第8話

 大男はその字を見るなり頭抱えてしまった。するとみるみる顔が青くなり、脂汗が吹き出した。大男は徐々に腰を丸めていく。限界まで来た時、



「うおわああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁ」



 大男は叫んだ。彼にとっては普通の音量だったのかもしれない。しかしその音量はあまりにも大きく、木に止まっていた普段はおとなしい鳥たちもどこかへ飛んでいってしまった。大男はその羽音を聞くと小さくため息を付き、その場にしゃがみこんでしまった。男は心配そうに大男の顔を覗き込むと大男は機嫌悪そうに近くにあった枝を男に投げつけた。男はそれを見事にかわした。そして再び大男の方を見た。男は驚いた。なぜなら、あの大きな大男が膝を抱えて泣いていたからだ。



 ーどうしたのですか



 男は大男に見えるように大きな字で地面に書いた。大男は数分身じろぎもしなかった。涙が乾いてくると大男は鋭い石で地面に文字を書いた。

 ーおれはきらわれものなんだ。こえがうるさいって、おれがちかづくとみんなにげていく

 男はその文から昨日村についたときの文の意味を理解した。彼は恐れていたんだということを。彼はこの山を愛しているが故、ここに住んでいる動植物に充実した日々を送ってほしいと思っているということを。それには自分という存在は邪魔だと理解しているいうことを。男派が顔を上げると大男は顔を膝に沈めてしまっていた。まるで幼児だ。男はそんな大男によりそり背中を擦った。

「私は彼らとは違います、あなたを軽蔑しない。だってあなたのこと知らないのですから。教えて下さい。この山のことを、あなたを」

 男は大男が小さくすすり泣くのを耳に入れながら背中を擦っていた。




 その後二人は”決まり”をもとに約束を交わした。

  1つ むやみに動植物を殺さないこと。

  2つ 村を見つけたらお互い金輪際関わらないこと。

  3つ 普段は口で会話をすること。あと、敬語は禁止。

 約束を結ぶと二人は歩き始めた。



 次に見つけた村は、最初に見つけた村と相反していた。大きな穴のような場所にあるのは同じだったが最初の村とは規模が違う。この村は大きさは最初の村より少なくとも5倍の広さがある。人数も200はとうに超えているだろう。五十くらいの家が大きな穴の側面にびっしり建てられておりその家々の前を煉瓦の壁があり家の扉の前の煉瓦に扉と同じ形の穴があいている。家と煉瓦の壁の間には木が四、五本生えておりそれには果物がなっている。この村の人々は果物を主食としているに違いない。村の中心には白い煉瓦でできた噴水がある。今日はパーティーか何かなのか沢山の人が外に出ている。



「ここでもないか」

 大男はもの凄い小さな声で言った。彼はもの凄い大きくか、もの凄い小さくしか声を出せないらしい。

「うん、違うと思う」

 男はとても耳が良いらしい。

「そうか、次の村に行くぞ」

それから付近の村を四、五つ廻ってその日は終わった。晩飯はよそ者の鹿と男が仕留めた鳥だった。男は鼻も良いらしくその鳥がよそ者だとすぐに分かったらしい。昨日大男が決まりを話してから男は少し変わった。挙動不審というかずっと目があちこちを見ていて落ち着きがない。まるで、誰かに命を狙われている人のようだ。

大男は男の異変にとっくに気づいていた。でも黙っていた。昨日はあんなふうに泣いて男にすがってしまったものの、男を完全に信用しているわけではない。男の行動を観察し、彼の狙いを探しているのだ。

男の様子は本当に変だ。顔にもいつもの笑顔はない。




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