第109話世界で一番幸せ者だと気付く

そして私は気付く。


娘にはアルキネスの血が流れていない事が一目で分かってしまうと。


そう、私が一目で分かった様にアルキネスにも一目で分かってしまうのである。


ただでさえ出産で血の気が引いていたにも関わらず、更に血が一気に引いていくのが分かる。


これから起こるであろうアルキネスの反応を想像するだけで恐怖と絶望と後悔により私の身体はガタガタと震え、呼吸すらまともに出来なくなってしまう。


なんと、愚かな女であろうか。


しかしながら今まで自分がして来た愚かな行動を思えば、以前の様に無知をさらけ出して言い訳をする気力すら湧いてこないし、もうその様な恥さらしな行動はしたくない。


「よく頑張ったな、アイリーン。元気な女の子じゃないか」

「ど、どうして………?」


しかし私の予想と反してアルキネスから聞こえてくるのは優しい労いの言葉であり、その言葉と共に私の頭を優しく撫でてくれる事に私は嬉しさよりも『どうして?』が頭の中に埋め尽くされる。


「どうしてって、産まれる前からほぼほぼ獣人の子だろうな、という覚悟はしていたからな」


そう言うとアルキネスは説明してくれる。


「まずは予定日が二か月もズレているという事から俺の子では無いという事と、アイリーンは避妊薬を摂取していたらしいけど、これの効果は五日間前後なんだが、獣人の子種は女性のお腹の中では一週間は動く事ができる為ほぼほぼ獣人との子供であろうなと。後は俺の覚悟の問題で、その覚悟は既にできている。例え俺と血が繋がって無くても俺の子だ。こんなにも可愛いじゃないか。しかしそうだな。村人たちには俺のお爺さんが獣人であり隔世遺伝で強く獣人の血を引き継いだ事にでもするか」


もし私が逆の立場であるならば、アルキネスの様に覚悟を決めて許すことが出来るのであろうか?


きっと私は嫉妬で狂ってしまうのであろう。


そんなことが頭を過りつつ、私は大粒の涙を流しながら「うん」と「ごめんなさい」を連呼する。


気付くのが遅すぎた。


けれども気付く事が出来た。


そしてその過ちを許してくれる夫がいて、産まれた娘を抱くその表情は嫉妬しそうな程娘にデレデレで。


きっと、こういう事が、皆が言うお金では買えない幸せなのだろうとまた一つ、今更ながらに気付く。


そして私は、妃になれなかったけれど世界で一番幸せ者だと、また一つ新たに気付く事が出来た。





リーシャからの告白から一か月、ついに俺たちは王都に戻りこの長い長い旅行、前世で言う婚前旅行は終わりを告げる事となった。


因みに各地でこの旅行が目撃された結果、結婚後のごたごたや子育て等で時間に追われてしまう前に婚前旅行に行くというのがブームとなり、それが王国で風習として定着していくと同時にその第一号として長く語られるようになるのはまた別の話である。


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