第48話「後悔、だから私は取り戻す」‐Side狭霧その7‐


「狭霧……なんでここに居るんだ? ここで何を?」


「うん。さっきまでお巡りさんいっぱい居たよね。だから心配になって来ちゃった」


「いや、来ちゃったって……」


 目の前のシンは私の顔を見ると跳ね起きて、そして酷く怯えてボロボロだった。こんなになるまで利用されて、あんな奴らに……でも、もう大丈夫。だってあいつら皆、お巡りさんに連れて行ってもらったんだから……何も心配いらないよ?でもどうしてそんな怖い顔してるの?シン?


「それより、何で俺だけここに……どうして? 俺だけ無事なんだよ……」


「色々と混乱してるよね? だからもう……お家に帰ろう? シンの家まで私一緒に行くよ? 少し遅くなったけど、まだシンのお誕生日終わってないから昔みたいに家族だけで一緒にお祝いしようよ。ね?」


「うん……って言えるほどボクも、いや……俺も、もうガキじゃねぇんだよ……だって俺は――――」


 信矢のその真剣な眼差しを見てやっぱりカッコいいと思ったし、この目を見たのは二回目だって思った。あの日、決定的にお互いにズレが生じたあの日の目だった。強くなろうと必死に足掻いて、何より私が知らない幼馴染の顔だった。





「さぁーちゃん……いや、狭霧。俺はもう戻らないし戻れない。強さを手に入れて今度こそ……今度こそお前を守りたいからっ!!」


「そんなので私は守られたくないっ!! 前みたいに優しいシンじゃなきゃ私は嫌だよ!! だって、そんなの信矢らしくないっ!!」


 私は、たぶん怖かったんだと思う。変わっていく幼馴染が、大好きな人が全然違う顔になって行くのが耐えられなかった。だから本当は嬉しかったのに、昔みたいに私を守ってくれるって言ってくれて……でもその変化を拒絶するしか無かった、いや出来なかった。だから昔みたいに戻りたくて必死に引き留めたのに……。


「ねぇ!! シン待って!! シンママ……翡翠さんも心配してるんだよ!! きっとシンパパだって、だからもう危ない事はやめよう。私も一緒に行って事情を話すから、そうすれば昔みたいに!!」


「強くなりたいんだ……だから俺は行く……じゃあね。さーちゃん」


 最後にそう呼んでくれたのはいつだったんだろ……もう分からない。それに初めてだった、シンが泣いてる私の頭を撫でてくれない、抱きしめてもくれないし慰めてもくれない。


 ただ悲しそうな顔をして私に背を向けて、もう私の声が届かない。そんな所まで信矢が、私のシンが落ちて行ったように感じた。私は家に帰っても泣いた、泣き腫らして母さんに凄い心配された。そんな中だったクリスマスイヴの日に電話がかかって来たのは……。


『もしもし!! 狭霧ちゃん!! 信矢がどこに居るか聞いてないっ!?』


『い、いえ……シンがどうかしたんですか?』


『ええ、道場の合宿に参加するって言うからコッソリ様子を見に行ったのよ。でも道場は閉まっていて……だからどこか心当たりを探しているの!? 知らない!? なんでも良いの!!』


 でも私は何も答えられなかった。幼馴染なのに、一番の……一番の何だろ?今の私ってシンにとって何なんだろう?それだけで泣き出したくなって来た。電話を母さんに変わると母さんも慌ててシンママに会いに行った。


「狭霧、少しせんぱ……シン君のお母さんに会って来るから……本当はイヴくらいはバタバタしないで一緒に居てあげたかったんだけど」


「いいよ。私もシンの事すっごい心配だもん。だから分かったらすぐ連絡して!!」


 そんな時だった私のスマホに通知が入ったのは、バスケ部のグループ内のやり取りで元旦の午後から初詣に行かないかと言う誘いだった。一年生だけの集まりだと言うから私は色々悩んだ末に行く事にした。





「ふぅ……何やってるんだろ私……」


「あ、いたいた竹之内さん!!」


「こっちこっち!!」


 人が凄い多い、この辺りでは一番大きい神社で私とシンが普段遊んでた無人の神社とは全然ちがって巫女さんも神主の人も居る立派な神社だ。ま、シンと一緒に来れないからどこでも一緒だけどね。そんな事を思ってると先に集まっていた部員が四人いてその内の三人が振袖を着ていた。


