第34話「祝勝会とそれぞれの過去」(前編)



 あれからアニキの実家でラーメンをご馳走になった後にボクと竜人さんとサブローさんは地下室に戻って来た。残りのメンバーは明日の朝来るとの事なので今日は地下室に用意されてるベッドやソファーを使う事になった。だから零音さんの女の子からのプレゼントをどかす作業から始める事になった。


「あの野郎、こんな色々運び込みやがって。部屋がいっぱいになったから今度はこっちに持って来たんだよ」


「こ、これって全部プレゼントなんすか?」


「ああ、あいつは女共にモテるからな。顔が無駄にいいだろ?」


 零音さんは確かにイケメンだし紳士的だ。ああ言う大人な男の方が狭霧も良いのかな?しかしこのベッドとソファーに置いてあったのが全部プレゼントなんて本当にホストみたいだなぁ……。そう考えながら改めてこの不思議な地下室の間取りを思い浮かべて考えてしまった。


 実はこの地下室の隅にはそれぞれのメンバーの私物が割と置かれている。まず中央には無駄に大きいちゃぶ台が置いてあり、これが共有スペースらしい、しかし実質ここは愛莉さんがお茶の用意をしたりお菓子を食べたりしている場所だそうだ。


 そしてそこから右上はアニキと竜人さんが訓練用に使うサンドバッグやら組手をするための畳が敷き詰められている。大体大きさはテニスコート半面くらいは有りそうなスペースだ。


 そしてその反対側にはゲーミングチェアで寝ているサブローさんのPC設置場所が有る。今片付けている区画はその隣の仮眠用のベッド(某高校の保健室で不要になったもの)が三つと、リサイクルショップで買ったソファーが一つ。そこに山のように置いてあったプレゼントをどかしていた。


「これ、こんなテキトーに置いちゃって大丈夫なんすか?」


「いいんだよ。レオの野郎が置いてんだ文句は言わせねえ。明日は一度帰んだろ? はよ寝ときな」


 そして翌日、ボクは一番早く起きた。昨日の戦いや乱闘から興奮して眠れなかったから四時間くらいしか睡眠が取れなかった。だから取り合えず走る事にした。だってアニキも走れって言ってたしね。


 この日は朝から二キロくらいを走ると地下室に戻った。そして戻った瞬間に愛莉姉さんに汗臭いと言われ実家の道場でシャワーを浴びて来るように言われたのでボクは数日振りに道場に顔を出す。師範と会って事情を話すと快くシャワーを貸してもらい。ついでに近所からもらったミカンのダンボールを渡されたのでそれを地下室に持って行った。


「シン坊も戻って来たね。うんうん汗臭かったからね、やっぱシャワー行かせて正解だったわ~……。 ん? みかんも運んで来たの!? 助かったよ~」


「そうか? 別に気にならなかったが?」


「俺もそうっすねぇ……」


 アニキと竜人さんも特に気にして無かったようだ。ボクもそこまで気にして無かったし、と思っていたら横から零音さんが「そうかな?」と話に入って来たので見ると、昨日のホストスーツから濃紺のジーンズと白のボタンダウンという出で立ちだった。ほんと何着ても似合うなこの人。


「でも身だしなみは大事だよシン君。臭いとか特に口臭なんて女の子は敏感だよ?」


「そうなんですか……そっかボクも気を付けないと……」


「ま、漢は臭いなんて……っと忘れるとこだった。全員居るな?」


 そう言ってアニキがボク達を集めると愛莉さんや零音さんは待ってましたと言わんばかりに、アニキの方に行く。ボクと竜人さん、そして寝ぼけたサブローさんも、その後に続くとアニキが白い封筒を出してその中身をちゃぶ台の上に取り出した。


「数えたが二十五万だな。いつもなら二〇万だからほんとに色付けたなあいつら」


「えっ!! あの封筒ってお金だったんですか!?」


「ああ、そうかシンには教えて無かったな。これは昨日のファイトマネーだ。あと賭けといた分も含めてだな」


 ファイトマネー?あと賭けもしてたんですかこの人ら。とんでもないなとアニキの話を聞いていたら、横から零音さんがボクに補足説明をしてくれた。


「ちなみに昨日サブロー君と僕が運んでたのがBリングでの総額の賭け金だよ。それを運営に渡したってわけ。だからその見返りにキチンと僕らには報酬と少し色を付けてくれたわけさ。会長さんがね」


「つ~わけだ。ほれシン。お前の分な。諭吉四枚な」


「えっ!! よ、四万円!! そ、そんな貰う訳には……」


 確かに二十五万円を六人で割ると一人頭4万円弱になるけどと思っていたら残りの一万円はちゃぶ台の上の貯金箱に入れられた。寄木細工で出来たもので簡単に開けられないものだ。お土産として有名なあれがチーム全員の貯金箱らしい。


