第47話「誇りある漢たちの背中、そして幼馴染の笑顔」
「はっ!! だがシンの幼馴染がお前らの協力者だとなぜ言い切れる? そんな事よりさっさと須藤の居場所を話しやがれ!! 話は全部終わった後だ!!」
「分かった、分かったよ。ただ最後に一つだけ、頼むよ。俺だって須藤さんにはめられた。いや賭けに負けたんだよ」
「わけ分からねえ事をっ!! てめえいい加減に!!」
竜さんとアニキが突っかかるけどサブローさんとレオさんが止めた、そして俺も二人に懇願した。本当の事が聞きたいと……、それで二人が何とか怒りを収めたのを満足したのか柳野もニヤニヤし出したので俺が代表して聞く。
「教えてくれ……狭霧は、お前らに……協力した……のか?」
「俺達にと言われたら微妙なんだが……須藤さんには協力しているのは確実だ。なんせ今までの指示は全部、須藤さんの情報で動いた指示なんだよなぁ。つ・ま・りぃお前の愛しい愛しい幼馴染はこちらの手駒だったんだよ?」
俺は膝から崩れ落ちた。ガクガクと震える。その俺の様子を見て竜さんが肩を貸して立たせた。顔はもう真っ青で頭痛がガンガンしている。まるであのイジメられていた時のような苦痛が俺を襲った。
「あ、ああ……うああああああああああああああ!!! うぐぁ……ぐっ……うぅ」
「てめえ……これで満足か!! もう我慢出来ねえ!! ぶん殴る!!」
次の瞬間にはアニキが柳野にボディーブローで二発殴り逃がさず顔面に回し蹴りを入れて後ろのPC群に叩きつけた。そして柳野はピクリとも動かず失神した。辺りにはノイズ音と俺の嗚咽だけしかしない。
「さ……ぎり。な、んで……」
「シン……取り合えずここは一度……ちっ!?」
下で足音がする。敵の増援か誰か来たのか?とアニキたちが言って警戒すると、そこには緑モヒカンさんこと田中さんや疾風の最後の一人でレオさんの知人の速水さんと言う人や、それに他のチームの残存メンバーも来てくれていた。
「お前らどうして……」
「愛莉さんから皆さんを助けてくれって、抜けられないから応援にって、この場所に招集かかってたんすよ。ま、もう全て終わっちまったみたいで俺らが来た意味無かったみたいっすけどね?」
田中さんが自慢のモヒカンを撫でながら他の合流メンバーに向かって言う。その他のメンツも苦笑いを浮かべながら間に合わなかった事を「だよな~」とか笑いながら言っていた。それでも俺たちはここに来てくれて感謝した。
「お、おい甲斐? その……後ろの、確か春日井くんだっけ? どうしたんだ?」
そして俺の様子に気付いた人たちにレオさんが簡単に事情を話していた。あくまで狭霧のことは伏せて自分が利用されたせいで沈んでいて、一番年下でショックを受けていると曖昧に言葉を濁してくれたらしい。らしいと言うのは俺はこの時、意識が不完全だったからだ。
「ま、色々あったが祝勝会と行こうか!! 全員でめ――――」
アニキが「全員で飯食いに行くぞ!」と言おうとした瞬間に突然辺りにパトカーの
サイレンが鳴り響いた。そして赤い光が廃工場の入り口の方から入ってくる。それを見たアニキ達は俺を担いで咄嗟に廃工場のさらに奥の一室に入る。二〇人以上も一斉に入ったからすし詰め状態だ。
「よりにもよってこのタイミングでサツ!? どうなってやがるんだっ!!」
「ユーキさん落ち着いてくれ……それより信矢をどうしますか!? コイツまだ半分意識が無いです」
「シン君? 辛いだろうが今は起きて? 逃げるよ?」
竜さんとレオさんが俺の頬を叩いたりしているけど俺の意識は半覚醒状態で、何より現実逃避したい弱い俺が居る。俺が何をした?なんで狭霧が?そればかりが頭の中をぐるぐる駆け巡る。涙は枯れ果てた……そんな俺の耳に誰かの声が聞こえた。
「なぁ~んだ……俺らの仕事まだあるじゃないっすか……」
「ん? 何を言っているのだ? そなた等は?」
「あぁ……分かったよ俺も……でもさすがはB/Fの副リーダー決断早いな?」
そう言うと残りの残存メンバーはスッと立ち上がった。それぞれがなぜかニヤニヤ笑ってお互いの肩をパンしたり小突いたりしていて、サブローさんや竜さんが困惑している。その中でレオさんがハッと気づいた。
「ま、まさか……やめろっ!! 速水!! 他の皆も、これは俺たちの問題だ!! それに君だって今年こそは全国に行くって……」
「うん。まあ、そんな夢もありました。だけど去年のクリスマスの時に捻挫してさ、二月の大会怪しかったんだけど誰かさんの応急処置が優秀だったらしくて完治して出られたんだ。だから俺はそれで満足……行こうぜ!! みんな!!」