「うわぁ……きれい」


「お母さんのお下がりなんだけどね~」


「竹之内さんとか着たら絶対似合うのにね」


 振袖、着物……でもたぶん私には似合わない、だってこの頭だから、着ている子はみんな黒髪で着物と凄い合っていて私が着てもどうせ似合わない。でもシンならきっと褒めてくれたんだろうなぁ……そう思っていると幻聴かなと思って神社の入り口を見るとそこに信矢がいた。でもその周りにはあの五人も居て……。


「ひっでぇ顔だなレオ? 彼女に恐がられたんじゃねえの?」


「大丈夫でしたよ。少し叱られましたけどね、ただ一緒に会った彼女の弟くんには怖がられました。確かシン君と同い年だったね」


「へぇ……そうなんすか? その子も強いのかな?」


 シンは左腕にギプスとは違ってもっと簡易的な包帯を腕に巻いていて頬っぺたとオデコには絆創膏が貼られていた。それを支えるように肩を貸してる目つきの悪いロン毛も距離が近いと思う。たぶん歩けないからだと思うけどアレは近すぎる。本当なら私が……ダメか今の私じゃ……。


「どうしたの? 竹之内さん……あっ……」


「うん、ゴメン。少し気になっただけ行こう」


 私の視線の先に信矢の一団を見つけると彼女も少しばつが悪そうな顔をしてこっちを見る。気を遣わせちゃったかな。この子はいつも私が信矢に会うのを妨害して来た二人組の一人で……名前は知らなかった。ただ皆が『スーちゃん』って呼んでるので私も自然とそう呼んでた。小学校から同じなのに失礼だったかも。


「う、うん……あれって春日井くんだよね?」


「うん。い、行こ、ほら三人とも先に行ってるし」


 スーちゃんと私は振袖組の三人を追った。私とスーちゃんの二人は私服だったので自然と歩いている時にこの組み合わせになってしまった。だから彼女がこちらに気付いたんだと思う。最後に振り返って見ると信矢は笑顔だった。もうあの笑顔は私を見てくれない……それだけで心が握り潰されるような痛みが私を襲った。


「あ、おみくじ~!!」


「うん。やろうやろう。破魔矢とか誰が買うんだろ?」


「お守りとかまだ先だよね~? 受験前に買うでしょ?」


 振袖組に追いつくと参拝前なのに先に社務所の販売所で色々見てる。三人に言って参拝に行く、みんな前の人に習って一回だけ頭を下げたり、手を叩いたりする中で私は『二礼二拍手一礼』をキチンとする。


 周りの人が少し不思議そうに見てるし振袖の子たちも何してんの?みたいな顔をして参拝を終えると神主の人が私を見ると少し驚いた顔をした後ににこやかに声をかけてくれた。


「失礼。お嬢さんキチンと神様へのご挨拶が出来る方みたいで大変関心しました。

外国の方ですかな?」


「あ、えっと……半分は日本人です」


「あぁ、これは失礼を。背筋もキチンとして『二礼二拍手一礼』を守って神前への年の始まりの挨拶をされていた。所作も慣れていたので驚きました」


「いえ……私も教えてもらっただけですので……」


 それだけ話すと神主さんは行ってしまった。今度は振袖組が近寄って来て今の話を聞いてくる。簡単に今の話をすると凄く関心された。そして『シッカリしないとダメだよね~』と言って社務所の方に行く。うん、やっぱりそうだよね。


(シンは違ったよね……絶対に言わなかった)


 これはもちろん昔シンに教えてもらった事だ。その時にシンは私がそんな事知らないと言うと少し困った顔をして言った。


『ボクも去年まで知らなかったけど覚えたんだ。さぁーちゃんも一緒に覚えよう』


『でも神様に挨拶してもお年玉増えないよ~』


『う~ん。でもボクもさぁーちゃんも神様にお世話になる事も有るしね? ほらちゃんとお礼とお願いしなきゃ? ね?』


 シンは初めて会ったあの日以降、絶対に私をハーフや外人と差別はしなかった。シンママの教育の賜物と私の母さんは言っていたけど、それをずっと守って常に私を気にしてくれていたのは間違いなく信矢が優しかったからだとハッキリ言える。


