第44話「ターゲット、そして崩壊の序曲」
あれからギプスも取れて俺は中学二年生になった。そして四月、五月と過ぎて行く俺はあれから更に母さんからの禁止令を言い渡され四月から始まるの
そしてその間、図書室では狭霧と割と高頻度で会ったりしていた。ただ狭霧は以前と違って笑顔になる事が減ってしまった。逆にあの能面状態な事が増えて、あれだけ嫌っていたアニキや他の『シャイニング』メンバーの事を知りたがるようになった。
「だって、幼馴染がお世話になってるんだから知りたくならない? それに他の話題はシン聞いてくれないしさ……仕方ないじゃん」
どこか拗ねたようにそう言われてしまったら、そうかもと思って俺は今までの事を色々話した。昔のように仲の良い大好きな幼馴染に自慢の仲間たちの事を話していた。さらに『シャイニング』以外の他のチームについてもどう言う人達か、どんな事をしたのかと色々話していた。
「そっか……チームって言っても色々有るんだね? 凄いね……ほんと凄い人がいっぱい居るんだね……」
「ああ、皆強いんだ。愛莉姉さんと同じくらい強いのがサクラさんって人でさ、あとエリさんって人も意外と強くて」
「お、女の人の話とか良いからっ!! てかシン、まさかその『王華』とか言う人達のとこで一人で行ってないよね? ね?」
いや、あの女の園行ったら恐ろしい目に遭うって愛莉姉さんに言われたから一人では行かないよ、あとエリさんと一人で会ったら絶対に喰われるからダメとも言われた。冗談だと思って愛莉姉さんに言ったらマジトーンで「止めとけ、あいつはガチ」と言われたのでそれ以来一人では会わないようにしている。
「そう言う訳だから安心だよってどうし――「あの女の言う事は聞くんだ……どうせ胸が少し有るからなんだろうけどさ……」
「いや、だから愛莉姉さんはアニキの――「カノジョ、なんでしょ? 散々聞いたよ。でも信矢の周りに私以外の女がこんなに……早めに対処しなきゃ」
さっきから食い気味に会話に入って来るし、最後の方はブツブツ喋ってるからよく聞こえなかった。今日は部活以外の用事が有るらしく図書室前で別れる。俺は明日からの道場に備えて早めに家に帰る。
◇
そしてさらに一ヵ月が過ぎ季節は梅雨、雨の日が続いた。実は雨の日は地下室は雨漏りが酷く、そんな日はサブローさんくらいしか居ない上に道場も休みなことが多い。なので今日も図書室で本を読む、今日は『48人のキンバリー・ミシガン』と言う小説を読んでいた。実際の事件を元にしたノンフィクションだ。
「なるほど……世界は広い……」
「な~に読んでたの? シン?」
だから、いきなり抱きつかないように毎回言っているのに、今日もちゃんと抱きつかないでくれ、ジメジメした季節だから蒸れてるせいで色々マズイ、しかも恰好が体操着で露出が多い恰好だから汗と狭霧の匂いが混じって良い匂いだから困る。
「狭霧……毎度言ってるが抱き着くのは……何でもない。今日はアメリカで実際あった事件の小説を読んでいたんだ」
「ふ~ん、腕治ったのに読書してるんだ? じゃあもう読書部とかに入部しても良いんじゃない? そしたら私も兼部するからさ~」
「いいや今日は道場が休みだから久々の読書だ。明日からはまたアニキ達に鍛えてもらうからな。部活は遠慮しておくさ」
露骨にガッカリした顔をする狭霧だったが気を取り直したのか今日も会話をしようとグイグイ来る。主にアニキ達とどこで飯を食ったか、他のチームとの集まりなど、それとその人たちのケンカの後に応急処置してあげた時に俺がいかに苦労したか、そして活躍したかを少し自慢気に話した。
「そ……シンに手当てしてもらったんだ。そうなんだ、ふ~ん」
「ん? どうした? 実は最近は医者の人とも知り合いになってさ、コッソリ現場での治療とか少し一般に回せない薬とか使ったり、あと効能とか教えてもらったりして色々頑張ってんだ……あ、これ言うなよ?」
「うん。でも心配だよそう言うのって劇薬って言うんでしょ? もし周りにバレたらダメなんだよね?」
だから言わないでって言ったんだけどな……ま、狭霧になら言っても大丈夫だろう。まずはこんな事を言う相手も居ないし、ただ巻き込まないと思ってたのに下手に教えたりしたらマズイかもな、これからは気を付けよう。
「さて、じゃあ俺は今日は帰る。あ、その……さ、狭霧はどうする?」
「あ、ゴメン。実は雨の日だからミーティングと自主トレだから終わりだけは顔出さなきゃダメなんだ。だから今日はごめん」
それだけ言うと急いで部活に戻って行った。部活なら仕方ないな、だから俺は一人で帰り支度を済ますと廊下に出て下駄箱に着いた……瞬間、警戒――気配探知に何かが引っかかる。周囲を確認すると狭霧と一緒に居る事の多いバスケ部員が一人だけ居た。だが俺が見るとすぐにどこかに行ってしまった。バスケ部はミーティングじゃなかったのか?
