ワンス・サドン・ア・デス ～ 沈黙のサメ令嬢 ～

サメはいきなり増える

　ドッグ（シャーク）ファイト！　霊長（ノコギリザメ）と人間（アルク）、両者ともめまぐるしく機動、機動、機動（ロンド・ロンド・ロンド）！　舞踏会（ダンス）めいた武闘会（バトル）！　万華鏡（まんげきょう）めいて位置関係（ポジショニング）が変わり続けるさまは、絶叫マシンのごとし！

　じつのところアルクの飛翔魔術は、“飛翔（フライト）”や“浮遊（レビテーション）”とは機序（メカニズム）がことなる。概念干渉（イデア・アレンジ）によって位置を直截的（ダイレクト）に定義させる術理（ことわり）。ゆえに彼女もまた物理法則にとらわれぬ。

　三次元ピンボールじみた膠着（おみあい）が、しばらく続いて、にわかに崩れた。サメ残像が掠（かす）めた瞬間、アルクに衝撃（インパクト）！　おお、なんたることか、残像が実体を持っている！　サメ体術（マーシャーク・アーツ）と影分身（シャドウ・レヴェリー）の高等応用技、実像鮫分身（アルターエゴ）！　サメはいきなり増える！

　爆轟（ＢＡＭ）ッ！　アルクが至近（ちかく）で熱量を炸裂（はぜ）させた。むろん自爆ではない。ダメージはすべて光膜（オーラ）で遮断（カット）。意図（ねらい）は衝撃（エネルギー）による移動だ。

　文字通りの爆発的加速（デトネイテッド・アクセラレーション）によって分身サメ包囲網を突破（ブレイクスルー）！　しかし距離は、すなわちふたたび囚われるまでの猶予はわずか……！

　しかししかし、次の一手（アクション）は、追加の退避運動ではない。

　詠唱だ。

　猶予をすべて殲滅力（パワー）に投入、西部劇めいた早撃ち勝負（デュエル）――

　決着まで、残り二秒。