃあ、とりあえずフードコートに行ってみるか。あそこなら色々揃ってるし」
俺の提案に琴葉も異論はないようで、小さくこくりと頷いた。
フードコートに来てみると、中央にテーブルのエリア、その周りにはラーメンやうどんなどの麺類からステーキなどのガッツリ系まで、様々な飲食店が並んでいる。
その中から俺たちはオムライス専門店をチョイス。俺はデミグラスソースのオムライスを、琴葉はトマトソースのオムライスをそれぞれ注文し、二人用のテーブルに腰掛ける。
「「いただきます」」
スプーンでオムライスを
……上手い。とろっとろふわっふわの卵が口に入れた瞬間にとろけていく。まさに、お口の中が卵のとろふわ革命や~!状態。特製のデミグラスソースも絶妙に合っている。
対面の琴葉を見てみれば、やはり幸せそうな表情でオムライスを食べている。
そのまま二口、三口と食べ進めていると、
「お兄ちゃん」
「ん?」
琴葉が口をあ~んと開けていた。そっちのデミグラスソースのオムライスを私の口の中へ入れやがれ、ということだろう。
周りに人がいる状況でそういうことをするのはいかがなものかと考えていたのだが、琴葉の目が「早くして」と訴えてきているため、スプーンでオムライスをその小さなお口に入れてあげる。
「ん、こっちも美味しい」
「それはよかった」
「はい、お返し」
「へ?」
琴葉が自身のスプーンにオムライスを載せ、俺の顔の前まで持ってきていた。
まじ?俺もあ~んされんの?
「早く口開けて」
「さすがにそれは――んぐっ!?」
喋ろうと口を開いた瞬間に、琴葉にオムライスをねじこまれた。
いきなり何すんだよ。美味かったけど。
俺が抗議の視線を送るも、知らん振りされてしまう。
その後は黙々と食べ進め、二人ともあっという間に完食してしまい、フードコートを出た。
「次はどうするんだ?別に俺はもう帰ってもいいけど」
「何言ってるの。まだ帰してあげるつもりないから」
今夜は帰さないぜ的な?
そんな琴葉のワイルド?な発言に、俺は「そーですか」と呟く。
本当に帰れると思って言ったわけじゃないしな。
人間、とりあえず何事もチャレンジしてみることが大事だと思う。
まあ、この場合は「早く帰りたい」という欲望に忠実なだけとも言うけど。
そんなことを考えていると、琴葉は次の目的地を決めたようで。
「次は雑貨屋とか見て回りたいかも」
「りょーかい。どこまでもついていきますよ」
「よろしい」
現在地は二階のフードコート前。確か雑貨類は三階の反対側の端辺りにあるため、かなり歩かなければならない。しかし、そんなことは覚悟の上。
ゆったりとした足取りで、目的地へ向かっていると、
「冷くん?」
「? 水無月と神白か」
真正面から歩いてきていた水無月と神白と遭遇した。
今日はやたらと知り合いに会う日だ。
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