第42話「死闘、輝く聖夜の祝祭と後に残るもの」
◇
眼前には群衆、100人以上の人間、それが闇夜にざわめいている。視界の確保が難しいと思っていたが、意外と街灯は多くて相手の顔もしっかり見えている事がかえって恐怖を駆り立てた。
「たった四人で『黒蛇』を相手する気かぁ!! 秋津 勇輝ぃ!! 他の奴らはどこ行ったぁ!!」
「けっ、御託はいい、さっさとやろうぜ……」
両陣営のリーダーのやり取りはこれだけで、そして戦いは始まった。そこで俺はアニキの本気を初めて見た。一切の躊躇無しの本気の拳で痙攣をおこして倒れる相手、その横合いから来る相手に牽制の蹴りを俺が入れつつ、アニキは反対側に居た相手の土手っ腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。
「すっげぇ……っとと!! せいっ!!」
本当に軽く人が飛んだのを見たのは初めてだった。それだけで二人が目の前で既に倒れ伏している。さらに俺が抑えていた相手をアイアンクローで掴み上げると無造作に相手の一団に放り投げた。人掴んだまま投げ飛ばすとか……凄過ぎる。てか人間辞めてないか?アニキ……これが県下一の喧嘩士の本気なのか。
「まずは五人か? シン!! ボーっとすんな!! 行くぞっ!!」
「は、はいっ!!」
遠くで竜さんやレオさんの声も聞こえたけど優勢じゃなさそうだ。助けに行く余裕なんて無い……やっぱりアニキが強過ぎるんだ。今も俺は相手に足払いや後ろから回り込んで妨害する事くらいしか出来て無い。
「このガキっ!! ちょこまかとっ!!」
「くそっ……数で抑え込めねえじゃねえかっ!?」
俺のやっている事はアニキが三対一以上の戦いにならないように常に相手をけん制して近づけないようにする戦いだ。気付けば最初の一〇人はその戦法で倒していた。単純に考えて二人で一〇人以上を倒した事になる。
「ふぅ、良い感じだ。このままのペースで行くぞっ!!」
「はいっ!! 分かりました!!」
そして俺もアニキもまだまだ余裕だった。毎朝のジョギングで俺の体力は八ヵ月前に比べ格段に増えていたので長期戦にも耐えられるようになっていて、その俺よりもアニキは更に体力がある。
「口だけなのかっ!? 黒蛇ぃ!!」
しかし向こうもバカでは無く、すぐに二人組が木刀を構えて突っ込んで来た。その後にも武器を持った一団が到着した。状況を把握しようと俺はこの時に『気配探知』を初めて自分の意思で使った。周りは敵意しかない、別な反応があったので、思わずその方角を見ると竜さんとレオさんが相手の鉄パイプの攻撃を奪った木刀で防ぎながら戦っていた。
「アニキ!! 俺たちもっ!!」
「シン!! オメーは使うんじゃねぇぞっ!! まともに使った事ねえもんっ!! うっらぁ!! 使っても、なぁ……怪我ぁ……するっ、だけだ!!」
相手の木刀を奪って三人を昏倒させるとアニキは前を見て進みながら俺に言った。アニキの木刀は血塗れだった。その瞬間ゾクッとした『気配探知』が何かの気配を感じ取ったので思わず反射的にアニキに警告を発していた。
「アニキっ!! 上ッ!? 左もっ!!」
「ちっ!!」
アニキはそれに反応して左から迫っていた鉄パイプの不意打ちを防ぎながら膝蹴りでカウンターを決めていた。そのまま振り向き様に持っていた木刀を俺の方に投げつけたので、俺は慌ててしゃがんでそれをかわすと後ろから迫っていた男の鉄パイプとぶつかって落ちた。
「危なっ!! でもさすがアニキっ!! うりゃあ!!」
俺はそのまま後ろを見ないで回し蹴りを相手に決めてから距離を取り、アニキの背後にピッタリと、くっ付いた。そして背中合わせで周りを見回すと二十人以上に包囲されている状況だった。
「ふっ、良い判断だ。お前は絶対に深追いすんなよ? いいな?」
「はいっ……自分に出来る事をします!」
敵はまだまだいる……せめて百人以下までは減らさないと……そう思って構え直す。今度は正面、なぜか警戒した方が良い気配がした。しかし見た目は今までと変わらない相手がいる。突っ込んで来る。軽くいなすために腕で受ける。
