第35話「祝勝会とそれぞれの過去」(後編)
「だぁいたぁいですね!! ぬぁ~んでボクが、さぁ~ちゃんにフラれた事を皆さん知ってんですかぁ!! 僕話してませんよね?」
「アハハ!! そりゃサブが色々お前を調べたからなぁ……大体分かってんぞ? てか、さぁ~ちゃんて呼んでるのか? お前のツレ?」
アニキに背中をバシバシ叩かれながら現在ボクは人生初の酔っ払いのような体験をしていた。正確には周りの人間の吐く息のアルコール臭と雰囲気酔いによって、ほろ酔い状態になってしまったのだ。ぽわぽわするって言うより顔が熱い感じだった。
ちなみに出来上がっていても冷静なのは竜人さんと零音さんだけだった。サブローさんはパンツ一丁になってケツ文字書いてるし、そのケツを愛莉姉さんは笑いながらバシバシ叩いてる……あっちは地獄と化していた。
「ま、気になった勇輝さんが調べようって話になって、色々と調べた」
「ごめんねシン君。リーダーが君の事を凄い気にしててね。あと僕らもなんとな~く、お仲間かなって思ってさ」
「お仲間っすかぁ~? またまた~零音さんみたいなモテ男とボクみたいに……ボクみたいにぃ~!! ううっ……好きな子守れなかったぁ、情けないダサ男とぜぇんぜんっ違うと思うんすけどぉ~?」
言ってて悲しくなってきた。あぁ……昔初めて、さぁーちゃんとキスしたの思い出して来て泣けてきた。あれは小三だったなぁ……アハハとか言ってると、竜人さんが「ぶほっ」と盛大に咽て、零音さんが目を丸くしていた。
「そうかそうか~!! んな小さい頃からチューしてたのにお前フラれたのか。アハハ!! オメーやべーな~!!」
アニキお願いだから追撃やめて、マジで他の人とは違って中途半端な雰囲気酔いなんだから割と意識残ってるから、だから周りに合わせて盛大にノッてる振りしてんだから。少しスカッとしてるけど……。
「いやいや、ま、待てよ信矢おまえ、そんな小さい頃から……その、お、女と……キ、キスとか、してやがった……のか?」
「竜人くん動揺し過ぎですよ。童貞感丸出しじゃないですか……ふぅ。でも僕も少し驚きました。最近の小学生は進んでるんですね?」
「ど、どどど童貞でワリーのかよ!! 女なんてロクでもねえんだからよっ!!
こっちから願い下げだっ!! あ~……信矢、ロックで飲むからボトル寄こせ!」
そう言うと琥珀色のそれをグラスに入れて後は小さい氷だけのそれを一気飲みしてしまった。あの、ボトルとかもう完全にノンアルコールとかの設定忘れてますね?この人ら……。
「大体よ。レオ。テメーだって好きな女を寝取られてからよぉ……女とっかえひっかえしてボコされてるとこを俺らに助けられたんだろうが!!」
「あぁ……そう言う事言っちゃいます? そう言うあなたは嘘告で付き合ったと勘違いしてた女子に、高校に入ったその日にバラされてボッチ生活して半年後には不登校でしょ? 人の事言えますかね~?」
あ、二人も何だかんだで酔っ払ってたみたいだ。竜人さんが千鳥足で立ち上がった。零音さんは余裕そうに見えて耳が真っ赤になってるし二人ともいい感じに出来上がってしまってる。
「お? 喧嘩か? ケンカなのか? やれやれ~!!」
ちなみに今は昼の一三時過ぎである。真昼間から中高生が酒盛りやってるなんてバレたら大変な事になる。一応ノンアルコールだけど、ノンアルコールだけど!!そしてアニキ煽らないで~!!
愛莉姉さんは笑い過ぎておかしくなってるし、サブローさんなんてもうパンツ一丁で寝ちゃってるし……あぁ……この後始末ボクがするんだろうか……。
「みんな結局寝ちゃってるし……」
愛莉姉さんは素直にソファーに行ったけどケンカしてた二人は殴り合いした後に、その場で寝ちゃったし、サブローさんは相変わらずパンツ一丁だし、そしてアニキは……。
「またバカ騒ぎしちまったか。シン……水くれ水」
「はいはい。どうぞアニキ」
「おう、サンキュ。で? どうだった? 今日までよ」
こっちを見ながら少し探るような目で問いかけてくるアニキ。そこで少し考える、考えて思った事は意外と単純だった。
「色々あったけど割と、楽しかった……です。すっごく」
「そうか。俺は少しだけ悩んでたんだよ。お前はどう見ても真っ当な生き方してたガキだったろ? そんなのを俺らの仲間に入れちまっていいのかってよ……」
意外だった。ポツリポツリと話すアニキはいつもみたいに勢いやノリでボク達を引っ張ってくれる感じとは違っていた。
「アニキ……ボク迷ってたんです。さぁーちゃんのために何かしたいってずっと思ってて……あ、名前は狭霧って言ってボクの幼馴染なんですけど、凄く可愛くて優しいんだけど、ちょっと意地っ張りで可愛い女の子なんです!!」
「お前可愛いって二回言ってんな……あ~、そのよシン、お前にはワリーと思ったんだけど調べたんだわ。色々と、お前の過去な……」
そしてアニキの話した内容はかなり正確だった。サブローさんが調べた結果を元に他のメンバーと話し合ったと聞いたけど皆の推理力が地味に凄かった。
「まさかボクがイジメの対象にわざとなってた事までバレたなんて、リアムさんにすらバレ無かったのに、これはボク以外だとさぁーちゃんしか知らないんすよ……」
今でこそ言えるのだけど、あのイジメには少しだけ裏が有る。あの時に見澤を始めとした一部男子は、さぁーちゃんにイジメに近いイジりを始めていた。それに真っ先に気付いたボクは標的を逸らすためにわざと突っかかったのがあの日の真相だ。前からお互い気に食わなかったからぶつかる動機もあったのか上手く事は運んだ。
ただ、この衝突が一回か二回で終わると思ったら三ヵ月もイジメが続くとは思わず、ボク自身が衰弱して、最終的にさぁーちゃんを心配させてしまった。それがボクのミスだった。
この事を知ってるのは、さぁーちゃん一人だ。そして性格上おそらくリアムさんには言ってないのでバレる事は無いと思っていたのだが、この人たちには全部バレてしまった。
「ああ、こっちにゃ実家のトラブルから逃げ出して来た女や、嘘告されて女嫌い、てか恐怖症になった東校の元首席に、モテ過ぎてほんとに好きな女に逃げられたアホとキモオタとイジメられて逆に個人情報バラまいて地元に居られなくなった野郎、そんで県内で敵無しのお節介な喧嘩士様の集まりだぜ?」
「え? なんですか? その一人一人が主人公になれそうな設定……」
ボクみたいな中途半端なトラブルとは違って一人一人凄い過去を背負ってそうな話だ。あと竜人さんって主席だったんだ。空見東って県立で一位だよね?確かあのT大に毎年一人入れる人がいるとか、そこの首席なら頭良いんじゃないかな。
「お前だけ知られてんのもアレだし全員の弱みも教えてやんぜ!! まずは愛莉からだな……」
「こらっ!! ユーキ、アタシが話すよ、自分の事くらい!!」
そう言うと竜人さん以外の全員がのっそり起きて来た。そもそもアニキと愛莉さんはノンアルコールしか飲んでないので少し寝たら回復出来るのだ。そしてサブローさんはご飯しか食べてない。零音さんくらいだろうか、それでもいつものような素面に戻っている辺りお酒に強いのかな?そして潰れてる竜人さん。
「ま、アタシはねシン坊。実はお嬢様だったのよ!! 従兄と無理やり婚約結ばされそうになってね政略結婚ってやつ」
「愛莉姉さんがお嬢様……ぷっ。あいたぁ!!」
あまりの笑撃の事実に笑うと愛莉姉さんからの鉄拳制裁が下った。痛い。零音さんが「気持ちは分かるよ」とか言うと愛莉姉さんに睨まれて黙ってしまう。
