第88話「深まる謎とアルバイト始めました」
暫くの間ゲンさんの言葉が入って来なかった俺達だったがゲンさんが話している途中で連絡が入って中断になった。
「なにっ!? 本当かアキ、分かった。上にはバレんなよ……すぐ行く!!」
恐らくは例の相棒のアキさんから連絡が来たようで怒鳴りつけるようにガラケーを切るとこちらに向いて言った。
「蛇どもに動きが有った。アキが先行してるから俺も出る」
「ゲンさん飲んでて大丈夫なんすか!?」
「大丈夫だ。じゃあ坊主と金髪の嬢ちゃん邪魔したな!! それと誕生日おめでとさん!! またな!!」
それだけ言うと嵐のように去った。残されたのはパーティー気分が抜けた俺達だけで、仕切り直しという訳には行かずに茫然としていたらアニキの発案で久しぶりのチーム・シャイニングとその同盟の会議になった。
「つ~わけだ。寝てた奴も聞いて無かった奴らも大体事情は分かったか?」
「おうよ。それで役所の奴らには話を通すか?」
「ああ、防衛軍にも話を通してもらえると助かるわ」
「ならAZUMAさんに任せとけ。例の食中毒事件以来、向こうに顔を出しても違和感持たれてねえからな」
そう言えば今日は初代空見澤防衛軍は仕事らしい。役所って土日も仕事が有るのかと聞けば、そもそも地域振興課だから土日はイベントに出て主催したりと大忙しだそうだ。
「それにしてもシンの知り合いって凄いんだね」
「ああ、AZUMAさんは反対の北口の居酒屋てか、昼は定食屋の店長さんだしな」
「おう、もし昼間にデートに来るんなら歓迎するぜ割引や、おまけもしてやろう」
そんな事を話していると時間はあっという間で俺達の誕生会だったのに衝撃的な出来事が多過ぎて一瞬で終わってしまった印象だ。
「狭霧ちゃん。ゴメンね今日は……なんか色々と」
「大丈夫です愛莉さん。そ、それに信矢と一緒にお祝いしてもらえたのが嬉しくて」
「そっか……じゃあシン坊!! 今日はこのまま送って行くんだよ!!」
「いえ今日は狭霧は俺の家に一緒に帰ります。さっき約束したんで」
そう言うと狭霧も嬉しそうに頷いていて今夜は二人で一緒にゲームとおしゃべりだと喜んでいた。
「ふっ、いい顔するようになったなシン、今日の残りは竹之内と二人で楽しめ!!」
「アニキ……はいっ!!」
前にアニキに言われた時は狭霧との関係を色々と言われて嫌だったのに今は自然と受け入れられるのが不思議だった。
「シン君。それは間違いなく成長だよ」
「ああ、正直になった方が色々と楽だぜ?」
「それを竜人殿が言うとは、世も末であるな。ぶっほっ!!」
サブさんと竜さんの取っ組み合いの喧嘩が始まったからその騒ぎに乗じて俺達は店を出た。外は薄暗く少しだけ涼しかったからか狭霧は俺の渡したプレゼントの手袋を付けていた。
「ね、シン」
「なんだ?」
「みんな、いい人達だったね……シンの言う通りだった」
「だろ? 俺が世話になった人達なんだぜ?」
二人で自然と手を繋ぐと狭霧は悩んでいるようで不安な瞳で俺を見ていた。そして意を決したように口を開いた。
「私が原因で酷い事したのに、皆、私が謝ると、それより私とシンのことを話せって、それで思いっきりイジるからチャラだって……私、本当に……」
「そういう人達なんだ。だから俺も救われた。甘えてもいいんだ狭霧もよ」
そのまま無言で家路を急ぐ。でもその沈黙は決して嫌なものではなく俺達は互いに握った手を放さずに二人揃って昔のように「ただいま」と言って家に帰れたんだ。
◇
「うん、うん、そっか……頑張ってね、じゃあね~」
翌朝ボクは聞き覚えの有る声で目覚めた。さぁーちゃんの声に反応してベッドから起きるとスマホで誰かと通話をしていたみたいだ。
「おはよう。さぁーちゃん」
「シン、おはよ!! 今ね綾ちゃんと電話してたの!! 凄いねアイドルって、もうダンスレッスンのために家を出るんだって」
そう言われて見たスマホの時計は、まだ朝の六時半過ぎを指していて驚いた。
「頼野さんは中学生なのに凄いな」
「そう言えばシンって中学の時もジョギングしてたよね。私、引っ越す前まで毎日カーテン越しに見てたんだ。今日こそは声かけようって」