「探知にかかったなら俺に注視していたはずなんだがな……」
急いで逃げたようにも見えたし案外、サボりかも知れない。それ以前に今や校内一の不良らしい俺に見られたのだから単純にビビッて逃げただけなのかも。考えても仕方ないので俺はすぐに下校した。そして七月、あっという間に一学期の終わりが近づいてきた。
◇
修了式も間近のこの日、期末テストの返却があったので帰って来たテストを見ると去年度より落ちたが期末も安定のほぼノーミスの結果だった。ちなみに満点は社会と英語だけで他はケアレスミスで90点台だ。こう見えて勉強はコツコツやってるからな。それを堂々と受け取ると俺は帰路へ急ぐ。
「し~んや!! 探したよ!!」
「狭霧? 悪いが今日はこれから忙しくてよ」
「うん。分かってるよ。だから先におめでとうだけ言いたくて!!」
「え? 何が?」
疑問に思って聞くと狭霧のクラスでも俺が全教科ほぼ満点で恐らくは学年一位ではないかと言うのを聞いてそれを言いたくて来たらしい。最近は無表情だった狭霧の顔はとても晴れやかだった。
「サンキュ……ま、いつもの事だしな。じゃあ今度こそ行くから」
「ま、待って、その……これ貰って欲しいな」
そう言って狭霧はポケットから袋を出して俺に渡した。プレゼント!!ひ、久しぶり過ぎて感動に震える。開けていいかを確認すると出て来たのは……。
「お守り? 健康祈願?」
「うん。最近は信矢って怪我ばっかしてるからね。これくらい……ね?」
少し照れているのかそっぽを向いてしまう仕草すら可愛く見えてしまった反面、
やはり心配させてしまっていたと後悔する。だから俺は精一杯、自分は元気だと言うアピールする。
「あ、ああ。ありがと!! じゃあ行ってくる!!」
「うん。頑張ってね……シン……」
◇
そして地下室に少し遅れて来たらアニキ達が慌てていた。サブローさんはカタカタとPCを叩きながら情報収集をしていたし、愛莉姉さんはスマホでどこかに連絡をしている。竜さんとレオさんは二人で紅茶を飲んでいたが貧乏ゆすりをしている。
「おう! シン来たか!! 少しマズイ事が起きた」
「何すか? どっかから果たし状でも来ましたか?」
「違う、『王華』のエリがサツに捕まった……児童ポルノの単純所持罪でな……」
は?「じどーぽるの」?それって女の人も罪になるんすか?ロリコンじゃないと捕まらないのでは?と頭の中で疑問に思った事を言うと竜さんが横から入って来て半分怒鳴りながら言う。
「んな訳ねえだろ!? 法律の要件に男女差別があったら色んな意味で憲法違反だ。ま、実際は色々と……ってそんな話じゃねえ、あいつスマホに今まで喰ってたガキの写真をコレクションしてたらしい」
「おまけに『次に食べたいショタリスト』なるものを作っていたので、完全に真っ黒であるな。サークルのPCにまで隠しフォルダを作って、そこを証拠として差し押さえられたのである」
「あんのバカ……どこから漏れたんだか……だからアタシは言ったんだ15歳以下に手を出すなとあれほど……」
いや愛莉姉さん15歳でもアウトだと思うんで……法律詳しく無いんで分からないけど、それより問題はその後だった。実はチーム『王華』の正体は空見澤市内にある
私大のお花見サークル『桜花』を隠れ蓑にして活動していたので活動場所はそのサークルの部屋だった。
そこのPCから児童ポルノ(ショタ満載)が出て来たせいで、『王華』の他のメンバーのリーダーのサクラさん達も含めて五人全員が関係者として事情聴取を受ける事になってしまったのだ。実際エリさんが画像や動画を漁っていても半ば黙認していたので、ある意味同罪と言われても仕方ない状況なのである。
「なんつ~か……。天罰と言うか捕まるべくして逮捕された感じですね……」
「それが奇妙なのであるよ信矢氏。警察にタレコミがあった模様なのだ。吾輩の調べたところによると空見澤警察のサイバー対策課にそのような情報がもたらされたようでな……」
「ま、運が無かったんだろうな。それで『王華』としては当分活動を自粛するしか無いようでな……サクラと連絡取ろうと愛莉が電話かけてんだ」
怖いなぁ……ってもし俺がエリさん喰われてたら俺も被害者の一人だったのか!?