「ぐっ……がぁっ!! コイツ……メリケンサック!? アニキ気を付けて!!」
「シン!! ちっ!! 見えて無かったのかっ!? うらぁ!!」
メリケンサックを付けた男をアニキが蹴り上げると、それを待ってたとばかりに別な男がアニキに木刀で殴りかかる。それを片腕で防御しながら、もう片手で木刀を掴んで相手を引き寄せ殴り蹴り飛ばし木刀を奪って反対から迫る相手の鳩尾を突く。
「うおらっ!! シン!! まだ行けるかっ!?」
一方の俺は片腕が嫌な感じに激痛と一緒に力が入らなくなった。左腕だから良かったけどマズイ……痛みで当分使えない……折れてないと良いけど…‥。だから利き腕を使いつつ足技で手数を稼いで時間稼ぎに徹した。
「はぁ……はぁ……今、ので……四人っ……アニキッ!! そろそろです!!」
「おうっ!! 派手にやれっ!!」
そう言うと俺は懐からねずみ花火に火をつけて相手に投げつけ、更に爆竹にも火をつける。戦いの前に、これを全身に仕込んでいた。そして周りから敵が離れるとポケットから打ち上げ花火を取り出しライターで火をつけた。
「た~ま~や~!!! ってね!!」
俺の大声に相手もポカンとした顔になる。そして打ち上げ花火は空に向かって登り、普通の花火大会のものに比べては明らかに小さく、しかし個人でやるには、じゅうぶんに大きな音と光を出した。次の瞬間、敵陣中央から大声が響いた。
「後ろだっ!! 多いっ!! 本隊だっ!? 何人いる!!」
「ぐあっ!! 後ろからとか卑怯だろっ!」
「ちっ!! まさか総大将が四人で囮だとっ!! バカな……あの人たちはそんな事なにも言って……お前らっ!! 逃げるな! 戦えっ!!」
そう、俺たちはあくまで囮、敵の背後まで回り込んでもらった愛莉姉さんたち本隊が強襲をしかけるまで派手に暴れるだけの生餌だった。すると今度は敵陣の東側から別な花火が上がった。
「え……? 予定じゃ花火上げるの俺らだけじゃ? アニキ?」
「あ、あいつらぁ~……ま~たやりやがったか……」
「え……ってなんだ!? あの煙!!」
愛莉姉さんやサブローさん達の本隊が後ろから総大将たちをボコボコにしていた時に突如として謎の花火と、爆発音、さらにどこからか用意した照明に照らされて赤とか青とか緑とかの五色の煙がモクモクと立ち昇っていた。
「ふはははは!! 悪党ども!! よく聞け!! 空見澤市の平穏を守るため!!」
「空見澤市の悪を挫くためっ!!」
「今日も空見澤を我らのジャスティスで照らし出す!!」
「時間外労働喜んで!! それでも皆の笑顔を守りたい!!」
「それが空見澤の自由を守る我らの貫く道!! 五人合わせて!!」
「「「「「我ら、ご当地ヒーロー!! 初代空見澤防衛軍!!!」」」」」
なんか日曜の朝に見かける特撮の五人組が居た……そう言えば直前に挨拶したのがレンさんとサクラさんそれとAZUMAさんだったはず……残り一つのチームって、あんなんだったんだ。てか、〇〇レンジャーとかじゃないんだ……。
「あ~……悪い奴らじゃねえんだが……毎回作戦を無視するんだ」
「だ、大丈夫なんですか!! スーツとか着ていてもパチモンですよねっ!! てか戦えるんですか!? あんな人たち!! ただのコスプレ集団ですよね!?」
「いや……まぁ見てろ。一応……強い? 部類では有るからよ……」
アニキが珍しく引き攣った笑いを浮かべて視線を反らした。そして俺はすぐにその意味を理解する事になる。その戦い方を見ていると色んな意味で反則なチームだったからだ。
「必殺!! ジャスティス・テーザーガン!! ダブル!!」
「ぎゃあああああ!!!」
「唸れっ!! 正義の一撃!! ジャスティス・バトン・スタンガン!!」
「うぎゃあああああ!!」
「受けなさい!! 正義の鉄拳!! ジャスティス・スタン・ナックル!!」
「いやあああああああ!!!」
