夢見る男の異世界生活

@masato0806

第1話

あなたは夢の世界を信じるだろうか?夢の世界とは夜眠りについた時に見る夢のことである。いい夢を見る者もいれば悪い夢を見る者もいるだろう。この物語はその夢の世界に転生するルシウスの物語である。



「ピピピ、ピピピ」


 時計が鳴る。


「ルシウス、朝だよ!起きて!」


 妹のシェリーが起こしに来た。シェリーはカーテンを開け外の光を中に入れる。その光のせいで俺は目覚める。なんとも気持ちのいい朝だった。やっぱり晴れの日は気持ちがいい。


「あぁ、今起きるよ」


 俺はグニューっと身体を伸ばしストレッチをする。そうした後今度は布団を畳み始める。これが毎日の日課である。


 それを終えると台所に向かい朝食の準備をする。


「今日は目玉焼きとウィンナーくらいしかないな」


 冷蔵庫の中を確認する。朝ごはんはその時冷蔵庫の中に入ってるもので決まる。俺は目玉焼きとウィンナーを2人分作った。両親とは幼くして離れ離れになってしまったためシェリーと2人暮らしをしている。


「朝ごはんできたぞー」

「やったー!お腹ぺこぺこ」


 そう言うと2人は談笑しながらご飯を食べ始めた。


「学校は楽しいか?」

「うん!みんな優しい子ばっかだよ!」

「それは良かった。」


 ルシウスはシェリーに対していつも塩対応だが、内心は凄く可愛い妹にデレデレである。


「ご馳走様でした!美味しかった!」


 シェリーは食べたお皿を台所に持って行き、学校に行く支度をしている。


 俺はこの何もない日常がどれほど幸せだったかは今はまだ知らない。


「行ってきまーす!!」


 そう言うとシェリーは勢いよく玄関を飛び出して行った。俺は玄関までシェリーを見送りに行く。玄関を出たところで振り返り、俺に向かって「バイバイ」と言い、笑顔で手を振った。


「さて、俺も仕事に行く準備をしなくちゃ」


 俺は高校卒業後近くの工場に就職をした。妹を養うためにも働く以外の選択肢はなかった。仕事は大変だがシェリーの事を思えば苦ではなかった。


 顔を水で洗い、髭を剃る。髭と言ってもそんなに生えてこないので3日にいっぺんくらいの頻度である。それを終えると歯を磨く。歯磨き粉はミント味である。シェリーはフルーツの香りのする歯磨き粉を好んでいるが、口の中が甘くなるのが俺は苦手で、いつもミント味の歯磨き粉を使っている。口をグチュグチュとすすぎ、口についた歯磨き粉を拭き取る。そして、作業着に着替える。力仕事であるため、洋服が汚れてしまうのでみんな作業着を着ている。今日はグレー色の作業着を選んだ。。黒色とグレー色と紺色の作業着を持っている。その時の気分によって選ぶ。今日はグレー色の気分だった。身支度が済んだところで、部屋の戸締りを確認して俺も家を出る。家から職場は電車で30分と行った所にある。


 電車に揺られながら職場に行く。新聞を読んでいるおじさんもいれば、音楽を聴いている女子高生もいる。俺はボーッとしているのが好きなので、電車の中ではいつもボーッとしている。かれこれボーッとして30分くらい経つと職場に着く。


 職場に着くと、まずはじめに出勤届けを出す。ウチの会社は、カードを機械にかざすだけでいいので、カードを機械にかざし出勤届けを出す。なんとも便利なシステムで、これがAIの時代かと思い知らされる。もしかしたらあと数十年後には、機械に顔をスキャンするだけで出勤届けを出すことができるのかもしれない。


「マックスさん、おはようございます」


 出勤届けを出したあと、真っ先にマックスさんに挨拶をする。マックスさんは俺の会社の上司で、職を探して居た時に手を差し伸べてくれた恩人である。


「お、ルシ君今日も頼むよ」


 マックスさんにはルシ君と呼ばれている。俺はこの呼ばれ方があまり好きではない。けれど、上司なので文句も言うことができず、仕方なく享受する。


 朝9時になると今日の作業割り当てであったり、出席確認のため、朝礼が行われる。俺はその朝礼に参加するために、事務所前に行く。俺が事務所前に着くと、もう既にほとんどの人たちが集合していた。そこにマックスさんが現れる。


