第9話
次の日も、村を廻ろうと思っていた。だが、2人は違和感に気づいた。音がしない。鳥の鳴き声、他の動物の鳴き声。聞こえるのは木が揺れる音だけ。それに複数人の視線を感じる。2人は視線を合わすと無言で頷いた。大男は尖った石を、男はナイフを手に背中を合わせた。
「5人」
大男はもの凄い小さな声で囁いた。男は頷く。そして、2人で同時に息を吸うとお互い反対方向へ駆けた。
周りにいたのは人間だった。何が目的だったのだろうか。2人が持っているものといえば尖った石と小さなナイフ、あとは命ぐらいしかない。奴らには2人が大富豪にでも見えたのだろうか。いや違う。奴らはここらの辺の村人だ。彼らは縄張り意識が高い。おそらく、さっき村に立ち寄った後、着けられていたのだろう。
彼らは強かった。2人が相手を襲うと攻撃は空回り、3つ傷を負う。二人が攻撃をしないとすきを突かれ、5つの傷を負う。気づけば2人は傷だらけで、体中から血が流れていた。2人とももう体力の限界で視界も悪い。体がゆらゆらと揺れている。立っているのもやっとなぐらいだ。2人は最後の力を振り縛り5人の村人へ襲いかかった。2人が腕を振り上げると同時に村人が襲いかかってきた。2人はもう死を覚悟した。そのとき、どこからともなく狼が飛び出してきた。
狼は村人を次々と倒していった。その後、役目を果たしたように来た道を見た。2人は唖然としていた。すると狼の視線の先から1人の女が出てきた。女は2人に煙の出ている葉を投げた。その葉の煙を吸うと2人は眠りに落ちた。
男が目覚めると例の女が狼に動物の肉を食べさせていた。男は驚いて隣を見た。隣では大男が女を睨みつけていた。二人は知っている。今狼が食べている動物は女によって殺されたものではないということを。しかし、この山のものを食べているというなんとも言えない苛立ちが二人の心を支配していた。彼らの苛立ちに気づいたのか女は彼らの方に振り返った。先程は今にも死にそうな状態だったから気づかなかったが、女はとても整った顔をしていた。細くつり上がった目にキリとした眉、紅を引いたような赤い唇。体型も細く痩せている。
ーなにか文句でもある?
女は声を出さなかった。字も書かなかった。女がしていたのは手話だった。大男は女が何をいっているのかわからなかっただろうが男にはわかった。はてなマークで頭いっぱいになってしまった大男に男は通訳した。
「なにか文句ある?だって、彼女が使っているのは手話というやつだよ。多分彼女は耳が聞こえ」
「聞こえている」
男と大男は驚いて顔を彼女に向けた。
「聞こえている、と言っている。だが、私はこれ以上お前と口で話す気はない。こいつにわからない言葉は言いたくないからな」
女は狼の頭を撫でた。
ー私達は周辺の村を回っている。
ー村を?なぜだ
男は女に理由を話した。
ーけっ、くだらない。
女は狼の毛並みを整えた。狼は嬉しそうに尻尾を振りながら女の周りを回っている。
ーお前、いや小さい方ではない。大きい、そっちだ。お前。お前、なにか隠しているな
「え?」
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