「じゃあ今日はこれで解散で~!!」


「うん。じゃあ冬休み明けに」


 そう言って解散すると私も帰ろうとするとスーちゃんが私の袖を引っ張る。どうしたの?と思ってそちらを見る。


「まだ春日井くん居るかも知れないよ? 戻ってみない?」


「べ、別に……いいよ。それに私は……」


「え……今って喧嘩中? じゃあ何か悪い事しちゃったかな?」


 そんな事は無いけどと言ってボカして私と信矢の状況を話していた。お互い意見が合わず話せない、習い事の先の先輩が例の不良グループでそれを辞めるように言って余計に話がこじれたと、今まで誰にも言えない事を話していた。


「それってやっぱり喧嘩中じゃん」


「うぅ……やっぱそうなのかなぁ……でもシンには不良なんか辞めて欲しいし」


 私達は神社に戻ってベンチに座ると少しづつ話し出した。ずっとスーちゃんと呼んでいたけど彼女の名前は須藤歩美だった。須藤だからスーちゃんだったんだと、この時初めて知った。

 それから少し話して別れた。少し胸の中のモヤモヤを吐き出せた気がして、この間まで信矢と私の邪魔して来たけどそこまで悪い人じゃないのかも、なんて思うようになって部活でも割と話すようになっていった。





 年が明けても信矢との距離は縮まらない、そんな気持ちがプレーにも出ていたのかミスも連発してしまう。スーちゃんや他の初詣に一緒に行ったグループにも心配されてしまった。そんな時だった信矢が肩を脱臼だっきゅうして登校して来たと聞いたのは……私は次の日にすぐに図書室に向かった。


「片手じゃ何するのも大変だよね? シン?」


「ふぅ……狭霧か。部活は?」


 久しぶりにキチンと聞いた信矢の声は少し疲れているように聞こえた、やはりギプス生活は大変だったんだろうか?これも全部あの不良と付き合ってるからだ。そう思うと体が勝手に動いて取り合えずシンを逃がさないようにしてたら、いつもみたいに少し怒られた後に諦めて話してくれた。


 その後も久しぶりに話せたら口は悪くなったけど、それでもいつものシンでこの間のことなんて無かったんじゃないかと思えるほどだった。それでもあいつらの元に戻る気は満々で付き合いは止める気は無いらしい。


「なら校門まで!! それくらいなら良いでしょ? ね?」


「分かった。本当はお前に変な噂を付けたく無いんだが……」


「そんなの……気にしないよ。だって私たちって……幼馴染でしょ?」


 そして帰り際に校門まで行くとそこでシンはスマホを開いた瞬間に今までとは全然違う顔をした、私と話していた時も口元に笑みを浮かべて少し顔は赤くなっていたけど今は満面の笑みと言えるほどの笑顔でその顔を私は最近見た。神社であいつらと一緒に居る時と同じ顔をしてる。


「そんな嬉しそうな顔、今の私には絶対に向けてくれないもんね……シン」


「え……お、俺は、そんな……」


「いいよ。私には分かるから、だから行っても良いから、ほら、もう校門着いたよ?」


 悔しい、憎い、妬ましい、それを必死に抑えるのが大変だった。だから私はシンに向かって宣言する、こんなに傷ついてまで手に入れようとする強さなんていらない、欲しいのはアナタだけだと、だから――――


「うん。どんな手を使っても私のシンを取り戻すから……じゃあね」


 ――――ゴメンね信矢、あなたの強さ……全部、私が壊してあげるから。





 私はこの日は中学になってから初の公式戦だった。一年生だから応援だけだと思っていたら少しだけ出場できたけど結果は散々で、やはり中学の壁は大きい。試合後は他の一年部員と一緒に話した後に会場で流れ解散となった。だから信矢をいかに取り戻すか考えようとして帰ろうとするとスーちゃんが一緒に帰ろうと声をかけてきた。


