第83話一緒に思い出を作って行こう





「わぁぁ…………っ!」


あれから一週間が経った。


速度よりも快適さを重視した為目的にこそ着くのは遅かったのだがリーシャと居れるだけで幸せである為移動に関しては何ら苦ではなかった。


馬車については前世の知識を生かしサスペンションをと思ったのだがそもそもまだこの世界はそこまで製鉄技術が優れている訳でも無く、試作品を何作品か作ってはみたもののバネが折れるか潰れるかしてしまい更に乗り心地が悪くなるという最悪の結果となった。


その為今現在は粘り気が強くて折れにくく、また反発力の高い金属を手探りで新たに作り出している段階である。


前世の知識を使ったチートといえどそれを作り出せる土台が出来ていないのだから致し方ない。


そんな事より、本日ようやっと目的地である赤沼へと到着出来た。


この赤沼なのだがこの沼の名前ではなく、この地域周辺にある無数の沼の事を赤沼と言うらしく、地域住民達のデートスポット兼観光スポットとして知られている様である。


因みに今回はこの地域を治める領主へ事前に連絡をいれてこの俺達が来ている赤沼は本日のみ貸し切りにしてもらっている。


貸し切りで申し訳なく思っていたので実際はどうなのか聞いてみた所『クロード殿下が来たと箔がつきますし、何より婚姻をする旨を発表されたお二人が来たとなれば更に観光客の増加を見込めるだけでなく、長期にわたってそれらを宣伝出来ると考えれば感謝しかございません』とのことである。


そしてリーシャは今、目の前に広がる水浮草に咲く花の鮮やかな赤色と冬を超え若葉を生い茂らせ始めた黄緑色の作り出した絵画の様な美しい光景に言葉を発する事も忘れて釘付け(その姿も可愛い)の様である。


そんな、この美しい景色に魅入っているリーシャの代わりにシャルロットが話しかけてくる。


「こんな美しい場所があったなんて知りませんでしたわ」

「そうであろう?あの日から忙しい合間を縫って王国各地について調べて来た甲斐があったと言うものである」

「流石ですクロード殿下。私もクロード殿下を見習ってよりリーシャ様の為に動けるように精進致しますわ」

「まぁ、程々にな」


そして俺はシャルロットの、リーシャに対する忠誠心の高さに若干驚きつつリーシャの元へと歩いて行く。


「この景色は想像以上に美しいな、リーシャ(特にリーシャがこの景色に加わる事により、より一層美しく見えてしまうな)」

「は、はいっ!クロード殿下っ!未だ王都から出たばかりなのですがこの一週間様々な事を見て、知る事ができましたわ」

「はは、まだ一週間であるぞ。これからこうして二人で一緒に思い出を作って行こうではないか」


そして俺とリーシャはどちらからとも丸太を半分に切っただけの簡易な椅子に座り、手を繋ぎ二人肩を寄せ合いながらこの景色を堪能するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る