「おう、栄えある『シャイニング』の、そして俺らのバカみたいに泣き虫な一番年下の後輩のために……時間稼ぎだ!! すっげえぞ、相手はサツだ……行くぞっ!!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」
そう言うと、一人一人部屋から出て行く。そして皆が俺に向かって肩を叩いたり頭をポンと小突いたりして一言、言って出て行く。
「頑張れよ」「負けんな」「根性見せろ」「怪我診てくれてあんがとな」
そして外で怒号が響いた。ここに到達させないように、俺の意識が戻るまでみんなが時間稼ぎをしている。俺たちを逃がそうと必死に……。少しだけ頭がスッキリしてくる。アニキが震えながら俺たちを先導してその部屋を後にした。
「くっ……すまねえ……皆、俺たちだけで蹴り付けようと……くっ……」
「行こう、リーダー……彼らも長くは持たない……」
レオさんが冷静に言いながら拳を痛いほど握りしめていた。そしてその後ろからまた怒号と他の仲間たちの声が響いて来た。
「止めないか!! 大人しくしなさい!!」
「君たちは完全に包囲されているんだぞ!!」
警察ともみ合いになっているのだろうかサイレンと物がぶつかる音、それらが廃工場に響き渡っていた。
「けっ……サツが恐くて……不良が出来るかよおおおお!!」
「おせえなっ!! 今なら新記録出せそうだ!!」
そしてその混乱に乗じてアニキ達に俺は担がれて隣の先ほど柳野が倒れているPCの部屋に戻った。まだ柳野が伸びているのを俺はボーっと見ている。だけどそこに
アニキの拳が顔面に入った。
「がっ……ううっ……」
「ユーキさん!? 何をっ!?」
少し痛みで意識が戻る。そしてまだ聞こえる怒号、たぶん警察と残りのメンバーが争っているんだろう……なんでかな?
「決まってんだろ!! オメーのためだ!! こんのっ!! バッカ野郎!!」
「えっ? なん……で?」
「そうだ……シン。起きろ……みんなお前のために時間稼ぎしてんだ」
俺のため?どうして俺なんか……俺のミスで狭霧を信じたから、信じてしまったからこんな事態になったのに?竜さん何で?
「まだ分かんねえだろ? 幼馴染、たしか狭霧だったか? 信じられねえのか?
好きなんだろ!? 守りたかったんだろ!!」
「守る……そうだ……さぁーちゃんを守らなきゃ……ボクは……いや、俺は!!」
「起きたようだな? 信矢氏……状況は分かっているか?」
何とか認識出来るほどに意識は戻った。まだ頭はズキズキ痛いけどそれがアニキの拳なのかそれとも頭痛からなのか分からない。だけど今は頭はだいぶスッキリした。いつまでも逃げちゃ、現実逃避しちゃダメだ。
「はいっ!! サブさん……だけど……俺らのために皆さんが……」
「ま、ここで彼らの犠牲を無駄には、とか言いたいけど彼らも持ってあと五分くらいだろうから……さて、どうします? リーダー?」
「ああ、決まってる。シン、テメェがしっかり責任取れ……それと財布出しな」
ま、そうなるよね。仕方ない、そう思って立ち上がる。え?財布?仕方なしに渡す。まさかのかつあげですか?そう思っていたらアニキは自分の財布から現金を抜き出し俺の財布に入れ出す。
「アニキ? 何してんすか? お小遣いとかですか?」
「まあまあ、シン君。少し頼まれごとを良いかな。『Vermillon Ailes』って言う紅茶のお店覚えてるかな?」
「えっとレオさんの彼女さんが居るお店っすよね?」
フランス語で『朱色の翼』って意味らしく前に教えてもらった。そこでよく彼女と会ったりしているらしい。
「そうそう。
「え? そんなの自分で――「信矢氏! 信矢氏!! このダガー、ドイツで我が従騎士の時にマスターから頂いたもの、しばし預かってはくれまいか?」
「は? いや……だから何でですか?」
そう言うとサブローさんは二刀のうちの片方の剣のダガーを渡してくると無理やり握らされてしまう。そして最後に竜さんが歩いてくると懐から何か出してきた。
「ほれ。受け取れ」
「これ? コインロッカーのカギっすか?」
「ああ、北口の地下の階段降りてすぐのとこだ。分かんだろ?」
「はい……皆さん……何なんですか? さっきから?」
四人と会話をしていると先ほどより外がだいぶ静かになって来たのに気づいた。いよいよ俺も警察の厄介になるのかぁ……そう思っていたらアニキがこっちに振り向いた。最後に何か言ってくれるのだろうか?
