第130話「偽りの王の最期」-Side信矢&狭霧-その5

――――Side狭霧


「千堂さんに伺いました、まずは狭霧さん、改めて弟の幼少期の酷い振る舞い、イジメの件……本当に申し訳なかった」


 目の前のサンジュンさんは再び頭を下げて私に誠心誠意謝っている。正直この人が謝っても意味は無いと思うから私の口は自然と動いていた。


「い、いえ……確かに酷かったですけど、でも……」


「でも?」


「そのお陰で私は信矢と出会えました、そして恋に落ちた……だから今でも許せないけど、もう関わらないなら今回は……その」


 ユンゲは大嫌いで二度と顔も見たくないけどサンジュンさんも可哀想だし今回だけは許しても良いんじゃないだろうかと思った。だけど私の意見は家族三人に全否定された。


「狭霧!? それはダメよ」


「そうだゾ狭霧、パパが法廷で決着をつけてやる!!」


 母さんとパパは全力で戦う気で訴訟も起こす気満々だ。たとえ相手が政府でも戦うと豪語していた。嬉しいけど大事になり過ぎてる気がする。


「もう一人の被害者としてはバッサリやって欲しいんだけどね~」


 そうだ、一緒に遊んでいた霧華もイジメを受けていた。本人は三歳で覚えていないらしいけど断片的にはトラウマが有ったらしく、だからと言葉を続ける。


「シン兄や姉に聞いてた通り、あなたは悪い人じゃないのは分かったんで、ただ順序として、そこのアイドル様が土下座するのが先だと思うんですけど?」


「なっ!? 何を言ってる金髪おん――――ぐぁっ!?」


「お前は黙ってろ、な?」


 後ろで抑えつけていた店長の勇輝さんがユンゲの首根っこを掴んで軽く力を込めたようで顔を真っ青にしてうめいている。


「……ユンゲ謝るんだ」


「だ、だけどっ!! こんな理不尽に――――」


 皆が騒ぐ中で私は気になることがあった。先ほどから信矢が静か過ぎたことだ。そもそも怪我して隣に座っていたのに、いつの間にか居ない。


「なるほど、そういうことか」


「ええ私の推察と仁人様の答えがこちらです、いかがです?」


 上半身裸で包帯がグルグル巻きの信矢が七海先輩の横で何か資料を読んでいた。シンパパや川上さんもいつの間にか一緒に横で資料を読んでいる。


「シン? どうしたの?」


「ああ、狭霧、七海先輩のプランを見させてもらってた、それじゃ僕は賛成で」


 信矢が七海先輩に向かって言うと私にも資料を見せて来た。それを私が読んでいる間に七海先輩が宣言した。


「はい、ご承諾ありがとうございます、では始めましょう皆さん」



――――Side信矢


「では春日井くん、お願いします」


「分かりました七海先輩、まずサンジュンさんには今回は僕からのお願いを聞いて頂きたい」


「それは……僕の力で出来ることなら」


 それはそうだろう条件次第というのは分かる。僕もこの人を困らせる気は無いから条件をすぐに提示する。


「極めて簡単なことです、まずユンゲの謝罪です、もちろん僕ではなく狭霧と霧ちゃん二人へのです、僕は先ほど殴りに殴ったので」


「いやだ!! サギーは僕のだ!! 僕の物だ兄さん助けてよ」


 ユンゲは必死に兄に助けを求めるがサンジュンさんは逆に意気消沈していた。たぶん弟の情けない姿を目の当たりにして愕然としているのだろう。