詳しく知らないけど、最初の赤い人が二丁拳銃にして使ったのはテーザーガンだよね……たまに海外の警察が使ってる映像で見た事ある。電流でビクンビクンしてる不良が二名いた。
そして残りのグリーンとイエローの人が使ってるのが、あれデカイし長いけどスタンガンって言ったよね?それで感電して倒れている人間が多数。酷過ぎる。
最後にピンクの、声からして女の人が使ってるのはナックル型の接近戦用のスタンガンだとアニキが教えてくれた。そして特に何もしてなかったブルーさんがこっちに走り寄って来る。
「一応な、あれでも全員が市の職員だからな、今回はもちろん黙って来てるんだが」
「えっ……社会人なんすか……あと青い人がこっちに来ました。アニキ」
「ユーキ君……済まないね~。年末までに地域振興課の備品とその関連の予算を全部使い切らないと次の予算が減らされそうでね、年末だし一気に使い切りたくて独断行動しちゃったよ。スマンね?」
そんな理由で勝手に動いたのかコイツら……てか予算使い切るって、あれか年末に道路工事が増えるアレと一緒なのか!?まだ中学生の俺には分からない大人の世界は色々と複雑なようだ。しかし、この人たちが俺たち以上に上手く囮になって大混乱させたおかげで俺たちの包囲も崩せた。でもなんか納得いかない。
「じゃあシン!! 竜とレオを探して来てくれ!! 俺は愛莉たちの方に行く!! たぶん大丈夫だろうが……蹴りは俺がつけて来る……最後まで二人で決めたかったんだがよ……。少し急がないと行けなくなった!! 悪い!!」
「え? はい? お気をつけて!! 竜さんたちと合流次第そっちに行きます!!」
俺は指示された通り辺りを探すと二〇人くらいの不良が倒れている中心部に座り込んでいる二人を見つけた。
「竜さん!! レオさん!! ご無事ですか!?」
二人とも顔の青痣と軽い流血、そして服が所々破れていた。竜さんは今回は珍しく私服でシャツはボロボロで上半身裸みたいな感じで、ジーンズはダメージジーンズになってしまった。レオさんは例のホストスーツが無残な姿になっていて口の端がキレて流血していた。
「おぉ……信矢……わっりぃ……途中でよ……ぶっ倒されてたわ。ざまぁねえなぁ」
「僕が先に落ちたから、仕方ないですよ……。面倒をかけましたね竜くん、それとお迎えありがとう。シン君」
「お二人ともヒドイ怪我すっよ。顔にも痣ありますし、今から簡単に処置します」
いつもの道具は無いけどそれでも、この黒ジャージには自分で縫い付けたポケットが大量に仕込まれていて、そこに絆創膏だけは大量に入れているので近くの水道の水を持って来て傷を洗ってペタペタと貼って行く。
「しかし、ほんとお前器用だよな。ガキのくせにこんなんどこで覚えたんだよ?」
「昔、必要に迫られて……そ、それより急いで行きましょう!! アニキたちがまだ戦ってますからっ!!」
「昔って、君はまだ中学生……ふっ、そうだね……今は行こうかっ!!」
俺たち三人が到着するとアニキの拳で敵の黒蛇のリーダーが吹き飛ばされている所だった。あれだけ居た敵は全員が倒れている。この日、黒蛇の構成員及びシャイニングから出た裏切り者たち合計137名は全員が完膚なきまでに倒された。
「さて、本当なら勝ち名乗りを上げたいんだが……今は逃げるぞ!!」
「そうよねぇ……王華も全員ずらかるよ!!」
「え? 何でですか? アニキ?」
「坊主!! このAZUMAさんが教えてやろうっ!! それはお前の花火とそこの
公務員どもの税金の無駄遣いのせいだ!!」
一瞬考えたあと「あ……」と言って気付いてしまった。200人近い人間が大声上げて暴れまわった上にショボい花火とは言え今は真夜中しかもクリスマスイヴ。つまり通報されるリスクがあって、トドメにあのカラフルな煙幕だ。日本の警察はそこまで無能じゃないし勤勉だ。クリスマスでも関係無い、むしろ、いつも以上に警戒してるだろう。
「おしっ!! 全員!! バラバラに逃げて『AZUMA』の裏口に来い!! このAZUMAさんの奢りだぞ!!」
「ユーキ!! それに残りのメンバー全員っ!! サブがルート出してるからそっちから逃げるよ!!」
