世界地図

 「生まれたばかりの人間の心は、白紙の状態である。」と、誰か偉い人が言っていたのをふと、思い出した。私の心の中には「人生」の様にスタート地点と、赤点を取ったテストみたいな、間違いの印が点々とある白紙があるだけだ。それは来し方のみあり、行く末示さぬ、「世界」の見えない、「地図」とは言えぬ代物だ。けれども、それでいい。人生は旅のように正解がないから面白い。間違えた分だけ、心の地図は「未完成」の世界に広がっていくからだ。

 けれども、最近の人たちは間違いをすることを嫌う。皆、自分で旅を始めようとせず、先人の旅の地図を盗み見る。しまいには、「そんなこと、意味ありますか」とか「無駄じゃないんですか」と言い、結局その道さえ辿らず、間違いの無い道を進む。それは安全で安心な地図かもしれない。けれどもその人達の心の地図には何が「遺る」だろうか。きっと答えを写したときの様に、何も残らず、「自分の世界」地図は書けない。自分だけの世界地図を作るという意味では須く冒険者なのに。

 そんなことを考えている私に、一陣の風。髪の毛で前が視えなくなったその一瞬で、履いていた靴が落ちた。屈折した私には丁度いいのかもしれない。「間違い」だらけの私は「間違い」が嫌いな人たちに嫌われた。「人生の地図」、私の心の中の世界地図は「完成した綺麗な地図」ではないことを願う。

 私の最後はこう言って終わるだろう。「ありがとう」と。

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