第104話似た者同士

そして私は今春に咲く薔薇を中心とした様々な花達が咲き誇る場所、その中央左端にある白いベンチへと腰かけ、クロード殿下が来るのを待っていた。


時間が刻一刻と過ぎて行く度に心臓の鼓動は激しくなり、この場から立ち去りたいというわたくしの弱い部分が顔を出して誘惑してくる。


例え、今ここで逃げたとしてもクロード殿下は怒らないであろうし、きっと笑って許してくれるだろう。


しかし、今までそのクロード殿下の優しさを良い事にわたくしは逃げて来たのである。


そんな自分を変えたい。


それに、今日この日逃げてしまったらもう一生わたくしはクロード殿下へ『お慕い申している』という気持ちを伝えられない様な気がするし、恐らくそれは当たっているのであろう。


「すーはー………」


蓄積されていく緊張を吐き出すように深呼吸を一つする。


大丈夫。大丈夫。


そして、そうこうしていると男性の、それも姿勢が整った歩き方であろう事が伺えて来る足音が聞こえてくると同時にわたくしの心臓が更に一段と強く跳ね上がり、緊張から思わず両の手でスカートを握りしめてしまう。


「申し訳ない、少し待たせてしまったみたいであるな」

「いえ、わたくしも今来たところですから」

「そうか。では、隣に座ってもよろしいかな?」


足音の主はやはりクロード殿下であり、出会った当初から美しかったそのお顔立ちは、五年経った今ではその美しさに男性らしさが加わり見るだけで自然と頬が赤らんでしまう程のお顔立ちへと成長し、そのお顔をプライベートでも眺めていたいと側仕えのメイドにこっそりと写真を定期的に撮らせている事等クロード殿下は恐らく気付いてなどいないであろう(超絶にカッコいいですわっ!)


そして、耳に抜ける男性特有の低い声(その声を聴いただけで妊娠しそうですわっ!)


何時間でも聴けるその声も、録音魔術球にて側仕えのメイドに録音させ、写真を見ながらそのお声を堪能している事等クロード殿下は気付いていないであろう(最早わたくしの寝る前の日課ですわっ!)


何ならば、この約一年間にも及ぶ旅行にて陰ながら側仕えのメイド達に命令させて映像、写真、録音を隠し撮りしている事等気付いていないであろう(旅が終わってからの思い出の整理が今から楽しみで仕方ないですわっ!)


そしてこんな二人をクロード殿下の草達とリーシャの側仕え達は似た者同士のお似合いバカップルと認識されている事を二人は気付いていない。


「ええ、どうぞ」

「では、失礼するよ」


これ程までにお慕いしているわたくしのご婚約者様であるクロード殿下はいつも、わたくしが緊張でどうにかなりそうな気持などお構いなしな行動をとる。


今だってわたくしの隣へと隙間などない程密着して座ってくる。

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