今更ながらヤバかったんだな……俺って、愛莉姉さんが忠告してくれて良かった。だがそれから三日後さらに事態は思いもよらない方向へと転がっていく事になった。
◇
「は? 吾妻さんの店が食中毒を出した!? それって、あの『AZUMA』で?」
「ああ、メニューのローストビーフ丼からO-157が出ちまったらしい……それで保健所が入って店しばらくの間、営業停止らしい」
地下室に到着するとそんな事を聞かされる。吾妻さんはあんな感じの人だが、それでも上手い料理を食わせてくれたり一昔前のギャグを聞かせてお客さんを笑わせたり、あとは俺らと戦ってくれたり……いい加減な人じゃない人なのに……。
「何してんだよ吾妻さん……。店が何より大事だからって言ってたじゃねえか……」
「アニキ……。でも食品衛生法なら仕方ないっすよ……」
「あらら、シン君。意外とそこら辺はドライなんだね……でもね、どうも変なんだよ、サブロー君、読み上げてもらえるかな?」
レオさんが神妙な面持ちで話し出すとサブローさん以外の全員がちゃぶ台に集合した。そしてPCの前のサブローさんがレオさんの言う事を引き継いで言った。
「吾輩の調べでは昨日は『B/F』の諒と平太が酔っ払いに絡まれて喧嘩してサツに捕まり、本日はチーム『疾風』の幸大が一人で居るところを闇討ちされて病院に運ばれたと情報が入った次第である……」
チーム疾風はあのクリスマス決戦で一緒に戦ったチームの一つで三人組で全員が陸上部で県大会まで行けるくらいには記録を持っている。主に斥候や偵察などをしてくれていた人達だ。なので戦闘向きでは無い。
「まさか……それって」
「ああ、狙われてんぞ俺ら、これは確実にな……」
竜さんが俺が言う前に呟いた。エリさんが捕まったのは自業自得な気がするけど、それにしては内部の情報が漏れているのはおかしい、『王華』の仲間がエリさんを売るなんて有り得ない。他のチームにしてもメンバーが個別でやられている。
「だけどねシン君。問題なのはこちらの情報が漏れていると、そこだと僕は思うんだ。リーダーもそう思わないか?」
「ああ。B/Fの二人が捕まったのはあいつらの行きつけの床屋の近く、疾風の幸大は陸上部の備品の買い出し中に一人のところを襲われた……つまり」
「こっち以上の情報収集能力か……それとも……」
竜さんが可能性の低い事を言った後に一瞬言葉をつまらせた、その可能性を考えたくないと自然と言葉を切ったのだ。だけどここまで言われれば俺でも分かってしまう、だから思わず口にしていた。
「「「裏切者がいる」」」
俺とアニキとレオさんの声が重なった。そしてその日はサブローさんが夜通しPCの前に張って情報を集める事になって解散になり、レオさんだけが残ると言って俺たち四人はそのまま帰る事になった。俺は一人になると自然と気配探知を使っていた。見えない敵……裏切者に警戒をしながら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます