第43話「道場禁止令、そして動き出す幼馴染」




 あの死闘から三ヶ月あの後は色々あった。まず地方紙とは言えあの戦いの事が新聞に載ってしまった。だけど逆に言えばそれだけでテレビに取り上げられたり、ネットに情報が載るなんて事はほとんど無かった。しかも不良同士の争いと言う記事でそれ以上の情報は無かった。


「一応乱闘があったんだ……それなりの問題があってもおかしくないのにな……」


 俺を含めてあの戦いを経た何人かは疑問には思ってたけど相手137名が全員捕まった事も有り事件は解決したと思って特に問題無しと考えていた。あれから大きい戦いは起きてない。対抗勢力の『黒蛇』とそいつらを使っていた上の半グレ集団もこの近辺から手を引いたと竜さんから聞き、図らずも空見澤の平和?を守ってしまった。


 また『王華』や『B/F』などの連合を組んでいたチームの人とも仲良くなったりして夜の街に行く事も増えた。エリさんに誘惑されそうになったりサクラさんにからかわれたり、後は偶然レオさんと二人で居た時にレンさん達の通っている床屋でモヒカンにされそうになったりもした。


 去年までは家族や狭霧たちと行っていた初詣も今回は『シャイニング』のメンバー六人で行く事になった。まだ俺の添え木は外れて無かったけどそれは皆も似たようなものでアニキは外傷は無いけど腹や腕は打撲と擦り傷だらけ、愛莉姉さんも似たようなもので、竜さんとレオさんは顔の腫れは引いたけど内出血でお化け屋敷状態。サブローさんは無傷だった。そりゃそうだあの人、前線に居なかったし。気のせいか視線を感じたけど体力も戻ってない今は気配探知も使えなかった。


「何だったんだろうか?」


 家に帰った後は両親に詰問きつもんされたがそれも適当にはぐらかして過ごした。それから新学期が始まって一週間くらいした時になぜか職員室に呼び出しを受けた俺は来るべき時が来たかと思ったら冬休みの宿題の書初めがなぜか市内コンクールで金賞を受賞してしまい、明日の集会で呼ばれる事になった事を告げられた。


(どうしよう……あれ俺じゃなくて竜さんに書いてもらったんだけど……)


 など少しマズイなぁ……と思って廊下を歩いていると正面から歩いてくるのは今は光を浴びてないので少しグレーに近いブロンドの髪をサイドテールにまとめた狭霧だった。いつの間にあんな髪型に……と、思ったがすぐに目を逸らし歩き出す。狭霧のそばにはバスケ部の部員が二人居る。


「あ、信矢!!」


「悪い、急いでる……」


 それだけ言うと教室に向かう。やはり気まずいものは気まずいからな、二人きりになったら謝ろうと思ってこの場は素早く離れる。その日は会えなかった。





 二月になってからは少し大きな抗争があった。『黒蛇』の残党と、とある廃工場で戦う事になった。その時に一時的に気配探知を最大にまで使い、俺が気絶すると言う事件があった。ただ気絶する直前に俺の戦闘力は各段に上昇していたらしい。だがその反動なのか俺は肩を脱臼してしまった。


 レオさんに無理やり関節を戻してもらったけど、専門の治療を受ける事になったので師範にお願いして病院を紹介してもらった。道場での怪我としたかったからだ。しかしここで問題が起きた。師範は基本的に『シャイニング』の行動は黙認してくれていたのだが、この脱臼についてはそれは出来ないと言われ、母さんに報告されてしまったのだ。そして……。


「禁止です!!」


「あぁ? そらねえだろ」


「少なくとも傷が癒えるまでは絶対に道場へ通うのは禁止です!!」


「傷が癒えたら行くからな!! それは譲らねえぞっ!!」


 母さんは絶対に譲らなかった。そして菓子折り持って一緒に来てくれた師範も今回ばかりは俺の味方ではなかった。愛莉姉さん達からも肩を完全固定されちゃった状態だと出来る事は限られるから安静にしろと言われてしまった。


「私としても全面的に同意致します。この度はお子様の怪我の事、私の監督不行き届きゆえ、誠、申し訳ございませんでした」


「し、師範……くっ……わぁったよ!! 今回だけは母さんの言う事聞いてやる」

 

 何だかんだで今までの行動を黙認してくれたりしてたので強く出られないし、何より気配探知と気配遮断をここまで使えるようにしてくれたのは師範なのでこれ以上は言えない。俺が観念したのを見ると母さんも納得したようでそれ以上追及はされなかった。ギプスが外れるまで三週間。俺は大人しくするしか無かった。


「とにかく怪我を治して、お願いだから……狭霧ちゃんだって心配してるのよ……」


「ぐっ……分かってる……」


 なのでこのギプスの拘束は外れるまでは図書室に入り浸る事になった。アニキ達とはアプリや家のPCでビデオ通話をして連絡を取ったりしていた。問題が発生したのはギプス生活一週間目だった。前に校舎裏でヤニ休憩していた人たちで、もうすぐ卒業だから三ヶ月以上前の借りを弱っている今の俺に返しに来たらしい。


「で? この程度すか?」


「片腕使えねえくせに……クッソが」


「やっぱり、『シャイニング』のメンバーつええな……クソ」


 でも片腕でも実力差は明らかだった。ただ絶対安静だったのに戦闘をしたのでやっぱり少し痛い……。校舎裏で倒れているのは二人、なんかもう一人は更生して不良を辞めたらしく、今は二人になったらしい。あの戦いを経た今の俺の実力はすでに中学生レベルじゃ止められない。そう言ったら意外にも二人は納得した。


「だろうな。俺も不良辞めるわ。ついでに煙草も……」


「真面目にやんのは無理だけどよ……高校ではワルになれねえからよ。ただ教えてくれね? あの公園でのクリスマス決戦、お前は参加してたのか?」


「ああ。もちろん『シャイニング』側として、あの聖夜に『黒蛇』共を壊滅を追い込んだのは俺たちです」


 それだけ聞くと今度こそ納得して最後に「お大事に」と言ってくれた。なんか和解したみたいで色々複雑だ。そして今は唯一の居場所の図書室へ向かう。もうそこしか居場所無い今の俺は、図書室の端から作家順を逆から本を読んでいる最中だ。





「この間は宝島を読んだから同じ作者でいいか……これなんか良いかもな……」


 独り言を呟いて同じ作者の本を取る。同じ作者の小説で二部構成になっている古い小説で、中々に興味深い内容だけどやはり読みづらい……片手だとページをめくるのもすぐにページが戻って来るから一苦労だ。端を抑えながら読むには……と、思っていたら本が抑えられた。


「片手じゃ何するのも大変だよね? シン? 隣良いよね? 座るから」


「ふぅ……狭霧……か。部活どうした?」


 ニッコリ笑うと有無言わせずに隣の席に座って本の端を抑える。逃げようと立ち上がろうとすると机の下で足をガッチリ絡ませて逃がさないようにしてやがる。


「おい、狭霧。そう言うはしたないマネはやめろって前から――「じゃあもう逃げないでね? シン? こんなのシンにしかしないから大丈夫だよ」


「ああ、もう……わぁ~ったよ。それで?」


「今日は部活はお休みだよ。サボりじゃないから安心して」


「それで? どうしてここが?」


 そう言うと狭霧は少しだけ表情を硬くすると話し始めた。図書室だから小さい声で喋るのでいつも以上にピッタリくっ付いて話す感じになるから久しぶりに狭霧を近くに感じられた。


「今や学校で知らない人が居ない、わる~い不良さんが怪我で読書してるって言うから様子を見に来ただけですよ~だ……。あの、肩脱臼したって聞いたけど、またそのケンカしたの? 大丈夫なの?」