「今日も安全第一でよろしく頼むよ、いいな?」


 マックスさんがそう言うと、社員の雰囲気がガラリと変わる。さすが俺の上司だと思った。いつか俺もマックスさんみたいになりたい。


 朝礼が終わるとみんな持ち場について作業を始めた。今日はベルトコンベアから流れてくる部品を仕分けする仕事だった。この仕事はひたすら流れてくる部品を仕分けするだけなので、一見楽そうに見えるかもしれないが、同じ事を何時間もやるので、途中意識が飛びそうになる。


 仕事を始めて2時間が経ったころだろうか。俺の携帯に1つの着信があった。郵便の不在着信の連絡だろうと最初は思っていたが、立て続けにもう一件連絡が入ってきたので、1度作業を止めて確認する。


「もしもし」


 俺は電話を取る。


「もしもし、シェリーさんのお兄さんですか??あの、、シェリーさんが、、」


 女性の声が聞こえる。焦っている様子で誰だかわからない。


「もしもし、シェリーがどうされたんですか??」


 少し嫌な雰囲気が伝わる。


「シェリーが登校中に車に轢かれてしまって、今重篤なんです、、」


 そう聞くとルシウスは視界が真っ白になった。


「シェリーが、車に轢かれた??今朝はあんなに元気だったのに?」


 俺は信じることができなかった。信じたくもなかった。


「今一刻を争う状況なので、急いで◯◯病院まで来てもらえませんか??」


「分かりました、今急いで行きます。」


 そう言うと俺はマックスさんに状況を伝える。それを終えると急いで病院へと向かった。


 タクシーを使って急いだが、病院に着いたのは30分くらい経った後だった。


「はぁ、はぁ、遅れました。シェリーは??」


 急いでシェリーの元へ駆け寄る。


「ルシウスさんが到着する五分前にシェリーさんは亡くなりました。ご冥福をお祈りします。」


 と医者に告げられた。


「嘘だろ??シェリー、、起きてくれよ、、」


 俺はかなりテンパっていたので、まだ現状を理解できなかった。つい5時間前には元気だった子が、今突然亡くなりましたって言われたらそりゃテンパるのも当たり前だと自分に言い聞かす。俺は何度も深呼吸をして心を落ち着かせた。


「ルシウスさん。。」


 そう声をかけてきたのは電話をしてくれた近所のおばさんだった。


「シェリーちゃん、最後まで頑張ってたんですよ、、」


 悔しそうにおばさんは話しかけてくる。おばさんはハンカチで涙を拭いている。


「シェリー、頼む、起きてくれよ、、俺はお前が居ないと生きていけないよ、、」


 泣きながら訴える。けどシェリーの返事はない。俺はどうする事もできず、そこに立たずむしかなかった。ずっとシェリーの手を握る。シェリーの手は冷たかった。もう1度目を覚ましてくれると信じていたが、そんな事起こるはずがなかった。なぜならシェリーは死んでしまったから。しかし俺は未だにシェリーが死んでしまった事を受け止めることができない。ついさっきまで笑顔で元気にしてた子が突然死んでしまったんだ。俺は自然と涙がポロポロと落ちてきて、気づくとむせび泣いていた。おばさんが泣きながら俺の肩をさすってくれた。


 それから1時間が経ち、俺はようやく現状を理解することができた。もうシェリーはどこにもいない。あの眩しかった笑顔をもう2度と見ることができないと思うと苦しくて仕方がなかった。俺は1人になってしまった。もう共に寄り添ってくれる人は居ない。これからどうしていけばいいのか分からなかった。いっそこのまま死んでしまいたいとさえ思った。俺は冷たくなったシェリーの手をもう1度握り話しかけた。


「もう一度お前と話がしたいよ。これから俺はどうしていけばいいのさ。俺を一人ぼっちにしないでくれよ。」


 そう呟き、俺は悲しみに暮れた。

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