「なんて情けないんだ……ユンゲ」


「ご覧の通り彼も素直になれない様子ですので、これを」


 僕はとある米国の寄宿舎のパンフをサンジュンさんと奥さんに見せる。興味があるのかリアムさんも見に来ると一気に顔が笑顔になっていた。


「この寄宿舎は下手な訓練施設より厳しく三日で逃げ出す者がほとんどだそうです、そこで二年間、そして韓国での兵役の二年の合計四年、ユンゲを拘束して下さい」


 それに分かったと頷くサンジュンさんだがユンゲはアニキに抑え付けられながらも僕の方を見て嘲笑を浮かべ騒いでいた。


「はっ!? 愚かな日本人が、俺のような選ばれし王は兵役が免除されるようにとEUFAのテヤァボジが政府に言っている!! そんなことは起きないケセキが!!」


「ふっ、それが起きるんだユンゲ、だってお前はもうアイドルじゃ無いからな」


「は? はぁ~? 狂ったのかチョッパリ~?」


 ポカーンとした顔のユンゲだが教えてやる必要は無い。既に数日前から事態は全て動いていたのだから。知らぬは当事者のみだ。


「交代しましょう春日井くん、ソン・ユンゲ、あなたの今までの素行や全ての犯罪歴その他諸々を日韓両政府に提出しました。そして先ほど、このような回答が」


「な、なんだ、何だよこれは!?」


「失礼、僕にも見せて下さい……そうか、なるほど……」


 七海先輩が韓国訳された書類をユンゲの目の前に見せサンジュンさんや奥さんにもコピーを渡していた。そして日本語訳の方は僕が皆に見せていた。霧ちゃんは「でも土下座は必須ね~」と言っている。どうやら単純に見たいだけらしい。


「それと、こちらのニュースもどうぞ」


「なっ、何だよこれは!?」


 さらに七海先輩のお付きの黒服がスマホを見せるとネットニュースが流れていた。そこに載せられていたのはユンゲの芸能界引退のニュースと事務所からの公式コメント、更に自分の言った覚えの無い引退宣言だった。


「え~っと、南方王位のメンバーのソン・ユンゲは語学留学のために渡米しアイドルを引退!?」


「もう既に準備は終わっているんだよ偽りの王様?」


「うっ、そだ……そんなはず……」


 これを見てサンジュンさんも遂に覚悟を決めたようで再度こちらに頭を下げるとユンゲに向かって諭すように説得を開始した。


「ユンゲ、彼らに謝りなさい、彼らはお前が引退すれば今回のことは全て水に流してくれると、そう言ってるんだ」


「な、何でだよ兄さん!! どうしてだよ!! 俺は、僕はぁ……こんな」


「両政府も匙を投げるほどお前の素行は最悪だ、このレポートには韓国での悪行も記されている、向こうでも相当な悪さをしていたようだな」


 そこに記されていたのは学校内での横暴な振る舞いやイジメの先導、そして一部女子生徒への暴行や暴行未遂事件などが記されていた。


「サンジュンさん残念ながら日本でも被害者が出ています、被害者には当グループが対応しました……ですので、分かりますね?」


「千堂さん……分かりました……この条件を全て飲みます、どうか、どうかこれ以上は誰も……」


 つまりユンゲは今滞在しているホテルで婦女暴行などをしていた。七海先輩が調査しても最初は発見出来ず、隠蔽が上手く手慣れていたらしく発見が遅れたようだ。蛇塚組の残党も関わっていたのも一因かもしれない。