愛莉姉さんとサブローさんと合流して俺たちもバラバラに脱出した。実際公園に向かってパトカーが複数台サイレンを鳴らして向かって行くのを俺達は隠れてやり過ごした。俺達はサブさんの誘導で遠回りをして地下室に戻って服を着替えると六人で駅北口付近の『AZUMA』の裏口をノックするとクリスマスパーティーの帽子、あの紙製のアレを被って吾妻さんが出て来た。俺たちが一番最後だったみたいで宴はもう始まっていた。
◇
そして宴会は始まった。アニキに挨拶しろと集まった総勢六十七名は騒ぎ出し、アニキが本当に一言だけ「お前ら今、最高に輝いてるぜ!!」と言って宴は始まった。なんか愛莉姉さんとサクラさんがアニキを取り合っていたり、竜さんとレンさんが飲み比べを始めたり……竜さんまだ未成年……いや何でも無いです。
他にもレオさんは王華の他の女性陣に囲まれたり、そこに防衛隊のイエローとグリーンさんが混ぜてもらおうとしてマゼンタの人に怒られていた。なんでもこの防衛隊、色がレッド、ブルー、グリーン、イエロー、そしてマゼンタらしくピンクでは無いらしい。そして俺は……。
「はい、ここの傷は浅いんで消毒とキズバンだけで、口の中は少し分からないんでお隣の先生へ、次の方どうぞ~」
「お、おう……サンキューな中坊」
レンさんのチームの緑モヒカンさんがお礼を言って隣の列に移動して行った。隣には防衛隊のブルーさんが急遽連れて来た市と提携している病院の非番の若い男のお医者さんが居て俺も指示をもらっていた。
「君、本当に中学生か? 俺んとこの病院の新人より普通に出来てんだが……」
「小学校の頃から生傷絶えなかったんで擦り傷、切り傷、打撲、打ち身、捻挫くらいは自力で応急処置の勉強してただけです。先生こちらの方お願いします」
「ああ……なあ? 将来そのまま看護士にならないか? 俺があと一〇年もしたら実家の診療所継ぐ予定だからそこで雇いたいくらいだ」
そんな社交辞令を受けながら、え?本人は意外と本気?とか思ってたら次の人を治療する。と言っても軽症の人や止血や包帯巻きがメインなのでサクサク終わらせる。あと三人くらいでこの緊急治療院も終わりかな……とか思ってたら王華のメンバーのお姉さん、なんか女子大生らしい人がこっちに並んでいた。
「あ、えっと……外傷は特に無さそうなで専門的な事はお隣の列で――」
「え~っとぉ、シンヤ君? お姉さん心の病気なの。ここが凄いドキドキしてるの? 触って診てくれないかな? すっごい苦しいのぉ……」
触りたい!!すっごく触りたい、だって目の前のお姉さんはすっごいミニスカートに胸元が開いたレザージャケット、てかSとMな夜の女王様が来てそうなアレを着ていた……鼻血出そう……。
「そこまで、ったくサクラと言い今度はアンタね『ショタ喰いのエリ』まったく……油断も隙も無いわね……」
「良いじゃない愛莉ちゃん。こんな可愛くて、しかも将来イケメンほぼ確実な子。味見したくなるのは当然よ」
「コイツにゃ、ちゃ~んと相手居るからダメなんだよ。シン坊も、幼馴染ちゃん大事なんだろ? はいはい治療はコイツで終わりね? ユーキが話したいんだと」
「ああん!! もう……シンヤ君? 気が変わったらお姉さん、いつでも可愛がってあげるからね? ね? 待ってるからね」
アニキの名前を出して俺を強引に連れ出してくれた愛莉姉さんと一緒にアニキの元に向かう……ちょっと、いや凄い惜しいかもとか思ったけど頭をぶんぶんと振って狭霧の顔、狭霧の笑顔と思い出しながら必死に邪念を打ち消した。
◇
愛莉姉さんは俺をアニキの居るバーカウンターの隣の席に座らせるとどっかへ行ってしまった。なんか二人で話があるみたいだ。カウンターには、さっきまで居たAZUMAさんが居ない。向こうで違う人を相手に『AZUMAさんだぞ!!』って言って上着を脱いで自慢のシックスパックを見せていた。