「そんでゴタゴタしてるから母さんの実家の道場に避難して来たの、そこでユーキと会って色々してる内に付き合うようになって、今は半分解決して冷戦状態ってわけ」
え……政略結婚とか未だに有るんだ。創作や物語の中だけの話なのかと思った。話を聞くと従兄のお兄さんも結婚や婚約に反対してたらしいけど、そっちはそっちで恋人を人質に取られてたらしい。
「で? どうやって解決したんですか?」
「愛莉の親父をぶん殴って俺の女だって言って攫って来た。んで従兄の兄ちゃんたちは海外に駆け落ちしたらしいな。俺が暴れてる隙にその従兄の彼女の親友を頼ったらしい」
「そうそう、なんか実家の二つの会社は経営統合も失敗して弱体化してどっかの企業グループに吸収されたみたいだけど、ま、仕方ないかなって」
凄い壮大な物語だぁ……これあと三つも有るの?と、アニキを見ると「おう」と言って次にサブローさんの方を向く。
「吾輩のターンか……聞くも涙、語るも涙の騎士が都落ちをし、この地にたどり着くまでの話を聞かせてしんぜよう、あれは木漏れ日の差す秋のある朝であった……」
サブローさんの話が死ぬほど長かったのでボクの方で要約すると、サブローさんは昔から騎士設定だったそうなんだけど、それが許されたのは中学までで、そのノリで高校に行ったら即行イジメられたらしい。
しかし腐っても騎士だったのでイジメを完全無視していたら盗撮だの痴漢だのあらぬ疑いをかけられ我慢出来なくなり、クラス中の男女関係やその家族の不倫や浮気などの情報などを自慢のハッキングと実地調査の双方から調べ上げ、それらを全てネット上及び学内で公開して大騒動になった。
そしてクラス中と関係者と散々に揉めた挙句に転校という措置を取られ、実家からも高校卒業までのお金だけを条件に放逐される。さらに転校先でも噂を知った同級生にイジメを受けていた所をアニキと竜人さんが助けたのが出会いだったらしい。
そしてもうそう言う
「次は僕かな? さっきそこの童貞が色々言ってくれたけど女性関係でトラブルがあってね。周りの人間が言うには僕は女性にモテるらしい。それでクラスの女子や先輩、担任の教師、あとは近所の子とか皆と仲良くしてたんだ。そうしたら付き合っていた子にフラれてしまってね。どうもバイト先の大学生とそう言う関係になっていたらしい……」
重い、想像以上に重いよ。笑顔で語ってるけどヤベーよこの人も。てかそれって寝取られたって事なのかな?もし俺が同じ立場だったら……さーちゃんがそんな風になったら立ち直れない……。
「ま、でもそれも仕方ないと思って、今言ってた女の子たち皆と肉体関係を持ったんだ。それで彼女たちが僕を奪い合って血みどろの争いになってね、香織先生は教師を辞めちゃったし、由実ちゃんは停学、怜美さんは転校したりと色々あってその子達の関係者から激しく攻め立てられて、居場所が無くなって夜の街でボコボコにされてた時に皆に助けられたんだ」
クズじゃねえか!!零音さん割とハーレム系主人公かと思ったら普通にクズの所業じゃないですか……女の子とっかえひっかえとか、そりゃあ恨まれますよ。
「ま、実際はその本命の女が無理やり大学生に襲われたのを苦にして自殺未遂までした挙句に、その大学生に襲わせたのがそのハーレムメンバーだったオチでな。そんでレオはその女たちと寝た後に、その写真をメンバー全員に誤送信した振りして内部崩壊させたってのが真相なんだよなぁ……」
「それは黙っていていただけると助かりますねリーダー……。もう白状しちゃうけど、ここまで細かく調べたのはサブロー君ですよ?」
なんて言うかやっぱり分かるかも、手の平くるくるだけど、もし狭霧がそんな目に遭ったらボクは相手をどんな手を使っても許さないと思う。でもドロドロの修羅場じゃん、復讐の方法はエグいけど零音さん思ったよりも熱い人だったんだ。
じゃあ後は竜人さんだけですね。と言ったら奴は寝てるからまた今度な、とアニキに言われてしまった。皆の過去が思った以上に重いよ……。
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