「兄さん何が悪いんだ!? あのスシ女どもだって最後は泣いて喜んでいたし、僕が抱いてやって――――ぐへぇっ!?」


 メガネを取って実の弟の顔面を殴りつけたサンジュンさんは泣いていた。あまりの素行の悪さと自分の不甲斐なさに泣くしかないのだろう。


「もう、お前を弟とは、思えない!! この弟、クズを……お願い、します!!」


 血が出るほど唇を噛んでいるサンジュンさんを見ると複雑な気分になるが、ここでユンゲを許してはいけない。最後まで見極める必要がある。


「後ほど書類にサインをお願いしますので、ではメインイベントです霧華さんのお望みのジャパニーズ土下座を見せて頂きましょう、秋津さん?」


「へいへい、縄を解きますよっと、ほれ」


 アニキが縄を解いてユンゲを放り投げると奴は僕らの前に倒れ込んだ。見上げる顔は茫然としていて間抜け面だった。


「ソン・ユンゲ、君に最後の機会を与えよう……今までの事を全て悔い改めて謝罪するのなら、処分の保留を検討してもいい」


 この僕の発言に家族やサンジュンさん達も驚いていた。これはある意味ユンゲへ最後の救済で同時に罠だ。


「ユンゲ、今までの行為を狭霧や他の多くの犠牲者達に詫びろ、全てはそこからだ」


「うっ、うぐぅ……ううっ、悪かった謝ってやっ――――ふぎゅっ」


 素直に謝る気は無いようだから頭を踏ん付けておく。僕は優しいから地面とキスさせるだけで済ませて足をどけた。


「それは謝ってるとは言わない、やり直しだ」


「ぐっ、私がぁ、悪かったです……ごめんなさい、もう、許して……下さい」


 しっかりと頭を地につけて謝ったのを確認すると狭霧を見る。


「どう、狭霧?」


「う~ん、あんまり気分良くないかも……スカッとしないね」


「たしかに後味が悪いね、じゃあ七海先輩あとはお任せします」


 僕がそう言った瞬間、奴は土下座を止めて立ち上がり僕や狭霧に掴みかかろうとするがアニキと竜さんが両サイドからガッチリ抑え込む。


「ま、待て!! 待てよ!! 俺は謝ってやったんだぞ!! 処分を撤回しろよ!! ケッセキがああああああ!!」


「はぁ、検討してもいいと言っただけだ……それに今、僕らに殴りかかろうとしたろ? やっぱりダメか」


 もしユンゲがこのまま素直に罪を認めるのなら一部の処分を撤回させる用意が有った。あのネットニュースや書類などは今はまだ提出していない段階で今の所は全てフェイクだった。


「だ、騙したなああああ!! チョッパリめええええ!!」


「騙した? 人聞きの悪い、言葉の綾だ。聞いてない君が悪い、その辺りも米国でしっかり教育されてくるといい」


 しかし、この様子では何も反省してないのがよく分かる。先ほどのニュースも正式に公開されるし書類も全て真実になる。最後のチャンスとは彼の残っているかもしれない善性を試したのだ。


「こ、こんなの認めない!! 認めないぞ!!」


「そうか、なら現実を見せてやるよ……狭霧?」


「な~に、信矢っ――んんっ!? んっ、いきなり、どうし、んちゅ、んふっ!?」


 なので狭霧への執着は本物だったから盛大に見せつけてやることにした。狭霧を抱きしめ唇を重ねる。一度、二度、三度キスを深くする。ちなみに我が家の両親は固まって、狭霧の家族は大盛り上がりだ。


「ふぅ、狭霧とキスしたくなったんだ、まあアレだ、最後に狭霧と僕のキスシーンを見せてやるから永遠の宝物にして消えろユンゲ、偽りの王よ!!」


「あ、アアアアアアアアアア!! 僕の、僕のサギーがあああああああ!!」


 トドメにもう一度深くキスをする。少し狭霧が人前に出せないとろけた顔をしてしまったから、ここまでだ。


「シ~ン~、舌入れるのはやりすぎ~、私……恥ずかしいよ」


「ごめんごめん、今晩は優しくするよ」


 そういって腕を離すとズキッと痛みが走る。応急処置だけでボロボロなのを忘れていた。しかしそれ以上に目の前のユンゲが絶叫を上げていた。


「あっ、アアアアア、そんな、アアアアアアアアアア!!」


「七海様、準備が整いました」


「ええ、ではサンジュンさん予定通り搬送します」


 それに無言でサンジュンさんが頷くと室内に制服姿の人間が数名入って来てユンゲは後ろ手に拘束されていく。


「俺は、王だ……理不尽を、王だ……僕が王なんだああああああ!!」


 最後まで叫び散らす偽りの王は連行された。父さんが拘束している人と話をしていたから見ると『秋山警備保障』の腕章が有ったから同僚みたいだ。ユンゲはこのまま米国に強制出国させられ二年間の厳しい寄宿舎生活が待っている。


「これで今度こそ終わり?」


「ああ、全部……終わったかな……うっ」


 ユンゲが引きずられて行くのを見送ると緊張の糸が解けて僕の体から力が抜けた。皆の呼ぶ声や悲鳴が聞こえ僕の意識は暗転した。



――――Side狭霧


「シン、おはよ」


「狭霧……もう来てたんだ」


 ベッドに横たわるシンを見つめて数十分、私は朝からシンの隣で寝顔を見ていた。小さい頃から変わらないようで少し凛々しくなった気がする。


「うん、だって今日はシンの退院の日だもん」


 シンが倒れてから十日が経過していた。急に倒れたシンは私の胸の中でイビキをかいて眠って病院にすぐに運ばれた。右腕は刺し傷で左肩は骨にヒビが入っていたのが判明し結果、一週間の絶対安静となり入院していた。


「まさか一週間が十日に伸びるなんて」


「それはシンが悪いんだよ、シンパパと二人で柔道の練習なんてするから」


 シンが倒れたのは今回の怪我が直接の原因では無く過度なストレスと疲労だとお医者さんが話していたが、勇輝さんや愛莉さんの話だと気配探知を使ったのが原因だと言っていた。


