第5話

 生ぬるい空気が漂う朝、二人は洞窟を出て曇天の空の下、共に歩き出した。

 始めに行ったとおりこの森は晴天の真昼でも全く陽が射さない。そのため二人の手に松明が握られている。大男は左手に松明、右手に縄を持っている。男の方は右手に松明、左手の手首には縄がきつく縛られている。というのも昨夜こんな会話が交わされた。



 ーおれは、おまえをたすけないといったがおまえがかってにこのいえにはなっておくのもきにくわない。

「ならば、私を縛ればいいと思います。こう縄で私の手首をぐるっと」

 男は手首の周りを反対の手で回してみせた。

「でも私達が密着しなければいけない程度の長さは嫌です。私も身を守らなければいけませんから。大丈夫です。あなたに迷惑はかけません」



 ということである。現在二人はこの山の村に向かっている。大男が言うに、いや書くに、この山はとても広く村の数も多いため一日二日で回れるものではないという。まず二人はあの洞窟を中心に半径五キロ以内にある村を回ることにした。

 洞窟の外は山の植物が伸び切っていた。中には気持ちの悪い色をした植物も多々あった。足場もゴツゴツとしていて歩くのが大変そうだ。



 村に着くまで二人はさっき言ったように縄で繋がれたまま足場の悪い道を進んでいた。その間、二人の間には”会話”というものはなかった。というのも大男が口を開こうとしない、というのが原因である。それから、最初の村を見つけるまで二人が口を開くことはなかった。

 


 男が初めてそれを見た時自分が想像していものと違っていた。男は少し驚いた素振りを見せた。男は”村”というものは地面の上にあるものだと思っていたがそれは違った。真逆だった。村は地面の下にあり、そこは底の平らな大きな穴のよう、といえばわかるだろうか。二人はその穴から少し離れた高いところで村を見ている。しかし、そこは”村”と言うには小さすぎた。”村”ではなく大家族にも見える。人口もざっと10人程度しかいない。村には大きな家が1つと畑が2つ敷き詰められている。とても、とても小さな村だ。



 大男は男が村を見つめる様子をじっと見ていた。男が自分の視線に気づくと大男は地面に字を書いた。

 ーここじゃなさそうだな

 男は頷いた。

「でも、もしかしたら私のことを知っているかもしれません。話を聞いてきます」

 男は村に降りようと駆け出した。が、大男に腕を掴まれた。男は驚いて後ろを見たが、大男は首を横に降るだけだった。

「なぜだめなんです?情報収集は何事においても大切でしょう?」

 男は小声で言った。大男は男をさっきいた場所まで連れ戻すと、先程の字を足で消しまた新しく字を書いた。

 ーおれたちのそんざいをしられてはいけない

 男は予想外の言葉に思わず大男の目を見た。

「な、なぜ?」

 ーおれたちのそんざいをしってしまったらやつらはしずかにくらせなくなる

 男は理由がわからなかった、が従うしかなかった。二人は静かにその場を去った。






 

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