「ま、ムショはねえけど鑑別か、はたまた院かは行った事ねえから分からねえ。なんせ拘置所止まりだったからな……ま、今回はアウトだろ」
「ですよね~。中学生でも一年くらいで帰ってこれれば良いんですけど……頑張りますね……ついに前科持ちかぁ……」
「ああ……だからその前に一発お前の全力の拳を俺の顔面に入れろ。行く前の景気づけってやつだよ」
これで暫くお別れなら仕方ないね。なんか餞別みたいなのもいっぱい貰ったし、俺一人の犠牲で済むなら……それに成長を見せるためにも……じゃあ行きます!!そう言って全力でアニキの顔面を一発殴る。
「ごはっ……ぺっ……悪くない、良い拳になったじゃねえか……これなら安心だな? おまえらも、どうだ?」
アニキは血と混じった唾を吐いてその場の他のメンバーに確認するように言った。これで暫くお別れ、そんな雰囲気がした。
「ま、去年までのへなちょこパンチじゃ心配だったんすけどねえ……悪くない」
「僕は最初からシン君はこれで良いと思うよ? もう拳だけなら僕じゃ勝てないかもね? これからも頑張るんだよ?」
「吾輩、最初から信矢氏の属性満載の主人公感は嫌いでは無かったであるよ……なればこそ我が太刀を預けたのであるからな!!」
他の三人も俺を囲んでペシペシ頭を突いたり肩パンしたり何だかんだで別れを惜しんでくれてるようだ。これで安心して行けるな。責任を取らなきゃな……狭霧に会えなくなるのは辛いなぁ……それにちゃんと会って話を聞きたかった。
「それとよぉ……シン?」
「なんすかアニキ?さい――ぐぁっ!! ごほっ……げほ……なっ……にを?」
振り向いたらアニキの容赦無い拳が俺の鳩尾を確実に捉えて激痛が走った。ただ本気じゃない、本気なら俺の意識は無いはずだ。まだギリギリ耐えられる。どうして?アニキがこんな?
「ああ、責任取ってお前は幼馴染との関係をキチンと蹴り付けて来い……だからよ。ここは俺らがケツ持ってやるから心配すんなよ?」
は?何を言ってるんすか?アニキ……それじゃまるでアニキ達まで……な、なにを……クソ……腹に思いっきり入って立ってられない……立ち上がれない……クソ、まだこんなに実力差有るじゃないっすか……。
「まさか本当に君を行かせて僕らが逃げるとでも? 勝手に勘違いするなよ? それとシン君、真莉愛に伝言を頼んだよ? じゃあこれで!! 先に行くよみんな」
「ああ、レオ、輝いてるぜ……」
「はい、リーダーも……勇輝くんも輝いてますよ」
「れっ……おさん……待って」
俺の言葉に一瞬だけ振り返るとイケメンスマイルを向けた後に背を向けた、そして部屋を出る直前までその背筋はピッチリしてカッコ良かった。
「次は吾輩であるな!! 信矢氏言いたい事はさっき言ったが最後に一言だけ……。ここは吾輩に任せてそなたは先へ行け!! よしっ!! いいタイミングが見つかった!! では……いざ出陣!!」
「サブローさ……ん、まだ……俺は……」
サブローさんはレオさんと違って走り抜けて一気に外に出た。情緒もへったくれも無い、潔い……さすがは……誉有る騎士ですサブローさん。最高にカッコいいっすよ……今のあんた……。
「俺はよ……最初会った時にオメーが凄くダサく見えたんだ。「好き」とか「守る」とかよキレイごとばっかで弱いくせに一生懸命に、ほんとバカみたいによ……」
「そりゃ、無い……です……よ、竜さん」
「だけどな、オメーはそれで良いんだ。俺はフラれて諦めた。だけどオメーは諦めねえ……本当にアホなんだよ。だから今回はアホのお前を守ってやる。ちゃんと感謝しとけ!! じゃあな……信矢!!」
いや、色々言いたい事あるのに言い返せないじゃないですか……竜さん。カッコ付けてさぁ……クッソォ……。アニキ、本当に本気で殴りやがって……。そう言うと竜さんは部屋の扉を蹴って開けると大声出して突っ込んで行った。まだ音が聞こえるから先に行った二人が戦ってるんだろう。そして部屋にはアニキと俺だけになった。
