第129話「決着と裁かれし罪の行方」-Side信矢&狭霧-その4

――――Side信矢


 腕に痛みが走る。血が結構出ているが見た目ほどダメージは無い。それより今は怒りの方が勝っていて最後まで卑怯な目の前の男を睨みつけた。そして同時に決勝開始前に控室で起きたことを思い出す。


 準決勝後の控室で決勝戦まで待機していた僕は刺客に襲撃された。


「これがユンゲの答えか!!」


「韓国野郎なんて関係ねえ!! オヤジの仇取らせてもらうぜガキぃ!!」


「まさか蛇塚組の残党!?」


 襲い掛かる相手に僕は三対一で不利になりながらも一人を倒したが追い詰められていた。奥の手の気配探知も今はまだ使えない。


「そうだ!! あのガキのお守りをしながら、ずっと待っていた!!」


「ムショの親父への手土産だっ!! 死ねガキぃいい!!」


 向こうがナイフを取り出し覚悟を決めたタイミングで控室のドアが蹴破られ中に入って来たのは父さんと竜さん、レオさんの三人だった。


「無事か信矢!!」


「父さん!?」


 父さんは圧倒的だった。一人を素早く昏倒させると二人目も取り押さえ縛り上げる。竜さん達が動く前にほとんど一人で終わらせていた。プロだとは聞いていたけど父さんがこんなに強いなんて知らなかった。


「嫌な予感がして会場を見て回っていたら案の定だ、怪我は無いか?」


 父さんの話によると会場の見回りをしていたら七海先輩と話す竜さん達を見つけ協力を申し出たらしい。その後、僕の様子を見に三人で来た所で戦闘に巻き込まれたそうだ。


「信矢、お前の親父さん凄ぇな……外の奴らも一人で倒したようなもんだぞ」


 外の奴らと聞いて廊下を見ると同じ黒服にサングラスの男が三人も倒れていて二人は父さんが倒したと聞いて驚いた。


「シン君って武道の基本が出来てたけど、お父さんに教えてもらってたんだね」


「ま、まあ……少しだけ」


 実際は小さい頃に受け身と簡単な技しか父さんには教えてもらっていない。だから僕の柔道は空手と古武術とが混じって中途半端な形だ。


「今度、俺が教えた方が良いか……お前の癖を矯正するのは普通の道場じゃ難しいだろうしな」


「え? じゃ、じゃあ時間が取れたら……教えて」


 昔、教える必要が無いと言われ最近になって僕を思って教えなかったと語ったのは父さんだった。その父さんが改めて教えると言ったことに驚いたが、それ以上に凄く嬉しかった。


「ああ、ところで……その肩で行くのか信矢?」


「うん、狭霧がかかってるから……父さんが止めても行くよ……俺は!!」


 ヤクザ連中と戦っている間も肩を庇う戦い方をしていたから父さんにはバレてしまった。だけど、それでも僕は行く。今度こそ全ての決着をつけるために狭霧を守るために戦う。


「仕方ない、後で母さんに俺も怒られてやる……だから勝って来い信矢!!」


「父さん……ありがとう!! 行って来ます!!」


 そして混乱の中で案内役の生徒が僕を呼びに来たから急いで道着に着替えると父さん達に、その場を頼んで僕は決勝に向かった。


「時間ピッタリだ……始めようか裸の王様?」


「なっ、ええっ!? 何でお前が……やはりチョッパリヤクザは使えない!!」


 僕が現れるとユンゲは驚き付き人らしき男に韓国語で怒鳴っていたが途中から表情を変え一転して試合をすると言い出し遂に試合が始まった。




「よく考えたら貴様を直接倒せるのなら好都合!! この導きを偉大なる祖国に感謝する、死ねえ!!」


 開始早々、物騒なことを母国に感謝しながらユンゲは俺に襲い掛かる。動画で見た通りの貫手と蹴り技だ。既に禁止行為なのだが審判の工藤先生は止めなかった。恐らく七海先輩から言われてるのだろう。


