サメのノコギリは命を刈り取る形をしている

 少女アルク奇策コンバット・トリックによってかせいだ瞬息わずかの間。

 距離にして数百。サメ側の軌道修正アジャスト分のロスを考慮しても、秒にすればたったの。それだけの数字が、両者の生死いのちを左右する。


 ――――この国の戦闘魔術コンバット・マジックは、七大系統に整理されている。そして、そのいずれもが、いわゆる呪文詠唱スペルキャストをともなわない。理由は単純シンプルに、からだ。ゆえに各系統とも、術具アームズであったり、手先の動作ハンドサインであったり、とにかく即座すぐに行使できる発動機構トリガーの術式をもちいる。


 ここで、サメはさらに加速した。龍の吐息ドラゴンブレスめいて吹き荒れるアフターバーナー! さらにノコギリ熱量フロギストン宿ともる!

 サメのノコギリは命を刈り取る形をしている、悪夢じみた殺戮器官ぶきだ!


 ――――では、この二秒未満の猶予に、なぜアルクは詠唱をしているのか?

 詠唱それは、術式発動トリガーのためではなく。

 詠唱それは、発動した術式をためのものだった。

 本来は折り合わぬ系統同士を調和させ、単一ひとつの作用として結実させる――その横紙破りを通すのがアルクという少女であり、詠唱という手続きなのだ。そしてそれは、間に合った。



 《七色集いて虹霓にじけ、七彩合砕ヴァリアス・プリズム



 韻階魔術ノーツ刻印魔術ルーン器械魔術アームズ捧餞魔術サクリファイス改竄魔術エラッタ契約魔術コントラクト媒介魔術カーシング――七の術理いろをそれぞれとするならば、り合わされたひも虹霓にじと呼ぶ。ゆえに、


 七色に、否、もはや16,777,216色にすら華やゲーミン斬弧アークが、空を両断しぶったぎった。


 サメは、接触までもはや刹那1/60フレームもない距離に肉薄しちかづいていた。けれど、それまでだ。直前に真っ二つひらきになったのだから。


 サメから噴出ふきだした血が、空をらす。虹がかかるのと、順序はすこしばかりあべこべだった。

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