第108話自分が犯した罪の深さ

そしてそんな日常をアイリーンと共に暮ら始めて一か月、村での生活にも慣れ、よそ者というレッテルこそ変わらないものの村人たちとも気兼ねなく話せるようになった時アイリーンに陣痛が訪れた。


まだ日は高く昼間だった為今日一日の仕事は終わって無かったのだが村人たちから「そんな事は良いから早く行ってこいっ!」と許可をもらい残りの仕事を放り投げると急いで隣村にいる産婆さんを呼び寄せ、出産の準備を産婆さんの指示を仰ぎながら進めていく。


囲炉裏で常にお湯を沸かし、使う道具を殺菌し、それとは別に人肌のお湯も用意する。


そして俺は苦しむアイリーンの側へ行くと落ちかけた毛布を掛け直してやり、その汗ばんだ小さな手を握りひたすら祈るのであった。





私はこれ程の事をされる程悪い事をしたのだろうか?


恋愛は年頃の男女であれば皆するであろうし、身体の関係も皆するのに、何が悪いか裁判の時の判決内容を聞いても全く理解ができなかったのだが、しかしながら皆が口を揃えてやってはいけない事はやってはいけないという事を学べた。


しかしながら身体でお金を稼ぐのは、実際それを商売にしている人もいる為良いだろうと思っていたがどうやらこれもダメみたいだ。


彼女達と私の違いが分からないのだが声をかける人皆が同じように苦虫を噛み潰した様な表情で、まるで犬猫をあしらうかの如く追い払う為、恐らく私がやるのはダメなのだろう。


しかしそれでは何が悪いか分からない為そういう行為で稼いでる娼婦に問うてみれば「旦那様に悪いとは思わないの?」と返って来た。


何が悪いのか理解できないまま月日は過ぎ、それに比例して私のお腹が大きくなる。


まるで自分の身体なのに自分の身体じゃないみたいだ。


その不安を紛らわす様にアルキネスに当たり散らして、借りてはいけない所から私はお金を借り、それが原因でアルキネスが命がけで稼いできてくれたお金は全て消え去り、その手続きをしている時に火の消し忘れによるボヤをおこし、住む場所と暮らしていくお金を無くした私たちは逃げる様に人里離れた山の中の村へと移り住むことになった。


私の無知で起こした不幸であるという事は理解できたためアルキネスには申し訳なく思うと共に、献身的に私の相手をしてくれるアルキネスの姿が目に入るようになると好きになるのにそう時間はかからなかった。


むしろ今までの私がいかに嫌な女であるかという事が分かり、それと同時に過去の私の失態以上にこれからはアルキネスに、そして産まれてくる二人の赤ちゃんに尽くそうと、強く心に刻む。


そして、それからの暮らしは以前と比べて質素ではあるものの愛する者と暮らす日々はそれはそれで幸せであったし、今まで感じた事のない幸せの部類であった。


そんな日々が一生続けばいいなーなんて思っていたその時、ついに陣痛が始まり、それから日は沈み更に明けだす頃、待望の赤ちゃんが産まれた。


その赤ちゃんは私に似て綺麗なピンク色の髪をしており、獣人特有の犬の様な耳にしっぽが生えていた。


そして私はこの時初めて、自分が犯した罪の深さと、何故周囲がやってはいけないと否定的であったのか、そして娼婦の言った言葉の意味を理解する事ができた。

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