「報酬は全員で均等に分ける。これが俺ら『シャイニング』のルールだ。分かったか? シン?」


「は、はい。お年玉より多い……」


「違いねえ。ま、好きに使えばいいんだよ。ただ金遣い荒いと親バレすっからな? そこだけ気を付けな」


 確かに、うちの母さんならボクの収支まで調べられているから厄介だ。使ったら高確率でバレる。当分の間はタンス貯金だなと心に決めた。迂闊な言動は控えよう。母さんはとんでもなく勘が鋭いから。


「僕はバイトもしているからそこまで怪しまれないな。ま、それ以上に両親が無関心なんだけどね?」


「どうしてもと言うなら信矢、さっさと何か買って物に変えちまえば良いんだよ。俺はいつも通り口座に入れるだけだが……」


 零音さんはバイトしていたんだ。あと竜人さん意外と堅実なんですね。と、思ってたのが顔に出てたようで零音さんは苦笑、竜人さんにはゲンコツを貰う。これも後輩への愛のムチだとかシレっと言うから逆らえない。絶対に嘘だと思うけど飲み込むのも後輩なんだよなぁ……。う~ん、部活をしてたらこんな感じなのかな?


「さてと、シン。まずは実戦デビューと初勝利よくやったな!! これでお前も晴れて『シャイニング』の一員だ。つ~わけで!! 今日は祝勝会だ!! レオ!!」


「了解リーダー。と、言うわけで買うだけ買って来たから始めましょうか!! 僕らの宴会を!!」


 見るとボクがシャワーを浴びに行ってる間に商店街の駄菓子屋やらスーパーなどで買って来たお菓子とそしてジュース類などがある。良かった、この不良集団『シャイニング』なら未成年飲酒とか平気でやりそうだったので、どう断るかなんて考えていたけど、そこは節度があったようだ。法律違反ダメ絶対。






「なんて思っていた時代がボクにも有りました……」


「あぁ? どうした? シ~ン? もっと飲んでぇ、そんでぇ、食わなきゃデカくなれねえぞ!! そんなんだからフラれんだぞ~!!」


「うがっ……人のデリケートな部分に土足で来ねえで下さいアニキ。あとそれって最初から冷蔵庫にあったお酒ですよね?」


 宴は早くも一時間が過ぎていたけど開始から変だった。買って来た物のお酒は一切無かった。だけど地下室の冷蔵庫にはガッツリそう言うのが入っていたのだ。


 ちなみにこの地下室の電源は延長コードを、伸ばしに伸ばしてここから林の中を巧妙に隠し道場の愛莉姉さんの部屋のコンセントに繋がっている。そして愛莉姉さんも出来上がっていた。


「んふふ~。シン坊あんた余計な事にば~っか気付くね? 細かい事気にしてたら小さい漢にしかなれないぞ~? カノジョちゃんにまたフラれんぞ~?」


「はぁ……。ま、諦めろこの二人はめっぽう弱い上に笑い上戸だからな。お前は飲まれて飲むなよ? 信矢?」


「それに心配いらないよ。これノンアルコールだしね。法的にはグレーだけど違反じゃ無いよ?」


 てかそう言ってる割には酔って見えるんですけど、何でですか?零音さん?と言って聞いて確認すると表記はノンアルコールになっていた。そこで不思議な顔をしていると、うまい棒をすり潰してご飯にかけているサブローさんが疑問に答えてくれた。


「この二人はアレですぞ。信矢氏。場酔い、雰囲気酔いと言う奴だ!! 吾輩らと違ってこう言う場が大好きだから簡単に酔った感じになるんですなぁ……」


「そう言う事。リーダーと愛莉さんは大体こうだからね。そこら辺一番付き合い長い竜人くんが詳しいんじゃない?」


「ああ。そうだな結成時は三人だったから大体こんなんだったな。ふぅ……やっぱこれは少し辛口で合わねえなぁ……」


 え?辛口?ノンアルコールにそう言うの有るんですかね?と、零音さんの方を見ると視線を逸らされる。サブローさんを見ると、駄菓子&白米と、つまみに砂肝の炒め物をおかずに食べまくっている。この人はお酒は一切飲んでないみたい。


「アハハ……もしかしたら何本か本物が入っていたのかも知れないね……。いや店員さんが間違えたのかも知れないな。そもそも道場の宴会用のをこちらに回してるのもあったからねえ……アハハ~」


そして更に数時間過ぎた頃にはボク以外は全員が完全に出来上がってしまっていた。しかも臭い……本当にノンアルコール?と再度確認したけど、全員揃って『ノンアルコール~♪』と言われた時点でボクは考えるのを止めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る