第107話【アイリーン:出産編】相当身にこたえている様である


王都から馬車で揺られて一週間ほどで目的の村へとついた。


アイリーンは大きなお腹で文句の一つも言わずによく堪えてくれたものである。


新しく暮らし始めた村では誰も住まなくなった一軒家を只で借りる事ができ、これが一陽来復であると願うばかりである。


因みに流石に只で借りるのは申し訳が無いと申し出た所家賃の代わりとして家を借りる代わりに破損個所や壊れかけている箇所等は自腹で修復する事、出ていく際は人が住める状態で返す事(火災や災害などは別)という条件を加えられたもののそれでも破格すぎると言うと『人が住まなくなった家は一年と持たずにダメになる。その事を考えれば儂からすれば只でも良いから住んで欲しいんじゃ』と帰って来た。


むしろ家というのが人が住まなくなっただけでこんなにも脆くなってしまう等、ある程度の事は分かっているとばかり思っていたのだが、まだまだこの世界には俺の知らない事があるのだと知れた日でもあった。


田舎での一日は大変である。


何より雪は比較的降らない地域と言えど、寒くない訳ではない。


村一番の若者であり他所者でもある俺は、まだ村の家畜達が起きだす前に山の上の方にある沢に張った氷を取り除き村へ水が行きわたる様にしたあとついでにかじかむ手をさすりながら水路掃除をする。


その後は家畜達に餌をやりコッコ鳥の卵を回収し、一日分の薪割りをする。


そしてそうこうしていると村人たちが起きて来るので挨拶をし、朝食を取る為に一旦家に帰るとアイリーンが厨房で火を起こしている所であった。


「アイリーンっ!!もういつ産まれてもおかしくないんだから寝てろってっ!お腹の子に何かあってからでは遅いんだぞっ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさいっ。で、でも貴方の為に何かしてあげたくてご飯だけでもと………」

「気持ちは嬉しいけど、これから嫌という程俺や産まれてくる子供に作ってあげる事ができるんだ。そう急ぐ必要も無い」

「そ、そうだね…………ありがとう。ごめんね?」

「もういいから、休んでおきな」


そして村に着いてからのアイリーンはというと人がまるで変わったかのような、付き物が落ちたかの様に態度や性格が変わってしまっていた。


どうやらあの一件が相当身にこたえている様である。


そして朝食に朝の仕事の報酬として頂いた卵二個と一週間前に村人たちと狩った猪型の魔獣で作ったパンチェッタ(生ベーコン)を焼き、黒パンの上に乗せたもの、そしてスープの代わりに白湯を二人で頂く。


これはこれで美味しいのだが野菜がそろそろ欲しい所である。


実家で暮らしていた時は冬でも野菜は食卓に出ていた為何一つ疑問に思わなかったのだが少し考えれば冬に野菜が育つはずがない。


恐らくは室内で、それも焚火や魔術師により空気を温めて育てた野菜であろう。


想像しただけでその野菜の値段がとんでもなく高い事が伺える。


それ程までに高価なものを俺は野菜は嫌いだと残し、両親も笑って使用人に下げさせていたという事を今更ながら知る。


なんと贅沢な事かと、今更ながら後悔の念が湧き出て来る。



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