第115話待ちに待った接吻、ではなく
そして一同で讃美歌と国歌が歌われ、司式者が愛の教えを朗読され、神に祈りを捧げる。
それを見届けた司式者がクロード殿下とわたくしへ問いかけてくる。
問いかけられた内容を要約すると『夫は妻を、妻は夫を、愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの妻(夫)に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?』という内容であったのだが愚門であると言わざるを得ない。
このわたくしのクロード殿下に対する気持ちの深さを舐めないで頂きたい。
クロード殿下以外の殿方はどう考えてもあり得ませんし、例えクロード殿下が王位剥奪の上無一文になろうとも、一生でもって支えて行くに決まってますわ。
むしろ想像してみましたら、いつも一人で何でもできるクロード殿下がわたくし無しでは生きていけなくなるその状況、それはそれで悪くない様な気も………っと、妄想の世界に浸りそうでしたわ。危ない危ない。
しかしながらわたくしにとっては当たり前であるこの問いもクロード殿下が肯定してくださる返事を聞くと身体中から嬉しさが溢れ出し、まるで天にも昇りそうな程の夢心地な状態となってしまう。
言質はしかと頂きましたからね、クロード殿下。
死が二人を分かつまで何卒宜しくお願い致しますわ。
そしてわたくしはクロード殿下と指輪をお互いの左手薬指に嵌めるといよいよ待ちに待った接吻、ではなく、ベーゼ……でもなく、そうっ、ベールアップですわ。
ふたりを隔てるものがなくなったことを表す行為、ベールアップですわ。
クロード殿下とキスを出来ると想像するだけでこの一か月近く夜も眠れなかった、などという事も、勿論ございませんわ。
ただ、純粋に、そう清らかな心をもって、ようやっとクロード殿下とわたくしの間を隔てる物が無くなった事を示すこの行為が嬉しく思うだけでしてよ。
そして、クロード殿下はそんなわたくしの心の中の葛藤などお構いなしにベールを上げ、吸い込まれてしまいそうな瞳でわたくしを見つめて来ると、一拍おいてみるみるクロード殿下のお顔が近づいて来るではないか。
思わずわたくしは目を瞑ってしまい、次の瞬間には『ちゅっ』という小気味より音と共にわたくしの唇へと柔らかな感触が伝わってくる。
そこからの記憶は残っておらず気が付けばわたくしは退場しており、披露宴を催す会場へと馬車に揺られながら向かっていた。
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