罪に願いを 怠惰の継承者

百瀬麟太郎

第1話 第三の物語

『許さない…』


 許さない? 一体何を?

 どうしてこの少女ヒトは怒っているのに泣いているんだろう…


『悪魔に魂を捧げてでもあなたを…』


 それは駄目だ。

 そんなことをすれば、きっと一生後悔する。

 人の悪行はどれほど卑劣でも、それは人の枠における卑劣さだ

 でも、悪魔に魂を捧げるのは分けが違う。


『何が許せないかですって?

 全てよ、全てが許せない

 あの人たちが■■を私を生かすためのスペアの部品として見ていた事

 ■■が助けを求めていたのにそれを口に出さなかった事

 それを知っていて目を背けていた自分の事

 その全てが許せない』


 そんなのは仕方がない。

 きっとは貴女のことを愛していた

 きっとは貴女を不安にさせたくなかった。

 きっと貴女は誰かが救いの手を差し伸べてくれると信じていた。

 後付けのように歪んでいたのなら解決は出来たと思う。

 でも、貴女の家族は貴女が産まれたその時から歪んでいた。

 どうあってもその歪みを直すことが出来ないくらいに。






「一人語りはもう良いかな?」


 不意に優しい声が聴こえる。


「…」


 気が付くと、僕は不思議な場所にいた。

 何もない真っ白な虚無、その虚無の中、彼は立っていた。

 …いや、浮いていたのだろうか?


「やあ、寝覚めの気分はどうだい?」

「えっと…」


 この人は誰だろう?


「うん? ああ!私の事を知らなかったね!失敬失敬

 私はクロノス。 死んだ人間に第二の生を与える巷じゃ有名な異世界の神様さ」


 クロノス…ってゼウスとかの父親にあたる神様じゃ…


「あー…ま、あそことはあんまり関係無いから気にしな~い気にしな~い☆」

「は、はぁ…」


 変わった神様だ、神というのは人間に対しては無機質な感じだと思ってたけど、そうでもないらしい。


「私は特別だよ? なんせ、君がこれから転生する原初の世界を創った神……創造神だからね」

「創造神…

 あれ? そういえば、何で僕の考えてる事が分かったんですか?」

「…君、よく、天然だって言われない?」

「天然、ですか?」


 言われた事は無い…と思う。 というか……


「っ…… 君、記憶を失っているのか…」

「あ、はい…すみません。 だから自分が誰だったのかもよくは…」

「……」


 クロノス様は真っ白な虚無を歩きながら考え込んでいた。


「うん…よしっ!

 キミっ!」

「は、はい!」


 何か閃いたのかこちらに人差し指を向ける。


「君はこれから原初の世界に転生すると言ったね?」

「はい、新しく命を頂けるのは感謝してもしきれません、ありがとうございます」


 あれ…そんな事言ったっけ?と思いながらもそれらしく返答してしまう。


「どういたしまして。

 で、だ。 君には、その原初の世界でやってほしい事があるんだ」

「やってほしい事ですか?」


 クロノス様は首を縦に振る。


「原初の世界には[七つの大罪]と呼ばれる悪魔が存在している。

 君には、その悪魔を倒してほしいんだ

 勿論、お礼はするよ」


 七つの大罪…

 ふと、先ほどの少女の言葉を思い出す

 あの娘が魂を捧げた悪魔は、七つの大罪みたいな悪魔なのだろうか


「まあ、普通に考えて嫌だよね~

 うん! 嫌なら嫌で━━━」

「良いですよ」

「良いの!? ホント!? ヨシッ!

 後から、やっぱヤダ!はダメだからね?

 もう決定事項だよ! はい、決定!」


 凄い食い気味だ…

 拒否する以前にそんな隙さえ与えないようにしている…


「ちなみに、七つの大罪がどこにいるかは私も知らないんだ」

「なるほど。 じゃあ歩いて探す感じになるんですね」

「…君、本当に躊躇い無いんだね。 私の事、怪しいと思わないの?」

「あ、はい。 少し話しただけですけど、クロノス様が嘘を吐くような神様には見えなかったので」

「……」


 クロノス様は僕の顔を見ながら黙ってしまった。

 何か気に障る事でもいってしまっただろうか?


「いや、そうじゃないよ。 嬉しいんだ。」

「嬉しい…?」

「ああ。 そう言ってくれる人がまだいたんだなと思ってね。

 これは…ボクも頑張って君の力にならなくちゃね…」


 そう言うとクロノス様は空のように爽やかな青の刀身に深海のように暗い青色の柄の剣を僕にくれた。


「これは…?」

「瑠璃の剣

 きっと、君の力になるだろう。

 そして、名前すら忘れてしまっては後々不便だろうから名前ぐらいは教えてあげよう」

「僕の、名前…」

「君の名は、いいじま

 この世界線で八英雄以来初めてボクという神に選ばれた特別な人間だ」

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