「あれから全然話せなくてさ……」


「ふ~ん。じゃあ何か話しかけるキッカケとかあればいい訳か」


「それがあったら苦労しないよ……シンの興味がある事なんて、あの不良の事だけだよ……。もう私に興味なんて」


「じゃあさ、その不良の事を聞いてみれば良いんじゃない?」


 何を言ってるんだろ?この子は、あんな奴らの話なんて聞いたって私は全然面白くない、だからその件は却下です。そしたらスーちゃんは意外な事を言い出した。


「竹之内さん、『敵を知り己を知れば百戦殆からず』って私の兄が、好きな言葉なんだけど。意味知ってる?」


「うん!! 知ってるっ!! シンが前に教えてくれたから!! 相手の事をよく知って行動すれば、絶対に負けないって、これは小四の放課後練習の時にシンが教えてくれて――――「お、落ち着いて竹之内さん、大事なのは意味だけだから、ね?」


「そっか。ゴメン……それで?」


 コホンとスーちゃんが咳払いすると信矢ほどじゃないけど分りやすく説明してくれた。つまり信矢の口から直接的に奴らの話を聞けば何かヒントか最悪、会話は成立するのではないかと言う事、そしてスーちゃんは懐から何か袋を二つ出して来た。


「なにこれ?」


「お守りだよ。ほら恋愛成就と健康祈願、ピンクと青で良い感じでしょ? この間の神社で貰ったのあげるよ」


「え? 何で?」


 いや、いきなりお守り二つもくれるとかどう言うつもりなんだろスーちゃん。そりゃ恋愛成就とか嬉しいけど……健康祈願?


「まず恋愛成就は竹之内さん持っててよ、あの神社ってうちの身内がやっててさ、これも貰い物なんだけど私は恋愛とかまだ早くて……」


「え……でもタダとは言え悪いし、それに信矢もタダより高い物は無いってよく言ってたし……貰うのは……」


「その春日井くんを取り戻すんでしょ? 神頼みくらいしなきゃ? ね?」


 そう言われると今は藁にもすがりたいし、当然、神様にもすがりたいし何なら悪魔に魂くらい売ってもいいからとにかくシンには早く私の横定位置に戻って来てもらいたい。


「じゃあ、遠慮無く……それでもう一つは何に使うの? こっちの青いの?」


「これこそ秘密兵器だよ竹之内さん。よく怪我とかしてる春日井くんにこのお守りを渡して心配してますよアピールだよ!! それにお守りなら春日井くんも受け取ってくれるはずだよ?」


「そうかなぁ……でも一応もらっておくね? ありがと」


 とにかくやるべき事はあの不良共の弱点を探して信矢から引きはがして昔みたいに二人だけで居る事だ。それにスーちゃんの言う通り信矢と昔みたいに話せるのも大きい。なんかこの恋愛成就のお守りも良い感じに役に立ちそうだし!!





 進級して私は二年生になった。しかし相変わらず信矢とクラスは別々だった。同じクラスならもっと話せるのに……。でもシンママに事前に聞いていた通り道場はGW前までは禁止みたいで相変わらず図書室に入り浸っているみたい。この間は『ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件』とか言うのを読んでた。そして今わたしは久々に信矢に抱き着いている。何回か話して少しは距離が近づいたからね。


「な~に読んでたの? シン?」


「狭霧……毎度言ってるが抱き着くのは……何でもない。今日はアメリカで実際あった事件の小説を読んでいたんだ」


 事件とか推理とかそう言う本ばっか読んでるから将来は警察とか探偵なのかな……どっちでも頭が良くてしっかりしてる信矢なら安心だね。その後はお医者さんのお手伝いの話とかしてくれて、やっぱり信矢は凄いと思ったら、治療してたのは例の不良達だと聞いたからテンションが下がった。


 信矢が帰ると言うので私も今日は部活が無いから一緒に帰ろうと思ったが、そう言えば、この後にスーちゃんと作戦会議だった。だから仕方なく信矢に部活のミーティングがあると言って別れた。その後に部室で待っていると少し遅れてからスーちゃんがやって来た、珍しく慌ててる。


「竹之内さん!! 青い方のお守りまだ渡してないの!?」


「えっ? あ……そう言えばまだだった。でもお守り無くても信矢と話が弾んじゃってさ……てか、なんでスーちゃんが知ってるの?」


「い、いや……それは、お守りの話題が全然無いから、話のタネに渡したんだし使ってもらった方が嬉しいかな~って」


 ま、それもそうだよね……なんか一瞬だけ違和感があった気がしないでも無いけど、次会う時に渡すと言ってその日は解散になった。珍しくスーちゃんが焦っているけど、なんでだろうか?