「そうだったんだ。あの頃は強くなろうと必死だったから気付けなかった」
「うん。私の家も色々とゴタゴタしてたから」
ボクが原因だと思われる狭霧の両親の離婚。それには触れずボク達は下の階に降りると父さんが既に朝食を食べていた。相変わらず朝が早い。
「ああ、おはよう二人とも早いな」
「うん。少し早く目が覚めちゃって、父さんはもう仕事?」
日曜なのに出勤するようで本当にサラリーマンなのか怪しいなと思っていると母さんと二、三言話すと背広を羽織って行ってしまった。
そんな父さんを見送るとボク達も朝ご飯を食べていたら奈央さんがやって来て、急用だと言って二人は帰ってしまった。だからボクは母さんにある話を切り出した。
「アルバイトか。月に八千円じゃ高校生には足りないのかしら?」
「違う……クリスマスまでにお金が必要で――――「狭霧ちゃんへのプレゼント?」
「うん……そこで、ボクは」
「全部に決着を付けるのかしら?」
許可するかどうかの前にバイト先はどこかと言われ俺は説明するがバイト先は、もちろんアニキの店の『SHINING』だ。やっと昼営業の目途が立ったと昨日話されていた。
「それは、その……あなたが一緒にいた不良のお店?」
「不良じゃない、よ……ボクの兄弟子でアニキで」
「肩を脱臼したり、多重人格になるほどの戦いに巻き込んだ人よね?」
「それは……でもっ!!」
俺が何か言う前に母さんは溜め息を付くとゆっくりと言葉を吐き出すように言った。
「今日は秋津さんはお店に居るの?」
「たぶん……」
「ご挨拶に行きましょう……息子を託せるか見させてもらいたいわ」
そしてボクは自我変更して俺になってアニキの店へ母さんと二人で行く事になった。
◇
「では息子をお願いします。秋津さん」
「はいっ!! 俺、いえ自分も今後は危険なことはせずにシンに、じゃなくて信矢くんにはウェイターとして働いていただきます所存で――――」
「ユーキ!! すいません春日井さん。こいつ接客が夜の街仕込みで信矢くんには私が教えますので」
二人が凄い畏まっているのは笑いそうになったが母さんの説得は完了した。粘るかと思いきや二人と数十分話すとアッサリと許可をくれた。
「信矢、危ない事は絶対にダメよ。それと各務原さんの言うことをよく聞いて社会勉強して来なさい。じゃあ私は先に戻るから、色々と話しておきなさい」
そして母さんが出て行くと三人でグッタリとしていた。三十分にも満たない面接だったがアニキ達いわく逆に面接された気分だったらしい。とにかくこれで俺のバイトは決まった。
「平日は月・水・木のどれか二日っすね土日は両方大丈夫っす」
「分かった。シンが居ない時は愛莉とサブだな」
「そう言えばサブさんは地下っすか?」
「いや、今日は自分の得物を取りに行った」
あの時の戦いでサブさんの剣は警察に押収され処分されてしまったらしくドイツから送られてくる新しい剣を受け取りに行ったそうだ。
「ドイツの師匠のとこから偽装されて送られてくるらしいぜ」
向こうで師匠とそのお孫さんと修行をしてたらしく二人からの手紙も入ってるそうで、家族と絶縁されたサブさんにとっては親族のような間柄だそうだ。
◇
そして俺がバイトを始めて一週間、狭霧の方は勉強と最近は一人でリハビリに行く事も増えてスローペースならジョギングも出来るようになっていた。今は二人で走っている最中で話題は俺のバイトの話だ。
「シン、今日もバイト?」
「ああ、アニキんとこに顔出してからな。家まで送るか?」
「ううん。その、今日忙しくない時間に行っていい?」
俺は問題無いと頷いた後に今日は日曜だから昼過ぎに来て欲しいと話をした。そしてバイトに入ると今日もアニキがバーカウンターの上でラーメンを盛り付けていた。昼の時間の一番の人気メニューは、なんとこのラーメンだったのだ。
「俺の実家はラーメン屋だからな材料費も安く済むからな」
「つまり、実家の勇将軒からもらってるんすね……」
「まあな、いやぁ愛莉がお袋と親父に気に入られて良かったぜ!!」