「っ!?」


「怪我してるんだろう!! 役立たずのスシ女がお前を攻撃したからな!!」


 金属バットで殴られ先ほどもヤクザに攻撃されたので肩の痛みがじんわり効いてくる。動かすのには苦痛を感じるが逆に言えばそれだけだ。


「くっ、お前の指示に従った軍団レギオンだろ!? ファンじゃないのか!?」


 僕は狭霧がモデル兼アイドルのバイトをしていた時に色々と近くで見ていた。その時に知り合った頼野さんは初めてもらったファンレターを大事にしていて僕にも話してくれた。ファンとはそれだけ大事な存在なはずだが目の前のクズは違うようだ。


「日本人なんて都合のいい下僕さ、その昔、日帝が行った非道な行いに比べればマシなんだよ!! 感謝して欲しいものだ!!」


「お前は……どこまで腐ってるんだ」


「腐っているのは日本人だ!! 俺は正しき王なのだから!!」


 奴の蹴りが来る度に顔を防御しようと腕に負担がかかり、さらに拳は僕の左肩に直撃する。苦痛に顔を歪めると奴は愉快だったのか大声を出して笑った。


「あはははは!! これが王の一撃!! 王の力!! そしてサギーを取り戻す力だあああああ!!」


 しかし奴の一撃は空を切る。それは当然だ。いくら僕がダメージを受けて弱っていてボロボロでも最初から僕と奴との力の差は歴然としている。元の実力が違うのだ。


「なぁっ!?」


「まさか、こんなに弱いなんて……」


 また奴の蹴りを軽く避ける。今度は拳を防ぐ……痛みが有るが耐えられないほどでは無い。僕は奴と何度か対峙したが勘違いしていたようだ。


「何でだ、何で……お前みたいな日本人のケッセキが!? 認めないぞ!!」


「僕は本能的に恐れていた、国を背負っているという人間、僕の知らない狭霧の過去、他にも様々なプレッシャーで、お前が大きく見えていた」


 僕の目は色々なことで曇っていた。狭霧と結ばれ油断した色惚け状態と言えるかもしれない。この幸せな日々が壊されると思い敵を必要以上に過大評価し実力を見誤っていたんだ。


「つまり、僕はお前に圧倒されたんじゃない」


「な、なに!?」


「僕が思う、僕が考える最強の敵だと勝手にお前を勘違いしていただけだ!!」


 叫びながら拳を顔面に叩き込むとユンゲは鼻血を吹き出しながら倒れ込む。だが追撃の手を緩めないで更に攻撃を続ける。


「ぼ、僕の顔にぃ!! 絶対にゆるさっ――――ふごぉ!?」


「VTRを見た、お前、河井の掌底が掠ってキレてたな」


 河井がVTRを見ろと言っていたのはコレだとすぐに理解した。二人は当初は互角の戦いをしていたが偶然、河井の手が奴の頬を掠めてから激昂し目潰しを使って河井は倒された。


「顔を殴られた程度で……あんな卑怯な真似をして」


「ふ、ふざげるなああああ!! 俺の顔はっ――――ふぎゅっ!?」


「顔だけしか価値が無いのなら……それは真のアイドルじゃない!!」


 今度は後ろ回し蹴りで顔面を蹴り飛ばす。僕は狭霧と二人で頼野さんや他のアイドル達のレッスンを何度も見た。彼女らは常に努力しファンの前では笑い舞台裏で苦しんで時には泣いていた。


「少なくとも、お前にだってそんな時期は有っただろっ!?」


「ふっ、俺は選ばれた存在だ!! そんな下らない時間など無い!!」


 ユンゲは立ち上がるとファンレギオンは王に従う奴隷だと豪語する。そもそも『南方王位』のメンバーの二人の親族が芸能人で韓国芸能界で大きな力を持つ存在だから最初からファンは居て当前だと言い放った。


「そんな……」


 それを聞いて愕然とした。そして心の中の疑問が全て氷解していくと僕は目の前の男をやっと理解する。




「ぐっ、その顔やっと分かったか!! 選ばれし者とそうでない者の差が!!」


「そんな……可哀想なやつだったんだな、お前は」


 心の底から憐れだと思った。コイツは本当に裸の王様だったんだ。試合前の挑発が正解だったことに僕は驚きを隠せなかった。結局ユンゲは全て他人に用意された物だけで生きて来た偽りの王だったのだ。