「スーちゃん何で焦ってたんだろ?」


 家に帰ってからお守りを二つ出して見比べる。恋愛祈願と健康祈願、ピンクと青……そう言えば青はカバンの傷つかないとこに入れてたけど私の方は胸ポケットに入れてたんだ。今日、信矢に抱き着いた時になんか胸に違和感あると思ってたけど、そう言えばこれ入れてたんだ。


「信矢少しだけ汗かいてたなぁ……少し酸っぱいニオイしたけど……でもいい匂いだったなぁ……えへへ……はっ……いけない!! 思い出し笑いは普段からしてると間違って大事な時も出ちゃうからもしれないからダメって言われてたんだ」


 シンママに昔言われた事を思い出しながらお守りを改めて見ると私の方のピンクのお守りは少し折れ曲がってる気がするけど効果は大丈夫なんだろうか?少し揺すってみたりしたけどたぶん大丈夫だろう。





 それから何度かスーちゃんにせっつかれて、何であんなにお守りを渡せと言われたのかは謎だったけど七月、あれから一ヶ月近く経ってから信矢にお守りを渡した。


「うん。最近は信矢って怪我ばっかしてるからね。これくらい……ね?」


 なんか図書室の隅の方に居るスーちゃんが渡せ渡せと凄い睨んでいるからそっちを見て渡したよと口パクで言ったら向こうも『早くあっち向け』と口パクで言われ慌てて信矢の方に向き直る。信矢が顔を真っ赤にしてお礼を言った後にお守りを大事そうに胸ポケットに入れるとダッシュで出て行ってしまった。


「やっとかぁ……これで何とか……」


「何とか? なに?」


「あ、ううん。何でも無いよ。これで春日井くんも健康でいられて怪我が減るかもねって、思ってね」


 スーちゃん……良い子だなぁ……私の信矢のためにここまで考えてくれる友達、いや親友は初めてだよ……ただ信矢の良さが分かり過ぎるとそれはそれで問題があるので釘を刺すと珍しく険しい顔をしてそれだけは無いと言い切った。


「なら安心!! じゃあ私たち親友だね!!」


「え、ええ。そう……ね」


 なんかスーちゃんの顔色が悪い……最近はコンビを組んだりしてるから少し心配だ。そしてそんな中、シンが恐らくは学年一位の実力で突破したであろう地獄の期末のテスト返しが終わった。私の成績も国語と社会以外は終わった。





 二年生になっての初の大会の予選リーグだったけど第三クオーターで点差は二〇点、こりゃ負けだなぁ……と、思ってたら私とスーちゃんが先輩たちと交代になった。第三は残り三分、つまり私達は残り一五分も無い時間帯で出された。


「ま、やるしかないかぁ……」


「ええ。行くわよ」


 なぜか私たちは連続で得点を重ね、最後の最後で逆転勝利、私のスリーポイントのおかげで一点差で勝ってしまったのだ。先輩たちは大喜びで途中外された先輩は複雑そうだった。そして今日の試合が終わり監督のとこに行った時だった。


「ちょっと良いですか? 私は私立西堂高校のバスケ部の――」


「あっ!!うちは私立常穏大付属高校の顧問の――」


 私とスーちゃんはいきなり数人の大人に囲まれ俗に言うスカウトを受けていた。私は、すっかりビクビクして「あ~」とか「う~」とかしか言わないのでスーちゃんの方にスカウトが集中したから、コッソリ逃げ出した。するとなぜかスカウトマンとかと明らかに違うスーツを着こなした凄い美人なお姉さんが声をかけて来た。


「初めまして、お嬢さん。私、芸能プロダクション『F/R』の取締役の冴木 梨香さえきりかと言います。お名前を伺ってもいいかしら?」


「はっ、はひぃ……た、たたた竹之内、しゃぎ……狭霧です」


 芸能プロダクションて……ここ市営体育館だよね!!この美人な人……ま、まさか芸能人!!は、初めて見た……。


「緊張しないで、プロダクションって言ってもまだ在籍数も少ないし、新人しか居ないとこよ」


「は、はいぃ……げ、げげげ芸能人とか初めて見て……び、びっくりして」


「あ、ああ。私の事知ってる……わけ無いわよね。芸能プロでも私は裏方よスカウトやマネジメント他は経理も少しね?」


 嘘……こんな美人なのに芸能人じゃないんですか……芸能界って凄い……。私が茫然としているとその人は柔和な笑みを浮かべて名刺を渡すと、良ければ連絡をして欲しいと言って去って行った。カッコいい……シン以外でカッコいいと思ったのは私史上初の出来事だった。





 そして週明けに私はこの日の出来事を信矢に語っていた。シンは冴木さんから貰った名刺を何とも言えない顔で返すと少し難しい顔をする。最近チームのメンバーに不幸が多いらしい、お医者さんの話をした時に市役所の人とも知り合いになったらしいけど最近はその人たちともあまり連絡が取れないと聞いた。


「ああ、地域振興課の人たちなんだけさ……前に少し協力した時から話す事が増えてたんだけどさ」


「その人たちもチームなの?」


「ま、まあな、でも秘密だぞ? 実はかなり積極的に色々やってくれたんだ。いつか狭霧にも紹介とか……したいんだけど」


 私の顔色を見ながら言うから私は少しだけ頬を膨らまして『良いよ』と言った。その後も色々と話していたら私たちの誕生日の話になった。シンは九月七日で私は十月四日が二人の誕生日でギリギリ一ヵ月離れてないくらいだから昔は連続で祝った事が多かった。


「分かったよ。狭霧。俺も……十月の狭霧の誕生日にプレゼント絶対に用意しておくから。じゃあな!!」


 だから去年はお互いすれ違いの誕生日だった、その連続誕生日月間が来れば私は今度こそ信矢に告白する。私の誕生日に、そしたら幼馴染からランクアップしてカノジョになれる……だから嬉しさを隠しきれずに思わず言ってしまった。


「うん。大丈夫……夏休みが終われば……ぜ~んぶ昔みたいになるんだから」


 なんか信矢の顔が少し引き攣っていたけど……どうしたんだろ?





 そして夏休み中も私はスーちゃんとコンビを組んで部活で連戦連勝……は、県大会の三回戦までで、その後は敗退してしまった。でも来年も有るからね!!その後は八月後半からは部活をしながらスーちゃんと色々と話していた。色々話を聞いていると、スーちゃんも好きな人がいたみたいだけど今は少し遠くに居て会えないらしい。


「スーちゃんも大変なんだね」


「ま、まあね……それより春日井くんと最近どうなの?」


「うん、なんか信矢のお母さんも全然分からないって……地下室とか言うとこに行ってるのは聞いたんだけど」


「っ!! ねえ? それって場所分からないの?」


 なんかスーちゃんがやたらと食いつくけど分からないと答えるとガックリしている。そこまで必要な情報だとは思わないけどなぁ……。





 そして誕生日前にシンと会えたから話をしたら私たち二人と家族だけの誕生日に、邪魔者……てか乗っ取りを企てた『シャイニング』やシンの仲間とやらが一緒にパーティーをやりたいと言っているらしい。少しは譲歩しても次の私の誕生日は二人で祝いたいからここはシンに譲る事にした。


「分かったよ……シンは優しいなぁ……そんなに強引に、あんな奴らに無理やりにさ……だからさ一言くらいは文句言わせてよ? 良いでしょ? ね?」


 ただ文句は言いたい。なので呼び出してもらう事にした。そしたらシンは渋々頷いて場所を変えるよう提案して来た。


「小さい頃に二人で遊んだ神社あるだろ? 道場も近くに有るあの神社、あそこの裏の林にいつも話してる地下室が有るからアニキに聞いてダメなら神社で、大丈夫なら地下室で話そう!!」


「うん。そっかぁ……そんなところにあったんだ……知らなかったよ……シン」


 つまり、これからは神社の近くに行けば接触の機会があるんだね……やっと、やっと尻尾を掴んだよ!!これからは部活帰りに毎日神社の近くに行くから!!私はやっと手に入れた情報にウキウキして思わずだらしない顔になっていた。だけどそこで私の回想は突然終わった。そう、信矢の一言で……。





「――――だって俺は……アニキや他の皆に……仲間に後を任された『シャイニング』の春日井信矢なんだからなっ!! 全て話してもらう!! 竹之内狭霧っ!!」


信矢の咆哮が夜の廃工場に響いた。

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