「まだ意識あっか? ほどほどに動けなくなるくらいの力で殴ったからな」
「ぐっ……酷いっすよ……アニキぃ……」
「まあ、これに耐えられるなら、もう一人でも大丈夫だな? シン」
そう言って頭をポンとされた。自然と涙が出そうになる。
「え? い、嫌ですよっ!! まだ、俺っ……は、半人前で、舎弟で、アニキの後ろを守るぐらいしか……まだ、一緒に、これ……からもっ……」
「まあ痛みで悶絶してるとこ悪いがこの財布返しておくわ。この後の宴会用の資金だから竜とレオとサブローの分込みなんだ。だから遠慮無く使え。ま、それとカモフラージュ用って奴だ。被ってろよ」
そう言うとアニキは着ていた学ランの上着を脱ぐと俺の肩にかけた。そしてバランスを崩して俺はうつ伏せの状態でついに倒れてしまった。首だけはまだ少し動く。
「ア……ニキ……」
「俺はよ……割と人助けはして来たつもりなんだよ。愛莉も竜もレオもサブもそうだった。それと他のチームの奴らもお互いに戦って、その後は助けたから助けられた、ま、貸し借りの関係……だな、だからよ、お前だけなんだよ……俺が貸し借り無しで『助けられた』のは……」
「えっ?」
俺が……俺だけがアニキを助けた?確かに例のスタングレネードを受けてボロボロの状態を放っておけなくて治療したけど、たったそれだけじゃ……。
「初めて会ったあの日、神社の裏であのまま待ってりゃボコられるかと思ったらなんか弱そうな中坊が来やがってな。そいつがビクビクしながら治療すんだよ。難しい話してさ、すんげえ辛そうな顔したと思ったら今度はニヤけたりしてな……」
「そ……んな顔しま、したか?」
「ああ、してたぜ? そんで次会って助けてやったら今度はキレて突っ込んで来たけど弱過ぎてな。だから、俺が初めて助けられた相手は絶対に損得無しで俺が助けてやろうって、だから鍛えた……ま、そんな訳だ。だから気にすんなよ?」
気にしますよ。バカじゃないっすか……喧嘩師とか言って実際ただのお人好しじゃないですか……ただの中坊を、たったそんだけの理由で……助ける価値なんて俺にはもう……何も無いっすよ。
「ま、他にも理由はあんぞ? じゃあなシン……初めての俺の舎弟……お前はどう思ってたか知らねえけどよ……本当の弟のように思ってた……」
「まっ、待って……アニっ――がっ……」
直後に後頭部に手刀をくらって俺の意識は暗転した。薄れ行く意識の中でアニキが何かを話している。誰か……大人二人……?
「――――と、言う事で――――が、迎えに来るんで――俺らだけ――」
「これは――だぞ――――ついて来い――――」
待ってくれ……アニキ……待って、だが今度こそ俺の意識はそこで完全に闇に落ちた……。
◇
それからどれくらい時間が経ったんだろうか? 俺は誰かの声と肩を揺する振動で目を覚ました。
「ううっ……アニキ、みんな……待ってくれ、俺も最後までっ!!」
「キャッ!? もう、シン……おはよ?」
「うっ……ひっ……さ、ぎり?」
一瞬で目が覚めてしまった。目の前には月の光で輝くアッシュブロンドの髪と少し緑色に近い状態のヘーゼル色の瞳の幼馴染がいた。思わず飛びのくほど驚いた。場所はまだ廃工場だけど時間はすっかり夜になっている。
「どうしたの信矢? 頑張って探したんだから。もう心配したんだよ?」
「大丈夫……だから放してくれ……うっ……動けるな」
「無理しちゃダメだよ!! 座った方がいいよ」
本当に心配そうな顔をしている……だけど警戒は怠るな、これほど狭霧の顔が怖いと思った事は未だかつてない。ズキズキと痛む頭を抱え立ち上がり距離を取る。狭霧が不思議そうな顔をしてニッコリ微笑んだ。
「やっと二人きりだね……シン……」
「あぁ……狭霧」
熱に浮かされたように真っ赤な顔して言った狭霧の笑顔は、口元以外笑っていなかった……。俺はそこで改めて気を引き締めた。
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