「ちょっとドジっただけだ。あと二週間の辛抱だ。問題ない」


「じゃ、じゃあ今日は何も無いんだよね!? 久しぶりに一緒に帰らない?」


「その悪い不良と付き合いがあるなんて喧伝すべきじゃない、それに方角も今は違うだろ? だから……」


 正直な話、狭霧と今話していたら心臓が持たないし万が一ケンカに巻き込まれようもんなら守り切る自信は無い。だから今、一緒に居る訳には行かない。何より前にあんなカッコつけておいてどの面下げて話せば良いんだ。泣かせたんだぞ俺は……。


「なら校門まで!! それくらいなら良いでしょ? ね?」


「分かった。本当はお前に変な噂を付けたく無いんだが……」


「そんなの……気にしないよ。だって私たちって……幼馴染でしょ?」


 そう言って俺の方に少し照れたのか顔を赤くしながらも絶対にそばを離れない彼女から視線を外す事が出来なくっていた。ちゃんと顔を見たのは一ヵ月ぶりだけど前に会った時と違う髪型、そして少し会わなかっただけなのに、顔も少し大人びていて綺麗になっていたから思わず顔を背ける。


「もうっ!! どうしたの? それともまだ図書室いる?」


「いや、帰るよ。道場も母さんに禁止にされたしな。ジョギングも禁止。体が鈍ってしかたねえ」


「シンさ、二年になったら部活とかしない? やっぱり私は……シンに危ない事して欲しく無いよ……何ならマネージャーとか……私専属とかでもさ……そのぉ」


 やはり狭霧は優しい、昔から周りの人に怯えていたけどそれでも仲良くなった人間には優しかった。きっと傷ついて欲しくないのだろう、そして幼馴染だからこそ俺にここまで言ってくれる。ならばその優しさに応えるべきじゃないか?だけど俺は、そんなのは嫌だ……なぜなら俺は……。


「前にも言った……守れるために強くなるって狭霧を……いや、さぁーちゃん……

俺はあの日から……出会ったあの日から君を守りたいと思ってたから……」


「だから私はそんなの……」


「ああ、分かってるさ。この間フラれた時によく分かったんだ。だけどそれだけじゃないんだ今の俺にはさ。だから、ありがとう心配してくれて、それとこの間は変な事言ってゴメンな……ふぅ、言いたい事、全部言えて良かったぁ!! うしっ!!」


「フラれたって……私はそんな事……っ!?」


 そう言うとタイミングよくアプリに通知が入る。内容は『メンバー六人でラーメン食うぞ!!』だった。一週間振りのお誘いだった……。了解と返事を出してから道場に行くわけじゃないから良いよな?と、自分に言い訳するとスマホをしまって狭霧の方を見る。すると、なぜか狭霧の顔は能面のように表情が無くなっていた。


「ね? 今の通知、誰?」


「えっ……い、家から――「違うよね? シンの顔見れば分かるよ? 誰?」


「じゃあ当ててあげよっか……あの不良の人たち、チームの人達でしょ? そんな顔してたら分かるよ……」


 そんな顔ってどう言う顔だよと思ってたら狭霧はいきなりこっち睨んで来る。そして狭霧は悔しそうに言った。


「そんな嬉しそうな顔、今の私には絶対に向けてくれないもんね……シン」


「え……お、俺は、そんな……」


「いいよ。私には分かるから、だから行っても良いから、ほら、もう校門着いたよ?」


 少し気になったけどこれ以上聞いても答えてくれそうにない、じゃあと言って校門で分かれようとすると狭霧は校門の前でまた能面みたいな顔になって言った。


「じゃあね信矢……あと、私は絶対に諦めないからね?」


「そ、そうか……」


「うん。どんな手を使っても私のシンを取り戻すから……じゃあね」


 それだけ言うと狭霧は踵を返した。この時俺は全然気付けなかった。彼女の、狭霧の悲壮な覚悟と、そして執念があそこまで狂おしいほどに俺に向けられていた事に気付いてあげる事が出来なかった。そしてこれがアレを生み出す原因の始まりだとは思っていなかった。

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