二人で無駄話をしていたら愛莉姐さんに怒られると真面目にバイトに戻る。一週間と言っても今日でまだ三日目で少し慣れた程度だ。注文を聞いて料理を運ぶだけの作業がこんなに大変だなんて思わなかった。
「いらっしゃいま……狭霧か、それと君は……」
「来たよ信矢、ほら、綾ちゃんも」
「どうも、この間は……お世話になりました」
狭霧の後ろから出て来たのは頼野綾華、例のアイドルの卵だった。その子がオドオドして俺やアニキ達を見ていた。
「この間のお礼と相談が有るんだって」
「そうか、愛莉、昼休憩だ。看板クローズに」
すぐに察したアニキ、そして愛莉姐さんは俺達を奥のテーブルに座るように言って俺はエプロンを外して狭霧の横に座った。そしてそこで聞いた話に衝撃を受けた。
「ここ一週間ね、綾ちゃんとはアプリで連絡を取り合っててね。その、色々と相談を受けてたの」
俺は全然聞いてない話で面食らった。話はまだ続いていて頼野さんの父、栄田公太が突然自分を誘拐しようと中学まで来た話を狭霧に相談したらしい。事務所に話しても「問題無く対応する」としか言われずに不安だったそうだ。
「父がまさかあそこまでして来るなんて、お母さんと二人で家出した私達を連れ戻そうとしてるに決まってます……」
「それでこの間のヤクザもお父さんの部下かも知れないって……」
だがその割には狭霧まで連れ去ろうとしていたのは気になる。あとは狭霧を性的な目で見ていた。あれは誘拐よりも……そう考えながらも二人の話は続いていた。
「それで最近は色々と相談に乗ってたんだ」
「狭霧さんに相談乗ってもらってて、本当はマネに、梨香さんに引き込めって言われてて……」
あの女まだ諦めて無かったのかよ。こんな中学生まで使うなんて本当に最低だな。
「それも正直に話してくれたんだよ綾ちゃん」
「頼野さんがいい子なのは分かったけどよ。どうしますアニキ?」
俺も混乱してアニキや愛莉姐さんに話を振っていた。
「一応は俺の知り合いの刑事に相談は出来るけどよ……頼野、お前はどうしたいんだ? まずはそれからだ」
「そ、それは……」
そう言ってチラっと狭霧を見ていた。だいぶ信頼されたみたいだ。本人も昔の自分に似ていると言っていたし気にしていたに違いない。
「ま、急に言われても困るでしょ。こんなの作ったんだけど、どう?」
「あっ、美味しそう。いいんですか!?」
「きれい……」
愛莉姐さんが用意したのは季節外れのマンゴーパフェだった。頂き物のマンゴーを用意していたが客がオッサンばかりで注文が無かったのだ。二人は甘い物で口が軽くなったのか色々と不安だったと話し出した。
「だって信矢は私が関わるの反対だって言ってたし、でも綾ちゃんのことは心配だったからさ……」
「私も不安で誰にも相談出来なかったから狭霧さんが優しくしてくれて、まるでお姉ちゃんみたいで、つい甘えちゃいました」
頼野さんが言うと狭霧も満更でも無い顔をしていて得意そうで少し笑いそうになるが目が合うと恥ずかしそうにしている。
「ま、狭霧は実際に妹がいるから本物のお姉ちゃんだからな」
「そうなんですか!? やっぱりお姉さんっぽいって思ってました」
「そ、そうかなぁ~? ま、いいお姉ちゃんって言われてたよ」
実際は妹の方がしっかりしているのだが本人の名誉のために黙っていよう。そんな話をしていたら頼野さんのスマホに連絡が入り事務所から呼び出しを受けていた。
「あの、皆さん。今日はお話を聞いてくれてありがとうございました……呼び出しなんで行きます」
「あのっ、綾ちゃん、いつでも連絡してね。なるべく早く連絡するから」
「はい、ありがとうございます狭霧さん。では皆さん失礼します」
それだけ言うと彼女が店から出ようとするとサブさんとドアで鉢合わせしていた。
「おや頼野殿、お帰りかな?」
「はっ、はい。それでは失礼します!!」
今度こそ事務所に向かった彼女の背中を見て狭霧は何かを考えているようだった。そしてその考えを知るのが一週間後だなんてこの時の俺は知る由もなかった。
まさか狭霧が突拍子もなくモデルになるなんて言い出すなんて思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます