第25話「答え合わせと過去への誘い」



「うぅ……ボクは……」


 ボクが起きるとまず目に入ったのが白い天井、そして軽い頭痛もする気が……どうやらベッドに寝かされてるようだと思って起きようとしたら動けない。なんか両腕と両足が拘束されてる。そしてお腹の上にも何か重みが……。


「って、さぁーちゃん!? 寝てる……寝かしておいてあげなきゃ……でもここは一体どこなんだろう?」


「うぅ~ん……しんやぁ……」


「でも、どうしてボクが出ているんだ? 彼はどうなったんだろう……」


 寝てるさぁーちゃんを起こさないように周囲を確認すると正面のドアが開いた。入って来たのは予想通りのメンバーで、ドクターさんに七海さん、そして愛莉姉さんの三人だった。


「起きたかい? 信矢?」


「は、はいっ……ドクターさん取り合えず今はどう言う状況なんですか?」


「それはこっちが聞きたいが、主人格の君か……出来れば第三の彼に色々と聞きたかったんだが……」


「ですよね。それがさっきから……呼んでも無理みたいで……」


 そう、ボクもそれが疑問だった外の彼と暴れる彼、どちらも出ていないのが違和感を感じる。でもこれが正常なんだよね本来は……ボクが主人格なのだから。


「取り合えずお嬢様とそこの変態。そろそろシン坊がどうなってんのか教えてくれないかい? こっちは仕事抜けて付き合ってんだからよぉ……」


「はぁ、ですから報酬に塩ラーメン差し上げたじゃないですか」


「何で自分で運んだラーメン自分で食う事が報酬なんだよ!! 連絡はしたけど早く戻らなきゃお袋さんにまた叱られるんだよぉ……」


 あ、あのラーメン愛莉姉さんが食べたんだ……。少しお腹空いたかも。現状把握はしたいけど、拘束されてるボクに寝ているさぁーちゃん、言い合いしてる二人と現状を色々見ながら珍しく難しい顔をしているドクターさん。


「あ、あのぉ……手足の拘束解いてくれませんか? さすがに動き辛くて」


「あぁ……そうでした。第二への警戒のために拘束していたんですね。失礼しました今外しますね」


 そう言うと七海さんとドクターさんがそれぞれ手足の拘束を外してくれた。それで起き上がった拍子の振動でさぁーちゃんも起き出した。


「う……ん? 信矢ぁ?」


「うん信矢だよ。さぁーちゃん? 起きた?」


「うん……って!? 信矢!! 大丈夫なの? あの暴力女に酷い事されてっ!! 怪我とかは無い?」


 急に体中ペタペタ触られるけど今のところ違和感はない。それと下半身はあまり触られると困っちゃうよ……さぁーちゃん。あ、気づいて真っ赤になってる。


「暴力女はねえだろ……これでもソイツを止めるために最低限の力で気絶させたんだからよぉ……」


「うぅ……信矢、こんな怖い人たちと付き合いはやめよう? 今度は私、ぜったい逃げないから、だから……私と一緒に」


「落ち着いてさぁーちゃん? ボクにとって、さぁーちゃんは大事な幼馴染だよ。それは今も昔も変わらない。でも愛莉姉さんや、ユーキのアニキ、それに竜さんやレオさんとサブローさん、あとはあの戦いを一緒に戦った皆、あの人たちはボクを助けてくれた大事な仲間なんだ……」


 さぁーちゃんは凄い悲しそうな顔をするけど今こそ語らなきゃいけない。そう、曖昧だった記憶は全部クリアになった。靄がかかったような曖昧な記憶、詳細が分からない事、全部思い出したんだ。ボクが中学の時に経験した出会いと別れを……。


「そうですね……仁人様? もう、お話しても良いのですか?」


「ああ、今回の事で痛感したよ。第二の彼を力で抑えるのは限界が有る。だからここは話し合いをするしか無い。その上で協力者は必要不可欠だ。各務原さんは話をしても問題無い、あとは竹之内さんだが、彼女に事情を伏せるよう頼んだ信矢第一が言うんだ。問題は無い」


「事情を伏せる? どう言う事ですか? 先輩?」


 さぁーちゃんが怪訝な顔をした。でもこれは話さないといけない、優しい彼女は恐らく傷つく……それでも話さなくちゃいけない。


「さぁーちゃん……ボクはね。ある事が原因で、今は多重人格者になっているんだ」


「「はぁ?」」


 さぁーちゃんと愛莉姉さんが二人で驚きの声をあげた。当たり前だ普通はそんなのは分からないからね。でもこれはなんだ。ボクの中には他に二人、合計三つの人格が共存?している。


 今までの不可思議な行動やそれについても丁寧に話していった。最初は二人とも半分呆れ顔をしていたがドクターさんや七海さんの真剣な表情で信憑性が高まったのか、最後までボクの説明を真剣に聞いてくれた。


「待て待て、確かにさっきのシン坊は見た目ヤバかったな。中学ん時でもあそこまでなったのは二、三回だったしな、だけどそれはキレたんじゃなくて人格が変わってた? そう言うのか?」


「そうです愛莉姉さん。最初は違ったんですけど、戦う度にボクと第二、ドクターさんが災害と名付けた二人目のボクが交代して戦っていました」


「待って!! じゃあ今まで話していたのは? あれはシンじゃないの!?」


「あれは外装自我、別名『第三』って言って……第二を封じ込めるために無理矢理生み出した疑似人格なんだ。恥ずかしいけどボクの理想の姿を込めた人格で……ある事をお願いするためにドクターさんと生み出した人格なんだ」


 説明を終えると二人が矢継ぎ早に質問をしてきたのでボクはそれに全て答えた結果、二人が息を飲むのが聞こえた。こんな荒唐無稽な話いきなり信じろと言うのが無理な話だとは思う。だけど信じてもらわなきゃいけない。ちなみにある事とはもちろん、さぁーちゃんを守ってもらう事、ボクの……弱くて情けないボクの代わりをしてもらうことだ。


「な、なんで……そんな事になってるの? なん……で私に、相談……してくれなかった……の?」


 もう目には涙を浮かべてる。分かったんだね……さぁーちゃん。さぁーちゃんは抜けてるとかヘタレとか色々不名誉な言われ方もされるけど実際はさとい子なんだ。小さい頃のイジメで自分がどう見られるかそれが恐くて周りを異様に観察する。

 そしてすぐにどう動けば良いか判断して一番自分が傷つかないことを選択していた。だから今回は逃げ場がない事を理解してしまったんだね。


「そ、それはね……」


「春日井くん? 私たちが説明しましょうか?」


 七海さんが気を使ってボクに声をかけてくれた。ドクターさんも自分が話すのが筋だろうと言ってくれたが、それを断った。他人任せにしてはいけない。ここで逃げたらいけないとボクは恐いけど勇気を出すことにした。


「大丈夫……です。ボクが言わなきゃダメなんで……さぁーちゃん……ボクがこうなったのはね…………小学校の時のイジメが原因なんだ、あの時のイジメが全ての始まりなんだ……」


「ひぅっ、くっ……ううっ……」


 少ししゃくり上げた後、さぁーちゃんはその場で泣き崩れた。大泣きだった。ドクターさんに後で聞いたところ、この部屋は防音で扉を閉めた状態なら騒いでも問題無いらしい。あまりに激しく泣くので愛莉姉さんが強引にさぁーちゃんを抱きしめていた。最初は抵抗していたけど、途中からは大人しくなっていた。


「愛莉姉さん。ありがとうございます……さぁーちゃん? 落ち着いた?」


「ひっく……じぇんじぇんおぢづがない全然落ち着かないよぉ……」


「うん。そうだろうね。じゃあ、さぁーちゃんが落ち着くまで、ドクターさんに聞きたい事があります。ここはどこですか? そしてあれからどれ位の時間が経ったんですか?」


 起きた時から気になっていたのは現時刻とこの場所だ。左手には白い包帯が巻かれて恰好が、制服から病衣びょういに着替えさせられて、治療されているのは分かるけど、ここは明らかに保健室では無い。なら自分は病院に移送されたと言う事ではないかと言う点だ。


「ここは七海ん家が持ってる病院の中で一番デカイとこの特別個室だ。事態が事態だからな、ここにお前さんを運び込んだ。その際に竹之内さんと各務原さんには同行してもらった。時間的に言えば今はあの騒動から五時間弱経過している」


「付け加えると学院でのいざこざは関係者及び一部の教職員には完璧な口止め圧力を、巻き込まれた生徒についても同様です。佐伯と後から家の者を呼びましたので彼らが対応しています。加害者側については別な病院で拘束しています」


 状況は第三の彼が出ていた時までしか知らなかったので事態が把握出来た。ボクが気絶している間、さぁーちゃんはずっと傍に居てくれたらしい。そして眠ってしまった。そう言えば風邪の時はお互いこうやって看病し合いっこしたっけ。


「あ~シン坊、彼女ちゃん落ち着いて来たぞ? どうする?」


「もう大丈夫? さぁーちゃん?」


「……うん。ゴメン。もう、大丈夫だよ」


 目を真っ赤にした彼女を見ると目をらされてしまう。その目の中に有るのは恐怖と懺悔と悔恨とをない交ぜにした不安そのものだった。だからその不安から解き放つ必要がある。


「さぁーちゃん……ううん。狭霧。第三を通して言ったけど改めて言うね。ボクは昔のイジメの事はもう気にしてないよ、大丈夫。だから君の名前を呼ぶよボクだって後悔はしたくないからね?」


「じんやぁ……ごっ、ごめんなざぁい……怖くて逃げだして、無視して、知らないふりして、優しくしてくれたのに……裏切って……」


「ふふっ。また泣き虫になっちゃた? おいで、さぁちゃ……ううん、狭霧」


 さぁーちゃん、いや狭霧の泣き顔を何とかしたくて思わず抱き寄せてしまった。本当は未練が残るからダメなんだけどな……。初めて会った時もこうだった……そして今回も頭を撫でる。本当に撫でられるのが好きなんだね。


「じんやぁ、もう離れたくないよぉ……嫌だよぉ……」


「うん。ボクも放したく……ないっ、かな……ぐっ」


 頭痛が再び始まった。どうやら、あまり時間は無さそう。だから今この場に居る皆に話さなきゃいけないんだ……ボクの過去を。ボクだけが伝えられる過去の話をしないといけない。


「狭霧、それに皆さんにも聞いてもらいたいボクの過去があります……よろしくお願いします」

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