「あれは治ったかを確認したかったからで……」


「言い訳禁止!! シンは怪我を甘く見過ぎ!!」


 少し言い過ぎたかもしれないけど今後のために強めに言う必要が有るから仕方ない。そんな二人で話しをしているとシンママと母さんが病室に入って来る。二人は退院の手続きをしていたから私がシンを待っていた。


「ふぅ、じゃあ着替えたら帰っても良いんですか?」


「ああ、あと工藤のやつにも言っておくが無理すんなよ、俺はまだお前を助手にするの諦めてねえんだからな?」


「ふふっ、そうですね、先生にも本当にお世話になりました」


 このお医者さんはシンが中学の時からお世話になっている先生で一緒に応急処置した仲らしい。しかも工藤先生の大学の同級生だ。前の病院を追い出された時に七海先輩にスカウトされ今は千堂グループ直轄のここに勤めているらしい。


「大丈夫です、私が無理させないので!!」


「嫁さんがしっかり見ているなら安心か、頑張れよ春日井」


「はい!!」


 そして私と信矢は母さん達と一緒に家に帰った。もう既に学校は始まっているから明日からはシンや私も普通に登校だ。今日は学校に許可をもらって午前中で授業を終えて帰って来た。


「ふぅ、何だか十日しか経ってないのに久しぶりな感じだね」


「私、毎日お掃除してたよ!!」


「ありがと、狭霧は将来いいお嫁さんになってくれそうだ」


「当ったり前だよ!! 三年後をお楽しみにね!!」


 あれから十日間しか経ってないけど実は激動の十日間だった。シンが動けない中で私や家族も皆で頑張った。生徒会もシンが居ない状態で卒業式をして大変だったが何より大変だったのは卒業生を送る言葉が私だったことだ。


「本当に大変だったんだよ!! シンの代役!!」


「ごめんごめん、本当は吉川さんなんだけど通例で、送る言葉は二年生じゃなきゃダメってのを忘れてたよ」


 新しい学校なのに妙な風習があって最初は断ろうとしたけど七海先輩や部長、それに部活の先輩たちに言葉を送りたいと思ったら自然とシンの代わりにスピーチが出来ていた。


「霧ちゃんやカリンから聞いたよ、名スピーチだったらしいね?」


「ううっ、途中泣きそうになったけど頑張ったんだから」


「えらいえらい、狭霧は頑張ったよ」


 よしよしと頭を撫でられ顔がへにゃっなっちゃう。だって大好きな人のナデナデは魔法のような力が有る。これは私がシンと出会った頃から実証されているから確実。


「じゃあ下に行こう、そろそろ霧華も帰って来るし」


「そうだね、霧ちゃんにもお礼を言わなきゃ」


 二人で下の階に降りると母さん達がお茶を飲みながらテレビを見ていた。どうやら昼のワイドショー的なニュースのようだ。


『続報です、韓流アイドルの南方王位のメンバーが今週に入って二名連続で逮捕されました、ユンゲ氏の海外留学と何か関係が有るのでしょうか?』


『これはアレですねえ、例のEUFAの問題にも関係してるのかもしれませんね~』


 テレビではコメンテーターが面白おかしく事件の解説をしている。それを見ていると霧華が帰って来たが他にも人がいた。


「ただいま~、それとお客さんだよ~」


「失礼します春日井くんの様子を見に参りました」


「同じく、久しぶりだな信矢?」


 霧華に続いて我が家に来たのは七海先輩と最近はあまり姿を見なかった夢意途先輩の二人だった。



――――Side信矢


「お二人とも、まずはご卒業おめでとうございます」


「ありがとう春日井くん、出来ればあなたの言葉で送られたかったのですが代役が優秀でしたので許しましょう」


「頑張りました!!」


「あれは中々に見事だったよ竹之内、いやここでは狭霧と呼ぶか」


 確かに、この場に竹之内は三人もいるから不便で納得だが少しムッとする。仁人先輩は悪気なく言っているのだが気になるのは仕方ない。


「そんなにむくれるな信矢、さて、お二人もいるようなので事件の最終報告をしようと思うのですが」


 母さん達も頷くと仁人先輩と七海先輩は僕が倒れた後の話を始めた。とは言っても概要は病室で聞いていた。今日は最終報告だと前置きされ資料が渡されると僕は目を通し始める。