てか居たな……「〇〇さんだぞ!!」とか言うハゲの芸人。吾妻さんもスキンヘッドだから間違いではないけど……そう思っていたらアニキと俺の前に飲み物が置かれた。見るとサブローさんがアニキ用にお水と俺にはミルクティーみたいなものを持って来た。お酒じゃないので安心だった。
「二人は盃もかわしておらぬ間柄ゆえ、吾輩少しだけ、お節介をしてみたぞ。それでは宴へ戻る。そなた等も楽しむのだな!! はっはっはっ!!」
なんかいつも以上に騎士キャラ出てますね。酔ってるなあれ……。そしてアニキに声をかけられ、グラスを持つと「乾杯」とだけ言ってグラスを合わせ飲んだ。なんかこのミルクティー甘くておいしいけど少しぽわぽわしてくる。
アニキの方も水を一気にあおると横の徳利……って、お酒ですか!?お水じゃなかったのか……そしてそれをお猪口に注ぐと俺の方に置いた。
「え? ま、まさか……」
「一口で良いから飲め!! グイっとな」
「う、う~ん。分っかりました~!!」
そう言って一口……苦い。舌がビリビリする。ちょっと
「シン!!」
「っ!! はいっ!!」
「よぉ~く今日は後ろに付いて来た……お前、最っ高に輝いてたぜっ!!」
「え……?」
だって、俺はアニキの背中を追っていただけで、途中から片腕で役立たず、今もヒビの入った左腕を添え木で簡単に固定してる有様で足手まといだったはず。説教されるか「まだまだ」って言われると思ってたから驚いた。
「よく最後まで戦えたな。お前もこれで文句無しの立派な『シャイニング』の一員だ。認めてやるぜ!! そんでよ……俺の舎弟で……最高の『仲間』だ!!」
「で、でも俺、中途半端で……何やっても二番手止まりで……器用貧乏で、何も……守れなくて……あの子を泣かせて……」
こんなとこで泣いたらダサいから泣きたくないけど自然に涙が溢れる。人に認められる事なんて数える程しか無かった。俺を褒めてくれたのは、いつも狭霧だけだったから、でも今は誰も居なかった……。だけどそんな俺の背中をポンと叩いてアニキは言った。
「オメーは凄いぞシン。中途半端? 器用貧乏……笑わせる。ちょっと人より何でも出来るのは普通に凄い事じゃねえか!! そら全部完璧に出来りゃいいけどそんな人間いやしねえ。だって俺は喧嘩しかできねえからな?」
「それでも何かに優れてる……才能持ってる奴にゃ、何やっても一手足りなくて……だから肝心なところで……アイツを……狭霧を…守ってあげられなかった!!」
そう、何より悔しかったのはあの子を守れず泣かせてしまった事、今日実感した俺は誰かのサポートには向いている。だけど手助けしか出来ない……。
「だが、お前は俺にできねえ事をいくらでも出来る。自分のやり方をお前はまだ見つけてねぇだけだよ。ま、それでも文句言ってくるようなアホが居るなら言い返してやれ、俺は最高の器用貧乏様だってな!!」
「でも、器用貧乏じゃ何も出来ないっすよ……」
「あぁ? な~に言ってんだよお前は今日ちゃんと出来たじゃねえか、俺の後ろを最後まで守った。そうだろ? お前は今日ちゃんと守り切ったんだよ、この俺をな?」
俺は守れた?本当に、アニキはニヤッと口の端を上げると俺の頭をワシワシと乱暴に撫でた。俺は少しボーっとした頭でアニキを見て、堪え切れず思いっきり泣いた。何事かいつもの仲間が集まる、見ると他のチームの人も集まって来てる。
「ほんとぉに……俺……は、出来たん……すか?」
「ああ、他の誰もが認めないと言っても俺だけは認めてやる!! オメーは今日、一歩、真の漢に近づいた!! 胸を張れ!! 俺の舎弟なんだからよっ!!」
そして、こっそりとサブローさんが俺に紅茶と言って飲ませたカルーアミルクとアニキの清酒が効いてきて俺は意識を失った。ただ酒に酔ってぶっ倒れた。ただそれだけの事が俺にとっては最高のクリスマスプレゼントだった。この日のことを俺はずっとずっと忘れないとそう思えるほど最高の聖夜だった。俺が本当の意味で何かを手に入れたそんな気がしたからだ。
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