「は?」


「努力も積み重ねた強さも何も無い人間……それがお前だソン・ユンゲ!!」


「は? 下らない俺には努力など不要だ!! なぜなら俺は選ばれた者だからな!! あらゆる理不尽を跳ね除ける王だ!!」


 だがユンゲは今の自分が下らない存在であることを理解していない。今までが砂糖菓子のように甘い環境だったから誰も教えてくれなかったのだろう。


「そんなキャラ設定の世迷い事を……そうか、だから狭霧が欲しかったのか、お前の下らないごっこ遊びにお姫様は必要だからな」


「貴様ぁ、王をっ――――ふごっ!!」


 また余計なことを言おうとしたから今度はビンタしてみると簡単にリングに倒れ込んだ。


「なら理不尽は自分の拳で何とかしろよ、お・う・さ・ま!!」


 そして地に伏したままのユンゲの顔面に上から渾身の拳を叩き込みリングにめり込ませる。もうコイツに手加減は一切しない。


「ぐっ、ほぉ……ぎっざまぁ……」


「本当に可哀想な男だ、お前が本当に努力すれば他に道も有った……俺よりも才能も有って何でも手に入ったはずだ、なのに……愚かだよお前は」


 そしてフラフラしながら起き上がるユンゲに素早く近付き腕を掴むと一気に迫り懐まで潜り込んだ。


「なっ!?」


「悪いな……柔道は今度練習するから自信は無いんだ!!」


 最後にユンゲの片腕を掴み一気にリングに叩きつける。一応は何度かやったことは有るが、これが一本背負いだ。


「ううっ、ぐぅ……ば、かな……」


 ユンゲが起き上がって来ないのを見て僕は先生を見る。動かないユンゲを見て先生は口を開いた。それを見て思わず応援席の狭霧を探していた。


「やったよ狭霧……今度こそ、ぐっ……」


 全力で投げたが肩に痛みが走り左腕を途中で離したから一本背負いよりも背負い投げに近かったかもしれない。後で父さんに注意されると思った時だった。一瞬、狭霧の声が歓声に紛れて聞こえた気がした。


「勝負あり……この試合、なっ!?」


「――矢!! ――――刃物隠してるから気を――――」


「え? ぐっ……これ、は?」


 そして振り返った瞬間、僕の右腕から血が出ていた。いつの間にか膝立ちになっていたユンゲの手には銀に輝く鋭い刃物が握られていて僕の右腕からは血が吹き出ていた。




「じねええええ、がすがいいいいいい!!」


 刺されたまま咄嗟にその場を離れた瞬間、正面のユンゲが何かを投げる構えを取ったのだが、その動きが遅く見えた。そうか、やっと戻って来たと感覚で理解する。僕の失った力の気配探知が発動していた。


「っ?! 避けただと!?」


「全て見切れるんだよ……本当の気配探知なら!! 後ろからも二つ!!」


 ユンゲの投げナイフを僕は簡単に避けることができた。しかし問題は背後の二つの方だった。しかしそれも既に発動した気配探知の前では無駄なことだ。


「馬鹿な、後ろからだったのにっ!?」


「言った、だろ……本当の気配探知……ならと」


 後ろを見るとユンゲの付き人が驚愕に顔を歪めている。そしてリングサイドに乱入したアニキに殴り飛ばされ歯が飛んでいた。


「工藤さんコイツは取り押さえたぜ!!」


「助かる勇輝くん!! お前も大人しくしろユンゲ!!」


 ナイフを取り上げると工藤先生は後ろ手に抑えロープで両腕を縛った。さすがは元警察官、実に手慣れていると思わず感嘆してしまう。


「や、やめろ~!! 誰か王を俺を助けるんだ!!」


 しかし裸の王様を助ける者はもう一人も居ない。さすがにこの状況では軍団も手が出せないし何人かの生徒は気絶していた。


「もう、お前に従う者は誰もいない、負けた王にはな!!」


「違う、俺は、俺は負けてない!! こんなぁ――――「いいや違うユンゲ!!」


 僕の言葉になおも反論しようとした時にリングの選手入場口から男の人の声が響いた。そして僕はその人を見て驚いた。


「え? 今の声は……」


「やあ春日井くん久しぶりだね……そして、本当に申し訳ない」


「サン……ジュンさん?」


 そこに居たのは沖縄で出会った韓流スターのソン・サンジュン、目の前の倒れ伏したユンゲの兄だった。



――――Side狭霧


「狭霧ちゃん、シン坊が待ってるから行くよ!!」


「え? 愛莉さん?」


 私は混乱していた。信矢が腕を刺されながら最後まで戦ってユンゲを倒したタイミングで沖縄で出会ったソンさん、ソン・サンジュンさんが出てくると一部の主婦の皆様が大興奮して試合は中断し審議中になったからだ。