「まずユンゲは今頃、地獄のブートキャンプ中です、それが二年続いた後に兵役が待っていますので四年後までに性根が治ってるといいですね」


「無理だろう、あの性格だ……あと信矢が気にしているサンジュン氏だが弟のスキャンダルが原因で芸能活動を自粛している、今月の来日イベントも表向きは中止だ」


 仁人先輩の話を聞いていると本当に申し訳ないことをしたと思う。あの人は巻き込まれた被害者だ。いつか日本でもう一度、会う時は笑顔で会いたい……難しいだろうけど。


「そして政府の問題も解決しました、これは間違いなく春日井くんのお手柄です、今回の事件で日本の権力機構は今後、我がグループに逆らえなくなりました。韓国政府も同様にね」


 今回の事件はアイドルの問題だけでなくEUFAと呼ばれる韓国の宗教団体の介入が確認された。しかも日韓両政府の議員も深く関与していて千堂グループを排除したかった勢力はEUFAに動かされていたことが判明したのだ。


「だから逆に奴らに対抗する勢力に『地球統一家族集会EUFA』の情報を流し今は逮捕者続出さ」


 さらにユンゲの所属していた南方王位は一人を除き彼らに協力し利益を得ていた。その結果、彼らは解散し予定されていた国連特別平和大使の話は消え逆に詐欺と若者との結びつきの悪例として国連で告発された。


「今まで日本や韓国それに海外で活動していたEUFAは、その支部を次々と閉鎖し宗教団体から詐欺集団として各国で訴訟が起きています、その発起人はご存知のあの方になってます」


「パパですね七海先輩!!」


 実はリアムさんは過去に何度か奴らと対峙し裁判では敗北していた。だから今回はリベンジマッチに燃えていて昔の仲間を集め世界中を飛び回っている。


「ええ、我がグループも全面的にバックアップしNYや東京、ソウルなどで集団訴訟を行い奴らを駆逐している最中です」


「でもパパ無理してない?」


「それは大丈夫よ霧華、優一さんが一緒ですもの、ね? 先輩」


 そして各国を回るリアムさんの護衛には父さんが付いている。最初は専属の護衛をしている依頼主に引き留められたらしいが同僚達がカバーしてくれるようで今は二人でアメリカだ。


「そうね、あの人も一緒だから大丈夫だと思うけど、我が家の男どもは無茶ばかりするから、ねえ? 信矢?」


「ほんとです~お義母さま~!!」


 そして狭霧は完全に僕の敵サイドに回っている。最近は高確率で母さんの味方をしていて僕の無茶や無謀をいさめることが多くなっていた。


「その説は、本当にすいませんでした」


 僕が謝ると仁人先輩や七海先輩も笑っていると二人に釘を刺すように母さんの口が動いていた。


「本当は二人にもお説教したいんですけど……今回もお世話になりましたので大目に見ます」


 母さんの説教は先輩たち二人にも及ぶようで普段は軽口を叩く二人も少しだけ神妙になって言葉を真摯に受け取っていた。


「ありがとうございます、実は私達にお説教をしてくれる方はいないので貴重です」


「違いない、悪さばかりしてるからな俺達は」


 まさか数年後に巨大グループの総裁になる人間に説教できるのが家の母さんだけとは僕達はこの時は思いもしなかった。


「さて、あとは何か質問はありますか?」


 そこで僕は気になっていた事を幾つか聞いて最後に一番重要な質問をした。


「それで学校での処理は?」


「ええ、そちらも箝口令を敷いた上で被害者には救済を、事件には優人警部に、生徒のケアは工藤先生を中心に動いてもらってます」


 後で分かった話でユンゲは生徒にEUFAの人間を使いマインドコントロール、つまり洗脳していたことが分かった。あの付き人がEUFAの人間でユンゲを利用し日本での会員を増やすために動いていた。


「仁人先輩なら気付いていたのでは?」


「気付いていた、というよりも予測はしていた、言い訳だが三郎さんと別なことに力を注いでいて結果的に見逃した、すまない」


「仁人様は悪くありません、理事長代理でありながら見逃した私のミスです」


 例の沖縄の騒動後、千堂グループとEUFAとの戦いは水面下で行われていて学校にまで手が回らなかったらしい。そんな中でまさか本丸の涼学に敵が潜んでいるとは思わず油断したそうだ。


「だから信矢、君がいてくれて良かった」


「ありがとうございます……ま、お二人が学園から去れば危険は減りますよね?」


「人を疫病神みたいに言うな……ま、正解か、ふっ」


 その後は一緒に昼食を食べながら軽い雑談をした後に二人は帰って行った。これにて僕らの学園での最後の戦い『EUFA事件』は幕を下ろし今度こそ僕らは日常に戻る事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る