第7話 再び、白雪姫と過ごす放課後。
あれから約一時間後。
俺は再びスノバに来ていた。もちろん、早見も一緒に。
俺はアイスココアを、早見はカフェオレをそれぞれ注文し、席につく。
「で、どういうわけだ?さっきも言ったとおり、お礼ならもう済んだだろ?」
もともと早見が俺にコンタクトをとってきたのは、バスで助けたことのお礼をするためだったはずだ。
俺は解せないといった様子で早見に尋ねた。
「そうですね……」
それに対し早見は、少しの間考えるようなそぶりを見せ、
「……実は私、男性が苦手なんです」
そんなことを告げるのだった。
俺はその唐突なカミングアウトにどう反応すればいいのかわからず。
「えっと、男に生まれてきてごめん」
「ち、違います!紫吹さんを責めてるわけじゃなくて……!」
早見は俺の発言を食い気味に否定し、話し続ける。
「よく男性に声をかけられたり、たまに告白されることもあるのですが、私はそもそも男性とお話しするのも苦手で。その、怖いなと思ってしまって」
いわゆる男性恐怖症というやつだろうか。
しかし、異性が苦手だけど、自分の意思に反して周りに引き寄せてしまうと。
モテすぎるってのも考えものだな。
と、ここで矛盾に気付く。
「あれ?──」
それなら、俺は……?
俺も、れっきとした男。まさかとは思うが、女の子に間違えられている、なんてことはないだろう。
確かに容姿などはあまり男らしいとは言えないかもしれないが、女の子よりは男らしいはずだ。当たり前だけど。
早見はそんな俺の思考を読んだかのようなタイミングで、俺の目を見る。
その表情は、どこか温かさを感じさせるもので。
「……でも、紫吹さんだけは違ったんです。紫吹さんとはこうしてお話もできるし、一緒にいて嫌じゃなくて。むしろ、一緒にいたいとさえ思えるんです」
「ほえ?」
おっと、変な声が出てしまった。
それもそのはず。
美少女にそんな告白チックなことを言われてしまえば、鋼の心を持つ俺でもさすがに動揺してしまうというもの。
もし今のを聞いたのが俺以外の男なら、こいつ俺のこと好きなんじゃね?と盛大に勘違いしてしまっていることだろう。
危ない危ない……。
「……それは、俺がバスの中で助けたから?」
そう、別に彼女は俺に対して恋愛感情を持っているわけでもなんでもないのだ。
ピンチのところを救われれば、相手への信頼感も多少は生まれるのだろう。
吊り橋効果、というやつに近いかもしれない。知らんけど。
早見は俺の疑問に対し、その答えを述べる。
「それももちろんありますが……。紫吹さんは、いじわるで、変わってるところもありますけど、優しい方ですし」
そんな褒めてるのか貶してるのかよくわからないことを言う早見。いや、3:2くらいで貶してる方が強い気がする。
「それに──」
「それに?」
「手、です」
「……はい?」
思わず、呆気にとられてしまう。
えーっと、意味がわからん。
実は早見は熱烈な手フェチだとでも言うつもりか……?そして、俺の手がドストライクだったと?
変な考えばかりが頭に浮かんできたところで、早見はこほんと小さく咳払いをする。
「私が1組の教室に伺った時、私は紫吹さんの手を握りましたよね?紫吹さんが私のことを気にもとめず、帰ろうとしたからですけど……」
「あぁ、そんなこともあったな」
実はあの時、その女の子らしくて、小さく柔らかい感触に少しどきっとしたのはここだけの話。
「先ほどもいったように、私は男性が苦手なんです。話すことさえままならないのに、ましてや触れることなどできるはずもありません。でも、紫吹さんの手はすんなりと握ることができました。だから──」
早見は両手を自らの胸の前で握り、その時のことを思い出すように、語っている。
俺は喉の渇きを感じ、アイスココアを一口ごくり。
だが、結果として、それがよくなかった。
「──紫吹さんが私の初めての人、だったんです」
「ぶっ!?」
そのとんでも発言により、口の中のアイスココアが見事に大噴射。
こいつ、狙って言ってるのか……?
いや、違うだろうな。天然女子こわい。
「し、紫吹さん!?」
一方で早見はというと、いったいどうしたんだとでも言いたげに目を見開いている。
誰のせいだよ、誰の。
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