「全てのケリは二人で付けた方がいいでしょ?」


「そっか、分かりました!!」


 そして愛莉さんに案内され会場の裏に仮設されている選手控室に到着して中に入ると、真っ先に目に入ったのは腕を包帯でグルグル巻きにされた信矢だった。


「シン!!」


「うっ……狭霧、大丈夫、僕は無事さ」


 絶対に嘘だ。凄い痛そうな顔してると思って何て言うべきかを考えていると後ろから出て来た人物が信矢を一喝していた。


「何が無事だ、まったく本当に無茶ばかりして誰に似たのか……」


「あれ? シンパパ?」


「狭霧ちゃん、実は色々有って少し裏で動いていたんだ」


 話を聞くとシンパパは異変に気付いて信矢を護衛していたらしい。そんな事を話していると川上さん達に連れられて私の両親とシンママ、そして霧華が入って来た。


「信矢!! 怪我は大丈夫なの!?」


「ああ、大丈夫……まさか刺されるとは思わなかったけど」


 そして怪我の説明を応急処置をしてくれたお医者さんと看護師さんがしている間に私は信矢の傍に近寄って大丈夫か再度聞いていた。


「本当に嘘付いてない?」


「ああ、今度こそ……何も、ただ……少し無茶をし過ぎた」


 腕の怪我は大したことないと言ってるけど血は出てるから心配だ。お医者さんの説明で肩にヒビは入っているだろうと言われシンママが後で話が有ると私と信矢を見て言った時は二人で震えていた。


「ま、まあ翡翠、落ち着け、な?」


「ええ……って、あなた、まさかあなたも知ってたの!?」


「い、いや……そのぉ、試合前に信矢が襲撃され――――「襲撃!? そんなことまで……責任者は誰!? とにかくリアム君、報酬は出すから徹底的にやって!!」


 パパもシンママの迫力に苦笑して「畏まりました」とか言ってて母さんも抑えるのに必死だ。最後に霧華がやっぱシンママが一番怖いよねと私達に言うと少しだけ場が和んだ。ナイス妹!!


「えっと、皆さん、今、その責任者と向こう側が来たんですけど」


 落ち着いた状態を見計らったように愛莉さんが声をかけてきた。そして言葉の意味を理解した信矢が口を開く。


「それは、ユンゲ達って意味ですか?」


「うん、七海お嬢が関係者を連れて来て話し合いってこと、どうする?」


 信矢が少し悩んでいるが真っ先に口を出したのはシンママだった。まずは怪我の治療だと主張する。すごく正論だしお医者さんもその方が良いと言っている。だけど信矢も、そして私も違った。


「そんなの後日で――――「いま、決着をつけたい頼むよ母さん」


「お、お願いします……翡翠、お義母さま……」


 私の信矢の横で一緒に頭を下げる。私達の決着は今ここで付けなくてはいけないと感覚で思った。信矢も、あの卑怯者をここで逃がすのは危険だと直感が告げていると説明する。


「狭霧ちゃんまで……分かってるの? 信矢の怪我は」


「翡翠、俺からも頼む信矢を、息子を男にしてやってくれ、頼む」


 最後にはシンパパ、優一お義父様も一緒に頭を下げてくれてシンママも話し合いが終わるまでは従うと不承不承納得してくれた。


「ただし、あなた!! それと信矢と狭霧ちゃんは後でお説教よ?」


「「「はい……」」」


 そして七海先輩に連れられて縛られた上に勇輝さんに抑えつけられ入室したユンゲが入室してくる。続いて入室して来たのは男女二名でソン・サンジュンさんと知らない女性だった。



