第2話 原初の世界にて
飯島璃空…
その名を聞いて記憶が戻るわけでも、その名を聞いて懐かしいと思うわけでもない。
でも…
「おや…? ふふっ」
クロノス様が優しげに笑みを浮かべている。
「えっと…どうかしたんですか?」
「いや、気に入ってくれたみたいで何よりだよ」
「また、心を読まれちゃったんですね…」
「違うよ。 ただ、君が幸せそうな顔をしてたからね」
「えっ…」
手で顔に触れてみる。
僕は不思議と笑みが溢れていたらしい。
「……」
堪らず手で顔を隠してしまった。
「照れなくても良いよ、リクくんは可愛いからね~」
「茶化さないでください…」
その後、僕はこの真っ白い虚無…[
「蒼天なる林檎…」
「うん、その力を使えば君は常人超えしている今の状態から更にパワーアップできるんだ。
ただ、その果実を顕現させるには強く念じなくてはいけない」
顕現とか念じるとか降霊術みたいだなぁ。
「まさにその通りさ、君に与えた特別な力とは霊魂を使い身体強化を行うものだ」
「それって幽霊を食べるってことじゃ…」
「確かに食べる動作を伴うが、食らう霊魂は自分の物なんだ」
「自分の…」
「そりゃあ心配だよね
でも、消費する霊魂はほんの僅かなものだ
乱用しない限りは魂が尽きるなんてことはありえないから」
「あ、いえ! 自分のだから不安だったとかじゃないんです!
ただ、少し安心したんです」
「安心? 自分の魂を消費することに?」
「はい…。 僕以外の誰かの魂を奪ってしまうんじゃないかって…
本当によかった…消耗するのが僕自身の
「………」
「っ、 クロノス様?」
「ん? あ、ああ! そうか! うん、そうだね。
君がそれで納得してくれたのなら良かったよ」
一瞬だけ、クロノス様の表情が少し強張ったように見えたのは気のせいだろうか?
「さ、基本的な知識や剣術、そして魔法も覚えたね?」
「はい!」
「うん! 君は努力をすれば、かの八英雄にすら匹敵する力を得れるはずだ!」
「それはちょっと…おだてすぎな気もするんですけど…」
「そんな事はないよ。 なんせ君はボクに選ばれたんだからね」
「…はい! 一度死んでしまったのにも関わらず第二の生を与え、そして僕に生きる意味を与えてくれたクロノス様の事は一生忘れません」
「気をつけてね」
「はい…!」
クロノス様が境界路で指を振ると、別の空間に繋がる穴が開いた。
「その先が原初の世界だ。
どうか、七つの大罪の暴走を止めてほしい」
「任せて下さい! 必ず、この力で止めてみせます」
僕は原初の世界へと繋がる穴へと近づく
浮いているだけだった境界路に地面ができたように足元を踏みしめながら進んでいった。
━━━━━━━
私は選ぶ相手をまた間違えてしまったのだろうか…
あの少年、飯島璃空は自らが死んだことを悲観せず、仕方のない事だと思っていた。
そして第二の生として、原初世界で悪魔を倒すことを何も厭わず承諾、更には今この時を幸せとすら思っている。
魔法や剣が扱えることからの好奇心などではない。
璃空は自らが剣術を学ぶことにも魔法を扱えるようになることにも一切の高揚をしていなかった。
ただ、その行為がこれからの自分のためになるから、それだけの理由で学び、会得した。
あの少年は自分の意思で成したいと思った物事が無かったのだ。
生前の飯島璃空という、同年代の少年よりも小柄で誰を恨むでもなく自らを恨み、誰が見ても不幸なその生涯を幸せだと心から思っていた。
恐ろしい。
ただ恐ろしいだけだ。
自らの不幸を不幸とは思えないのに、他人ひとの不幸だけは自分の事以上に苦しんでいる子供がいるのだから。
あの少年に願いは無く、もし有ったとしてもそれは…
それは、誰かの貰い物の願いなのだ。
未来視によって私が見た飯島璃空の末路は八つ。
だが、その全てが彼に死を告げていた。
━━━━━
境界路に出来た穴を抜けると、そこはのどかな村だった。
人口は百人ほどだろうか。
ルーパス村
村の入り口にある看板にはそう書かれていた。
「ルーパス村は…」
僕はクロノス様から貰った地図を確認し、どの辺りの村なのかを確認する。
「あ、あった!」
ルーパスはラグナ帝国領の最西端にある村で、政治や貿易など関わりが殆ど無い田舎のようだ。
原初世界で広く知られている国は十四。
その中でもラグナ帝国の国王は神さまとかっていう噂があるらしい。
別れる前にクロノス様が『RPGとかだと無難な村だから~』と言っていたけど…
「クロノス様、そもそも僕RPGを知らないんです…」
村はお祭りでもしているかのように賑わっていた。
露店が立ち並び、御神輿を担いでいる男の人たちが…
って、これ本当にお祭りなんじゃ…
「あの、すみません」
村の酒場で晩酌をしている老人に訊ねてみた。
「今日って何か特別な日なんですか?」
「なんだあんちゃん、んなことも知らずに今日この村に来たのか?
今日は村長の甥っこであるアイル様の十五歳の誕生日なんだよ」
「へぇ~、それはおめでたいですね!」
「おう! 歳のわりに頼りになる方でなぁ…
十二の時に両親を失ったのに涙を流すこともなく、父親に代わって将来は自分がこの村を引っ張っていくって言ったときには村の老いぼれは泣きながら応援したよ…」
「そうなんですね…」
この村の次期村長さんは凄く真面目な人らしい
「そういやぁよぉ、あんちゃんはアイル様の生誕祭に参加するわけでもねぇのに、なんでこんなへんぴな村に来たんだ?」
「実は僕、転生者なんです」
「ほお、転生…者…」
「? はい。 それで、お尋ねしたいことが…」
「来るなァ!」
「っ!」
さっきまでお酒を飲んでいたおじいさんは酔いから覚め、僕の事を怖がるように後ろに引き下がっていった。
「おーい! みんな、転生者だー!
ここに転生者がいるぞー!」
「え…あの…」
何がなんだか分からずに立ちすくんでいると、鍬や鎌、包丁を持った村の人たちがぞろぞろとこちらへやって来た。
「あ、あの…」
「ヒッ! 寄るな!」
「この村から出ていけぇ!」
「あの、お話を…」
「お願い、出ていって!」
「これ以上ワシらから何を奪うんじゃ…」
口を開いて何か言う度に怯え、雑言を浴びせる村人達
どうしてここまで転生者を嫌うのかは分からないが、ここにいない方がお互いに良いだろう。
「転生者である僕が来たことが不快であったのなら謝ります。すみませんでした」
素直に謝罪したことに動揺したのか、村人たちはどよめいていた。
僕は頭を上げると踵を返し、村から出ていく事にした。
踵を返す、といっても返した所で境界路に繋がる穴は既に消えていたので、村近くにある森で野宿をするんだけど…
「……」
「っ?」
今、誰かがこっちを見ていたような…
村の人たちとは別に誰かに見られている気がする。
敵意は向けられていないけど、凄く圧迫される感覚だ。
…まあ、今は視線の正体を探るよりも、ここから離れるの方が先決だ。
僕は村を離れ、身を隠すように森の中へと進んだ。
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