第10話 委員長ちゃんは、気になっている

 聞き間違いか?

「すき家ってあるの?」と、この近所にすき家があるかどうかを確認したかったのか?


「えっと、水無月。もう一度言ってもらってもいいか?」

「え?うん……。紫吹くんと早見さんは、付き合ってるのかな、って」


 どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。

 ほんと女の子ってこういう話好きだよなー。

 三度の飯より噂話に恋愛話。

 それは、クラスの人気者である水無月ひよりにも例外ではなかったということだろう。


 俺は水無月の目を見据え、はっきり告げる。


「付き合ってない」

「ほ、ほんと?」


 そう言って、未だ疑いの眼差しを向けてくる水無月。

 俺が伝えたのは純度100パーセントの真実のみ。

 よほど信用されてないのだろうか。嘘なんてつく理由もないというのに。


「ほんとほんと」

「……よかったぁ」

「んあ?」

「な、なんでもない!」


 小声で呟き、安堵の表情を浮かべる水無月に、首を傾げながら「何のことですか?」と視線を送ってみるも、ごまかされてしまい。


 いったい何がよかったのだろうか。

 あぁ、あれか。

 白雪姫が俺みたいなどこぞの馬の骨と付き合ってなくて「よかった」ということか。


 性別問わずファンがいるとは。

 早見パイセン、さすがっす。尊敬するっす。まじリスペクトっす。

 そんな早見への尊敬の念を心の中で浮かべつつ、水無月に問う。


「それで、なんでそう思ったんだ?」

「……二人って最近よく一緒にいるから、もしかしたらそうなのかなって思って」

「それはちょっと安直すぎないか……?」


 男女が一緒にいることをすぐに恋愛とイコールで結びつけるのはどうかと思う。

 小学生が、男の子と女の子が一緒にいるのを見て「やーいやーい、お前あいつのこと好きなんだろ〜」って言うのと同じようなものだ。


「それに、さっきも仲良く話してたみたいだから……。あの、急にごめんね?」

「あぁ、別に気にしてない。でも、本当にそんなことはないからな?俺みたいなやつとそんな誤解をされたら、早見がかわいそうだ」

「……むしろ、多分早見さんの方が……。」

「? なにか言ったか?」


 水無月はぼそっと何か言ったようだが、聞き取ることはできなかった。


「な、なんでもない!あ、もうHR始まっちゃうね」


 そう言って、水無月は一足先に教室へ戻っていき、俺もその後に続く。

 席に着いたタイミングでちょうどクラス担任がやってきて、朝のHRが始まった。





「おい紫吹!どういうことだよ!」

「なにがだよ」


 一限が終わるとすぐ、どんぐりが俺の机の上をばんと叩いて詰め寄ってきた。

 いつもいつも忙しないことこの上ない。


「とぼけんな!さっき水無月さんと廊下で話してただろ!白雪姫だけじゃ飽き足らず、我らが水無月さんまでも……。」

「……少し話をしただけだろ」


 ただ、クラスメイトと会話をしていただけ。

 何もおかしいことではない。

 俺からしてみれば、普段クラスの女子と話をすることはあまりないため、新鮮ではあったが。


 どんぐりは「わかってないなぁ」とやれやれ顔をしながら力説する。


「あのおしとやかで可愛い容姿に、勉強では学年トップクラス。さらに、性格までよくて人望も厚い。まさに、高嶺の花だろ!それなのにお前ときたら……。くそ、羨ましいだろうが!」


 嫉妬心を全面的に露わにしながら恨みを俺にぶつけてくるどんぐり。

 理不尽ここに極まれり、である。

 まさに、完全なる八つ当たり。


「聞きたいことがあるから、って少し話しかけられただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「……本当だろうな?」

「本当だ」


 俺は身の潔白を証明するべく、その詳細は伏せて、事実を告げた。

 俺と早見が付き合ってる疑惑のことをこいつに話したら、さらに面倒なことになりそうだから。火に油を注ぐことはしない。


 どんぐりは、未だ羨ましさと悔しさが入り混じったような複雑な表情をしていたが、


「今日のところは勘弁してやる!」


 と、いかにもな雑魚キャラ発言をして、退散していった。

 と言っても、俺の右隣の席なんだけど。


 ふと、廊下側の真ん中の席に座り、友人と会話をしている水無月へと視線をやる。

 ちなみに、俺の席はその真反対の窓際、後ろから二番目。


「水無月ひより、か」


 小声でぼそっとその名前を呟いてみる。


 彼女とは以前に一度だけ話したことがあった。

 あれは確か────

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