――――Side信矢


「今回は本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」

「モウシワケ、ありませんデシタ……」


 入室と同時に僕と狭霧の前に来て土下座したのはサンジュンさんだった。聞くと隣は奥さんだそうで僕は慌てて席を立つと二人に立つように言った。


「サンジュンさん落ち着いて下さい、あなたは何も悪くない!!」


「だが、弟が君にした仕打ちを千堂さんから聞いた……本当にすまない!!」


 隣の奥さんも義弟が申し訳ないと泣いていた。だから僕は大丈夫だと言って二人は悪くないと言う。隣の狭霧も首を縦にブンブン振っていて二人は無関係だと母さんや父さんに言うが二人は違うと言い切った。


「それで、そちらのご両親は?」


 まず母さんが俺達を怒る時とは別次元の暗く冷たい声を出していて驚いた。さっき怒っていた時とは全然違う。


「はい、今は米国でして、先に私達が来ました」


「そうか……それで我が家の息子と将来の婚約者へ対応、どうケジメを付ける?」


 さらに父さんは淡々と、しかし感情の無い声で逆に怖い。僕は何度も二人とぶつかったが二人はこんな声を出したことが無い。本当に怒った二人を僕は初めて見たのかも知れない。


「で、では、まず双方で弁護士を立て――――「ふざけるなぁ!! 兄さん、そんな奴らの言うことなんて聞くな!!」


「ユンゲ、今サンジュンはあなたのために……」


 しかし、またしても空気を読まないユンゲは自分が今どんな状況かを理解してない。必死に頭を下げている兄の思いを欠片も理解していない。今もサンジュンさんの奥さんが韓国語で諫めているが効果は薄いようだ。


「うるさぁい義姉さんは黙ってろ!! 兄さん、何で理不尽に屈するんだ!! 僕や兄さんの、いや偉大なる祖国の力でこんな小日本のゴミなんて潰して――――」


「いい加減にしろユンゲ!! 目を覚ましてくれ!!」


 サンジュンさんが遂に堪え切れなくなって日本語で叫んで弟を叱った。それだけでユンゲは茫然としている。笑顔の伝道師と言われた彼らしからぬ怒声に僕を含めた場の一同も驚いた。


「えっ? 兄……さん?」


「本当に申し訳ありません春日井さん、そして信矢くん、狭霧さん……僕は君達に沖縄でお世話になったのに恩を仇で返すようなことを、全て僕や両親が悪いんだ」


 そしてサンジュンさんは語り始めた。ユンゲは狭霧をイジメていた数年後に韓国へ帰国した。しかし天罰のように今度はユンゲが日本人とのハーフだとイジメを受けたのだ。それを不憫に思った両親やサンジュンさんが金の力で解決し何でも甘やかしたのが今の性格の始まりらしい。


「な、何を言ってるんだ兄さん、悪いのは悪しき日帝の子孫のこいつらが!!」


「お前、本当にEUFAの思想に……すいません、全てこの子を甘やかした兄である僕や両親のせいです……まさかあんな集団に傾倒するなんて」


 沈痛な面持ちのサンジュンさんと激昂するユンゲだが当の僕らは二人の話が全然分からなかった。


「あの、EUFAエウファとは何ですか? 韓国の言葉……ですか?」


 僕や狭霧をはじめこの場のほぼ全員がEUFAという単語の意味が分からなかった。だがそこで口を開いたのは狭霧の父リアムさんだった。


「Earth Unity Family Assembly、日本語だと『地球統一家族集会』の略ダ信矢、新興宗教を騙る悪質な詐欺師集団サ」


「なにをぉ!! お前は何だ金髪男!!」


 ユンゲがまた騒ぎ出す。縛り付けられてアニキに抑えられてるのに口だけは動く奴だと呆れていたら怒りを隠さずリアムさんはユンゲを睨んで言った。


「私は狭霧のダディ、つまり父だが?」


「なっ、サギーの……」


「私の息子は信矢と決めているんダ小僧、お前のような男ニ娘はやらん!!」


 その強い言葉はユンゲを威圧した。現役の弁護士でアメリカの法廷にも立っていた人間の言葉は甘やかされていた情けないアイドルでは歯が立たない。


「さっすがパパ!!」


「御高名はかねがね、弁護士のリアム・バーネット氏ですね……本日は本当に」


「今は狭霧の父としテここにいル、続きを聞かせたまえ」


 そしてサンジュンさんは狭霧の方に視線を向け口を開いた。

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